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エッセイ「病、痛み、そして喰らう」



 キリキリと、ジワジワと、予兆が胸に広がっていく。
 胃液がこみ上げてくるような、熱湯を一気飲みしたような、そんな予兆。
 この後に襲うのは、胸の痛み。
 締め付けられ、わしづかみにされる痛み。
 こうなると、しばらくは悶え苦しむ。
 何をしても逃れることはできない。
 ただ、痛みが過ぎ去るのを、無駄だと分かっていながら身体をあちらこちらに捻って耐える。
 20分は過ぎただろうか。
 長いトンネルに光が見えると、おまけのように頭痛が始まる。
 大量の唾液が口に溢れる。
 涙目になりながら、トンネルを抜ける。
 全てが過ぎ去り、ようやく忘れていた呼吸を意識することができる。

 食道アカラシア。
 この症状と付き合って、もう15年が経った。

 最初は、胸筋が攣ったのかと思っていた。
 あまりにも頻繁にあるので、病院に行ったら、逆流性食道炎の診断。
 胃カメラを何度も飲んだ。
 鍛えようがない内臓に、無理矢理管を通すそれは、屈辱と耐え難い苦痛をもたらした。
 これは無理と、鎮静剤を使用すると多少はマシになった。
 それでも原因は分からない。

 やがて、就寝後に咳と同時に食べたものが吐き出されるようになった。
 食べ物が、喉の奥に詰まっていた。
 1ヶ月苦しみ、まともに寝られなかった。
 かかりつけ医に相談すると、大学病院での検査を紹介された。
 色んなものを飲まされ、抜かれ、ぐるぐると回された結果、「食道アカラシア」と診断された。
 命にかかわるものではないが、食道の収縮に異常が生じ、詰まってしまう病気。
 レーザー切開による手術が有効であるが、施術可能な病院は、数えるほどしかない。
 幸い、比較的近場の大学病院を紹介されたので、そちらに向かう。

 そこでも、胃カメラを飲まされ、ウィトルウィウス的人体図よろしく、薬を口に含んだままグルグルと回転させられる。
 食道アカラシアと診断された。
 うん、知ってる。
 
 手術が決まり、入院した。
 手術はつつがなく終了した。
 術後は、麻酔が切れると地獄だった。
 胸の痛みが常にあった。
 何より、1週間の絶食が堪えた。
 美味しいものを食べることが何よりの趣味だった自分にとって、それは拷問に近かった。
 つわりに苦しむ方々に、心の底から畏敬の念を抱いた。
 やがて、病院食が許可された。
 食べられることに、飲み込めることに感動して、泣いた。
 
 三年後、胸の痛みの予兆が襲う。
 再発した。
 これ以上は有効な治療はないと言われている。
 最も酷かった時期までには至らない。
 だけど、胸の痛みに苦しみ続けている。
 医者からも、食道アカラシア自体は完治した診断となり、痛みはどうしようもないと匙を投げられた。
 
 色々と試したところ、予兆を感じたら大量の炭酸水かお茶を飲むと、痛みが引くことがあると分かった。
 運が悪ければ、結局悶え苦しむことになる。
 あとは、痛み止めが効くことがあり、常に持ち歩いている。

 結局、この症状とは一生の付き合いになりそうだった。
 だけど、まだ今は好きなものを食べることができている。
 まだまだ、知らない美味しいものを食べていたい。
 食事制限ダイエット?
 「食べることが出来ない」を経験した今、自ら食べないを選択するなど、お断りだ。
 いずれ、また食べられなくなるのに。
 だから、これからも食べてやる。
 生きる糧を食らい続ける。
 
 そんな独り言を、ひとりごつ。







あとがき

 もし同じような症状で悩んでいる方へ。
 胸の締め付けや、食後の詰まり感、夜間の逆流などが続く場合、「食道アカラシア」の可能性もあります。
 私自身、逆流性食道炎と診断され続け、確定まで5年かかりました。

 気になる方は、消化器内科や大学病院での検査を検討してください。








 


#身体についてのひとりごと

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