Photo by
kohshi2812
田毎の月とビル毎の月
新橋で夕方に友人を待っていると、傾いた夕日がビルのガラスに反射している。近ごろは建築家の好きなガラス張りの高層ビルが増えた。あちらのビルには夕日が映っているが、他のビルにも夕日は映し出されているか見渡す。見渡しながら、「田毎の月」ということを連想した。姥捨山などの棚田のある所では、あちらこちらの棚田の水面に夜半の月が映って美しいと聞いている。
いくつかの棚田に同時に映し出される満月はさぞや壮観だろう。水を張ってから田植え前の情景だろう。
しかし、本当にそんなことがあるのだろうか。田の水面は、皆水平を保っている。光学的にはあり得ない話のようだ。満月が映る棚田はひとつだけ、水面に映る満月は、ひとつというのが本当だ。三面鏡のように反射面が違うなら、同時に複数の月が見られるが、水面ではあり得ない。現実はちょっと寂しい。
田毎の月とは、棚田を歩きながら、満月が次々と田毎に移り変わる様を言っているのだろう。陽気が温かくなった頃に、夜、棚田を歩きながら次々と移り変わっていく月を追いかけるのにロマンを感じる。
新橋のビルはどうか。三面鏡のようにビルのガラス面が異なっていたら、複数の夕日がビルに反射することもあり、「ビル毎の月」が立ち止まったまま見られるかも知れないが、あの待ち合わせの日には、そんな光景は見られなかった。都心のビル群を歩き回ると、満月が複数のビルに同時に映るのが見られる場所が見つかるかも知れない、と他愛もなくつぶやいている。
