ショートショート「古墳症」※毎週ショートショートnote3/8お題
「奇病?」
私は、丁寧に刷毛を振るいながら教授に尋ねる。
鬱蒼とした木々の間で、額にねっとりとした汗を浮かべ、古代の遺構に積もった土を払いながら、二人で雑談していた。
大半は聞き流す価値しかないものだったが、教授が発した言葉に、つい反応した。
「そう、奇病。埴輪ってあるだろ?古墳研究家の中には、埴輪のように感情をなくして、自我を失う者が時々いるんだよ」
振り注ぐ蝉時雨の中、背中を向けて作業している教授の声が、やけにはっきりと聞こえる。
「古墳って、王の墓だろ。その墓を守る埴輪ってのは、周囲を囲むように配置されていることが多い」
ギラギラとした日差しは確かに振り注いでいるのに、木々に遮られて木漏れ日を僅かに届けているに過ぎない。
「つまりは、『結界』だ。それが、今じゃ年月によって破壊されてるんだよ」
蝉の声がやんでいる。
風が囁くように、うなじを撫でていく。
「結界が消えた今、封印された王を守るために、何が代わりを務めるか…」
冷え切った汗が、背中を蛇のように伝っていく。
「…あれは、奇病なんかじゃないよ」
教授の表情が、埴輪のようになっているのを想像してしまい、頭を振った。
私が視線を戻すと、土の中から埴輪の底抜けの闇が覗いていた。
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