ショートショート「文学茶釜」※毎週ショートショートnote 11/23お題
「文学は死んだ」
目の前の文豪―――阪本莞爾は、そう呟いた。
「先生、お茶です」
僕は、その呟きを無視して、湯気が揺れる湯呑みを机に置く。
阪本は、片眉を器用に上げて、僕を振り返る。
「………ありがとう」
何か言いかけて、諦めたように湯呑みを手に取り、一口飲む。
「……うまい」
「先生が先日購入された、南部鉄器の茶釜で湯を沸かしました」
「なるほど」
気難しい阪本の纏う空気が、茶に温められてほどけていく。
「ふむ。深い緑をたたえて、湧き立つ香気と滋味が五感を優しくつついてくれる。いい仕事だ」
「ありがとうございます。先生、文学はまだ生きてますよ」
素直に褒め言葉を受け取り、執筆を促す。
「わかったわかった。書くよ。君のおかげで、書生が主人公の良い話が浮かんだ」
「良かったです。先生の文学は、日本の宝ですから」
満更でもない表情で鼻を鳴らし、ペンが走り始める。
「先生の文学が売れるほど、僕の給料が上がりますしね」
「たぬきめ」
僕の呟きに、阪本の呆れたような声が響いた。
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