SNSの守護天使:第2章5節
その瞳に光る雫

“Luminous Tears”
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2013-03-28T12:15:00-07:00食堂の窓から差し込む午後の日差しが、穏やかな光を作り出していた。
昼休みの時間帯、人々の談笑や食器の触れ合う音が響いている。
しかし、その中で、マーカスとアンジェラが座る隅のテーブルだけは、妙な静寂に包まれていた。
マーカスはカップを傾けながら、無言でコーヒーを口に運ぶ。
一方のアンジェラは、スプーンでカップの縁を軽く叩きながら、じっと彼を見つめていた。
その視線に気づかぬふりをしていたが、さすがに無視しきれなくなり、マーカスは小さく息を吐く。

「……何だ」
渋々顔を上げたマーカスに、アンジェラは柔らかく微笑んだ。
「観察中よ、今のリアクションも記録済み」
「観察?」
「ええ。マーカスって、他人の視線に敏感よね」
「……まあな」
マーカスは淡々と答え、再びコーヒーに視線を落とす。
「仕事柄?」
「……別に」
「昔から?」
「さあな」
短く返すだけのマーカスとは対照的に、アンジェラは楽しそうに微笑んでいる。
まるで、彼の反応そのものをデータのように収集しているかのように。
マーカスは眉をひそめた。
「何が言いたい?」
「別に。ただ、少し気になっただけよ」
アンジェラは軽く肩をすくめ、コーヒーをひと口飲む。
その後、少しの沈黙が流れた。
だが、彼女の視線はまだマーカスをとらえたままだった。
「……ねえ?」
「……何だ」
アンジェラはカップを置き、指でその縁をなぞる。
「あなたのこと、ファーストネームで呼んでみてもいい?」
マーカスは一瞬、カップを持つ手を止める。
「──どうして?」
「苗字で呼ぶのも悪くはないけど、ちょっと距離がある感じがするから」
アンジェラは軽く首を傾げる。
「ほら、私たち、もう少し打ち解けてもいい頃だと思わない?」
マーカスは数秒間、無言で彼女を見つめた。
カップの中でコーヒーがゆるやかに揺れる。
「……好きにすればいい」
「じゃあ、試しに呼んでみるわね……“ジョン”?」
アンジェラが、少し探るような声音で名前を呼ぶ。
彼の表情の変化を逃すまいと、じっと観察しているようだった。
マーカスはほんの一瞬だけ眉をひそめたが、それ以上の反応は見せなかった。
「……勝手にしろ」
「よろしい!」
アンジェラは満足そうに微笑み、カップを再び手に取った。
だが、マーカスは無言のままコーヒーを飲み、気づかれないように小さく息を吐いた。
「そういえば──」
アンジェラがカップを傾けながら、ふと呟く。
「1日のM社創業記念パーティー、行くの?」
四日後の4月1日──今やIT業界最大手との呼び声高いM社の創業記念パーティーは、シリコンバレーの最高級ホテル"ザ・オレオール・グランド・サンフランシスコ"を丸ごと貸し切って開催される。
そこには、メディアで頻繁に取り上げられるM社の創業者兼社長、サイモン・エヴァンスの姿もあるだろう。加えて、政財界の大物、ハリウッドの有名俳優、世界的なアーティストなどが一堂に会する"華やかな社交の場"となる。そしてエグゼジェネシスの参加メンバーも、特別ゲストとして招待されていた。
「ああ、勿論」
マーカスは淡々と答える。
「もともと、この仕事を受けたのも、人脈作りのためみたいなものだしな」
「そう……なんだ」
アンジェラは小さく頷きながら、少しだけ視線を落とした。
「……私は迷ってるの」
「なぜ?」
「こういう場、あまり得意じゃないから」
「意外だな」
マーカスは軽くカップを揺らしながら、アンジェラを見た。
「カタギリは社交的なタイプかと思ってたが」
「そう見えるかもしれないけど、実はそんなことないのよ」
アンジェラは苦笑する。
「それに、ジェイコブも興味ないって言ってたし、来ないみたいだから」
マーカスは鼻で笑った。
「はっ、アイツらしいな」
「でしょ?」
アンジェラも微笑むが、その表情には少し迷いが残っていた。
マーカスはそんな彼女の様子を横目で見ながら、カップを傾ける。
パーティーが苦手なのか、それともジェイコブがいないことが引っかかるのか──
どちらにせよ、あまり気にすることでもないだろう。
少しの沈黙の後、彼女はふと顔を上げる。
「……エスコートお願いしていいかしら?」
マーカスはカップを飲みかけたまま、アンジェラを見た。
「どういう意味だ?」
「一人で行くのもちょっと気が引けるし。ほら、ジョンならそういう場に慣れてるでしょ?」
アンジェラは手を合わせて頭を下げる。
マーカスは短く息を吐き、わずかに考えた後、静かに答えた。
「……慣れてはないが……いいぞ」
「ほんと? ありがとう」
アンジェラは嬉しそうに笑い、礼を言った。
だが、マーカスは目を合わせようとしなかった。
彼の視線が微妙に逸れていることに気づき、アンジェラはゆっくりとカップを置く。
「ねえ、ジョン」
「……何だ?」
「はじめはただの人見知りかと思ったけど……もしかして、女性が苦手……とか?」
その言葉が、彼の脳裏に焼き付いていた"記憶"を呼び覚ました。
「はいはい、天使ちゃん、泣かないの。いい子ね…そう、ママがいるからね……」
"母親"の姿が脳裏をよぎる。
"母親"だと信じた女。
すべてが偽りだったという冷酷な事実。
彼の心に刻まれた拒絶。
マーカスは無意識に拳を握る。
関節が軋む音が聞こえるほどに、強く。
アンジェラはその様子に気づき、そっと顔を覗き込む。
「……どうしたの?」
マーカスはハッと我に返る。
自分の手を見ると、指の先が白くなるほどに力を込めていた。
一拍の沈黙。
彼は拳をゆっくりと開き、抑え込むように静かに呟く。
「……カタギリ博士」
先ほどとは打って変わった、冷ややかで硬い声音だった。
「──心理学者の癖なのか知らないが……俺は……分析やら観察をされるのは、率直に言うと気分が悪い」
アンジェラははっと息を呑んだ。
これまで何気なく話していた会話の流れが、一瞬で緊張感を帯びる。
「……そんなつもりじゃなかったの。ごめんなさい」
彼女は静かに謝罪した。
だが、マーカスはすぐに返事をしなかった。
沈黙が落ちる。
先ほどまでの軽やかなやり取りが嘘のように、張り詰めた空気が二人の間に広がった。
やがて、マーカスは短く息を吐く。
「……いや、俺も言い過ぎた。すまなかったな、アンジェラ」
その言葉に、アンジェラは驚いたように顔を上げた。
「……今、アンジェラって呼んでくれた?」
マーカスは僅かに眉を寄せる。
「……“打ち解けてもいい頃”なんだろ?」
アンジェラは小さく微笑み、カップを持ち上げる。
「じゃあ、来週エスコートお願いね。ジョン」
その言葉に、マーカスは一瞬だけ目を細めたが、何も言わずにカップの中のコーヒーを飲み干した。
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2013-04-01T18:30:00-07:00シャンデリアの光が天井から降り、バンケットの隅々まで満たす。生演奏の弦が低く響き、一流シェフの皿が運ばれ、グラスにはワインが注がれていく。金と声と光──この夜のために用意された温度だ。
巨大なホールには、世界中の要人、企業のトップ、研究者、政治家が集まり、静かな談笑が交わされていた。その最中、ステージの照明が落ち、一人の男を照らす。
サイモン・C・エヴァンス。
M社の創業者であり、現CEO。
長身。整った顔立ちに、きっちり撫で付けたブロンド。
黒のスーツと細縁の眼鏡──無駄がない。
彼が立つだけで、空気は持ち主を変える。
マイクスタンドの前に立ったサイモンが一言発するや否や、会場は一瞬にして静まり返った。

「皆さま、本日は弊社の創業10周年記念パーティーにご出席いただき、誠にありがとうございます」
低く落ち着いた声。柔らかくも力を帯びている。
「2003年、私はこのシリコンバレーの小さなオフィスで、わずか数人の仲間とともにSNSサービス“PEOPLES”を立ち上げました。当時の私たちは、世界中の人々をつなげるという夢だけを胸に抱いていました。そして10年、こうして皆さまと未来を語る日が来たことを、心より光栄に思います」
彼のブルーグレーの瞳が、聴衆をゆっくりと見渡す。
「M社は次の大きなステップへ進もうとしています。
世界中から集まった研究者とともに取り組んでいる壮大な挑戦──それが“エグゼジェネシス”です」
その名が放たれた瞬間、会場がざわめいた。
詳細がほとんど明かされない謎の計画。
サイモンはその反応を見透かすように微笑み、続ける。
「私たちが目指しているのは単なる技術革新ではありません。人々を縛る“無知の鎖”を断ち切り、自由の可処分範囲を広げる。それが、私たちのAIです」
わずかな歪みが空気に走る。だが、サイモンは構わず言葉を重ねた。
「“知”こそが真の解放をもたらします。AIを通じて人類が自らを再定義し、新たな形で世界と向き合う未来を切り開く。それが、このプロジェクトに込めた願いです」
静寂のあと、拍手が広がる。
それは称賛というより、宣告への応答のようだった。
サイモンがグラスを掲げると、会場は再び光を取り戻す。
その中心で、彼だけがわずかに遠い世界を見ていた。
──スポットが消える。
「やれやれ……お偉方はすっかりご満悦みたいだな」
マーカスが低く呟いた。
隣でアンジェラは無言のままステージを見つめている。
墨黒のマットサテンのドレス。髪はタイトにまとめ、光を静かに弾く。
その瞳には、まだ消えぬ光の残響があった。
「ねえ、今の“無知の鎖”って、グノーシス主義を意識してるように聞こえたけど……考え過ぎかしら?」
「ほう、さすが博識だな」
マーカスは意外そうに眉を上げる。
アンジェラは肩をすくめてみせた。
「エヴァンス社長の言葉……まるで、人類は“無知という牢獄”に囚われていて、“知”こそが解放だって──そんな風に聞こえたの」
「博士号は伊達じゃないってことか」
マーカスは笑い、グラスを軽く回す。
「俺たちの業界じゃ、わりと有名な話さ」
ふと声が低くなる。
「いくらエヴァンスが天才経営者でも、十年であの規模は異常だ。資金の回り方が違う。規制産業への同時多面参入、承認スピードも桁違い。どこかで、資本と行政の配線が直結してる──そんな手触りだ」
アンジェラは小さく息を呑む。
「……つまり、背後に誰かが?」
「財団か、国家か……もしくは、もっと閉じたネットワークだな」
アンジェラは苦笑した。
「それ、ただの陰謀論よ。よくある“闇の企業神話”じゃない」
「よくある……ね」
マーカスは薄く笑う。
「でもな、俺の会社もM社傘下のPMCだ。兵器開発を扱う民間軍事会社を抱え込む狙い──考えたことあるか?」
アンジェラの表情がわずかに曇る。
彼女の知るM社は、知能と情報の象徴だった。
だが、軍事と繋がるその構造は、想像していた以上に冷たい。
「……それは……」
「少なくとも“世界平和”じゃない。エヴァンスのスピーチを聞けば分かる。目的は別の場所にある」
マーカスの声には、諦めと洞察が同居していた。
アンジェラはグラスを手に、視線を落とす。
「……確かに。あの規模の研究資金、説明がつかない。“表の目的”だけでは動かないわね」
「だろ?」
マーカスは笑った。だが、その瞳に愉快さはなかった。
「結局、俺たちはコマだ。動かされてるだけ。知らない方が幸せかもしれん」
アンジェラは彼の言葉に微かな震えを感じた。
「……でも、あなたは気にならないの?自分たちが何を作らされているのか」
マーカスは空のグラスを回す。
「どうだろうな。知るべき時が来たら、嫌でも突きつけられるさ」
その瞳に浮かぶのは、疲労と、ほんの少しの諦念。
「それに……“知らぬが仏”って言葉もある」
「“知らぬが花”じゃなくて?」
アンジェラの即座のツッコミに、マーカスはふっと笑った。
「……いや、“仏”だろうな」
沈黙が落ちる。
会場には笑い声とグラスの音。
だが、この二人だけが、別の温度にいた。
──“AIによる人類の再定義”。
私たちが創ろうとしている“それ”は、祝祭の光に似た欺きか、それとも真の始まりか。
煌めく照明の下、アンジェラの視線だけが、誰よりも遠くを見つめていた。
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2013-04-01T19:45:00-07:00パーティーも中盤にさしかかり、華やかな笑い声と音楽が響き渡る中、アンジェラとマーカスは、喧騒を離れ、バルコニーへと足を向けていた。
関係者への一通りの挨拶を済ませた後、二人は無言のまま、夜の風に吹かれていた。
「……賑やかすぎて落ち着かないな」
マーカスがぼそりと呟き、手にしたグラスを軽く回す。
アンジェラは微笑みながら、同意するように頷いた。
「私も、こういう場は得意じゃなかったから今日は助かったわ」
「こちらこそ、とびきりの美女をエスコートできて光栄だった」
マーカスは冗談めかした口調で言い、肩をすくめる。
「ふふっ……恐れ入ります」
アンジェラはくすりと笑い、グラスを傾ける。
その仕草を見ながら、マーカスがふと思いついたように言葉を続けた。

「で……どうなんだ?ジェイコブとは」
唐突な問いに、アンジェラの動きが止まる。
「……何のこと?」
とぼけるように微笑むが、声の調子が僅かに不自然だった。マーカスは肩をすくめ、呆れたようにグラスを傾ける。
「お前なあ……他人のことはよくわかるくせに、自分のことはさっぱりわかってないんだな」
「……どういう意味?」
「誰が見たって、お前らお互いに気があるの丸わかりだぜ?」
アンジェラは一瞬、口を開きかけたが、何も言わずにグラスの中の液体を見つめた。
「そんなこと……」
「あるんだよ」
マーカスは断言し、グラスを軽く揺らす。その余裕げな態度に、アンジェラは視線をそらし、夜の闇へと目を向けた。
「……そんなふうに見える?」
「見えるも何も、周りはとっくに気づいてるぞ。お前ら二人だけだよ、まだ気づいてないのは」
アンジェラはわずかに苦笑した。
「……私が、彼を特別に思ってるのは認めるわ。でも、それが"好き"っていう感情なのかは……まだ、よくわからない」
マーカスは鼻で笑い、軽くグラスを傾ける。
「ほら出た。頭で考えすぎる悪い癖だ。いいか、お前は心理学者なんだから、自分の感情くらいちゃんと分析してみろよ」
「……そんな簡単に割り切れるものじゃないわ」
アンジェラは小さく溜息をつき、グラスを揺らした。彼女自身、その気持ちに気づいていないわけではなかった。ただ、それを"恋"と認めるのが怖かったのかもしれない。
「……そうね。少なくとも、彼のことは誰よりも大切に思ってる」
「それで十分だろ」
マーカスがにやりと笑い、グラスを掲げる。アンジェラはそれを見て、ほんの少し微笑みを返したものの、その表情にはどこか影が差していた。
「でも、ジェイコブの気持ちが、いまいち分からないの」
「どういうことだ?」
アンジェラは指でグラスの縁をなぞりながら、ゆっくりと話し始める。
「私のことを大切に思ってくれているのは、なんとなく伝わってくるわ。でも、それ以上進展しないの。仕事の話以外、何も話さないのよ。休日に偶然会っても、業務の延長みたいな会話ばかりで……」
月明かりに照らされたアンジェラの横顔には、ほんのわずかに不安の色が滲んでいた。
「それに……彼が……ロボットやAIの研究を始めたきっかけが、"友達が欲しかったから"なんですって……」
「ほう、それは初耳だが……ジェイコブなら、さもありなん、て感じだな。で、それがどうした?」
アンジェラは俯き言いよどむ仕草を見せたが、ゆっくりと言葉を絞り出す。
「だから……その……大切に思ってくれてるのも、"友達"として……とかだったりして?……もしかして、私の片思いなのかしらって……」
その言葉を聞いた瞬間、マーカスは突然、腹を抱えて大笑いした。
「はははっ、なんだそれ!」
アンジェラはムッとした表情になり、頬を膨らませて拗ねたように睨む。
「何がおかしいのよ!私は真剣に悩んでいるのよ!」
マーカスは笑いを収め、肩をすくめながらグラスを傾けた。
「悪い悪い。でもよ、お前、自分が何に悩んでるのか、わかってるか?」
「……どういうこと?」
「考えてみろよ、あのジェイコブだぜ?十中八九、これが初めての恋愛だ」
アンジェラは目を瞬かせる。
「初めて……?」
「そうだ。お前のことを大事に思ってるのは間違いない。でもな、どうしていいかわからないんだろうな」
マーカスはグラスを傾け、さらりと言った。
「あいつのことだ……ひょっとしたら……」
彼はじらすようにニヤニヤしながら、わざとらしく間を置いた。アンジェラはごくりと唾を飲み、緊張した眼差しで先を促した。
「……わりと真剣に……」
さらに声のトーンを落とす。アンジェラは息を詰め、じっと彼を見つめる。
「……アンジェラ、ププ、カタギリ、ロボ……の、設計に取り掛かっているかも……な……」
「えっ?」
一瞬の沈黙の後、マーカスは耐えきれず吹き出し、大笑いし始めた。
「ダメだ、我慢できねえ!」
アンジェラは顔を真っ赤にして、今にも泣き出しそうな表情を浮かべる。
「ホントにひどい!からかうならもっとマシなことにして!」
マーカスは笑いすぎて、うっすら涙を浮かべていた。
「わかった、ここからは真剣なアドバイスだ」
そう言って、彼は掌を軽く上げ、アンジェラを制するようにして息を整える。
「確かにアイツは本物の天才で変人だ。それ故、何を考えてるのか、どういうアクションに出るのか予測不能だ。なにせ友達が欲しいからって、設計から取り掛かるようなヤツだ」
アンジェラは何度か首を縦に振る。
「だが、客観的に見て……アイツがお前に好意を抱いているのは間違いない。そしておそらくアイツ自身、その好意が恋愛感情だと認識できていない。つまり、アイツは今、未知のフィードバックにより、処理に困っている」
マーカスはアンジェラの反応を探るように彼女の瞳を覗き込む。
「だったらどうするか?もう分かるな? ──教育するんだ。人口知能黎明期のエキスパートシステムのように、手取り足取り、な」
アンジェラは戸惑ったようにグラスを握りしめる。
「教育って……どうすれば……?」
「そうだな……」
マーカスは少し考えた後、口角を上げた。
「例えば、何かきっかけを作るのもアリだ。ちょうどいい機会がある」
アンジェラは首を傾げる。
「機会?」
「もうすぐジェイコブの誕生日だ。俺がシフトを調整して、二人とも非番にしておくから、ジェイコブを部屋に招待して祝ってやったらどうだ?」
アンジェラは目を丸くした。
「え……そんな、いきなり?部屋に?」
「この口実が使えるのは年に一度だぜ?それとも、来年まで待つ気か?」
アンジェラはしばらく考え込んでいたが、やがてゆっくりと息をついた。
「……わかった。やってみる!」
マーカスは満足げに頷く。
「よし、その意気だ。ただし……」
「ただし?」
「……俺にもどうなるかはわからん。というか、アイツがどう反応するのか、まるで予測不能だ」
マーカスは肩をすくめ、グラスを軽く揺らす。
「何よそれ!恋愛マスター感出しといて」
アンジェラは本日数度目の泣き顔で抗議する。
「恋愛……か。俺は女をそれなりに知ってるつもりだが……恋愛とは違う」
マーカスはグラスを傾けながら、一瞬口を噤む。
氷がぶつかり、乾いた音がひとつ、夜気に弾けた。
──俺は今、楽しんでるな。
こんな風に気を緩めて、誰かと他愛もない話をするのは、いつ以来だろう。
母を殺した、あの日以来。
それを思い出した瞬間、心の奥に沈めたはずの冷たい鉛が、喉の奥に張り付くような感覚を残した。
「どういうこと?ジョンってそこそこいい歳よね?ルックスもハッキリ言ってイケてるほうだし、エリート技術者だし、モテないわけないでしょう?」
アンジェラの率直な問いかけに、マーカスは一瞬視線を逸らし、グラスの中の氷を回した。
冗談めかしてはぐらかそうとしたが、その言葉が喉に引っかかったまま出てこない。
「いや……俺は女を……」
"あの日"、マーカスの中に芽生えた絶対的な不信感が蘇る。
特に女性に対しては、自分でも気づかないうちに無意識に防壁を築くようになっていた。
"あの日"の記憶が、そうさせたのかもしれない。
いや──違う。
そうしなければ、やっていけなかった。
その瞬間、ふと表情が翳る。
アンジェラは不思議そうに首をかしげた。
「どうかしたの?」
マーカスは一瞬迷ったが、苦笑してグラスを揺らす。
「……なあ、アンジェラ」
その声は、どこか遠い過去を見つめるような響きを持っていた。
「お前は、施設育ちだって言ってたよな」
唐突な問いだったが、アンジェラは驚くこともなく、静かに頷いた。
「ええ、そうよ。でも、私は幸運だったわ。あの時、助けてくれた人がいたから」
「そうか──」
マーカスは視線を夜空へ向けた。
「俺はな、ずっと“母さんにまた会える日が来る”って信じてたんだ」
アンジェラは彼の横顔を見つめる。
「ジョン……?」
「……俺には、忘れられない光景がある」
マーカスは、ゆっくりとグラスの中の酒を揺らしながら語り始めた。
「柔らかな光が差し込む部屋の中で、俺は泣いていた。次の瞬間、温かい腕が俺を抱き上げた」
その情景が、まるで今そこにあるかのように鮮やかに蘇る。
「抱き上げてくれた人はいつもこう言ったんだ……“はいはい、天使ちゃん、泣かないの。いい子ね……”ってな」
甘い花の香り。柔らかな髪。陽だまりのような瞳が、いつも自分を見つめていた──
そしてその奥には、確かに愛情が宿っていた。
──だからこそ、あの瞬間、俺は……
彼はずっと祈っていた。母がどこかで幸せに生きているように。
そして、自分が“天使のように清らか”であり続ければ、いつかまた会えると──そう信じていた。
マーカスはふいに視線をアンジェラに向けた。
「……アンジェラ、最初に言ってたよな。あのプログラミングコンテストの話」
アンジェラはハッとする。──そうだ、プロジェクト初日の業務後、自分が語ったあの話。
若干15歳で最優秀賞を取った少年の名前を、彼女は決して忘れなかった。
「俺があれに出たのは、教師に勧められたからだ。あの頃の俺は、自分で言うのもなんだが、絵に描いたような優等生だった。施設育ちの苦学生で、まあ、人生を変えるきっかけになるだろうって言われてな」
アンジェラは無言で頷く。
「その気になって徹夜でプログラムを書いた。結果、最優秀賞に選ばれ、テレビや新聞にも取り上げられた」
グラスの中の赤い液体が、ゆらりと揺れた。
「──それがきっかけだった。“私の天使へ”ってメールが届いたのは」
アンジェラの胸がざわつく。マーカスの声は淡々としているようで、どこか押し殺すような気配があった。
「最初は信じられなかった。いや……信じたかったんだ。“母さんが俺を見つけてくれた”って」
彼はふっと笑った。だが、それは笑顔とは到底呼べない。
「会いに行った。指定された場所へ──ゲットーの中の、ゴミ溜めみたいなボロ家だった」
グラスが静かにテーブルへ置かれる。マーカスは両手を組んだ。
「そこにいたのは……俺の記憶にある“母親”とはまるで別人だった。酒とタバコの臭いをまとい、歯の抜けた、薄汚い女だった」
アンジェラは喉の奥がつまるのを感じる。
「……生活の苦しさで変わってしまったのかもしれない。そう思おうとした」
マーカスは夜空を見上げた。星が滲むその視界に、かすかな怒りが光る。
「でもな。その女は俺の顔を見るなり、こう言ったんだ」
彼の目が鋭く細められる。
「“ニュースで見たけど、あんた──賞金、相当もらったんだって?”ってな」
アンジェラは息を呑む。
「……俺は信じてたんだ。母さんは、どうしようもない事情で俺を手放したんだって。でも現実は、違った」
拳が、静かに震えながら握られる。
「俺は誇れる息子でいたかった。だから賞金は、施設に寄付したんだ」
言葉の隙間に、後悔がにじむ。
「……それを伝えたら、その女は激昂した。罵声を浴びせ、そして──ずっと伏せられていた真実を、投げつけてきた」
アンジェラの瞳に、熱いものが浮かぶ。
「“天使ちゃん”──それは、俺の愛称なんかじゃなかったんだ」
マーカスは口の端をわずかに歪めた。しかしその表情は、笑みというにはあまりにも痛々しかった。
「売春宿で生まれたガキを指す隠語だった。……俺の母親は娼婦で、俺が母親だと思っていた人は、ただの“世話係”。赤の他人だったんだとさ」
その声は、もはや吐き捨てるようなものだった。
そして次の瞬間、マーカスはまるでそこに何かが見えているかのように両の掌を見つめた。
苦悶の表情が顔に浮かび、押し殺すような声が漏れる。
「……それ以来、俺は……女が……」
言葉が詰まり、喉が焼けるように痛む。こびりついた嫌悪感が、口にすることすら拒んでいた。
マーカスは唇を噛んだ。皮膚が切れそうなほどに。
「……彼女は?」
アンジェラの静かな問いかけに、マーカスはわずかに目を伏せ、拳を強く握りしめた。
「……“死んだ”よ。“強盗に入られて殺された”らしい。アバズレにはお似合いの死に様だ」
彼の拳は、かすかに震えていた。
アンジェラは迷いなく、その拳を包み込むように手を重ねる。
マーカスはゆっくりと顔を上げた。彼女の頬には、一筋の涙が、夜の静寂に溶けるように伝っていた。
「……あなたは、とても傷ついたのね」
その言葉は、ただの慰めではなかった。
それは、彼の痛みを理解した者だけが言える言葉だった。
マーカスは息を詰まらせる。その瞬間、彼は気づいた。
自分も──涙を流していたことに。

「くそ……なんで涙が……こんなもの、とっくに枯れたはずなのに……」
声が震えた。頬を伝った雫が、拳を握る手の甲にぽつりと染みを作る。
それを振り払おうと、荒々しく手の甲で拭った。しかし、涙は止まらない。拭うほどに溢れてくる。
アンジェラはそっと息を吸い込み、慎重に言葉を選びながら口を開いた。
「ジョン……気を悪くしたらごめんなさい。私はあの時……あなたが“あの”ジョン・マーカスだと知っても、あの時のインタビューで私に──いいえ、同じ境遇の多くの子供たちに希望を与えてくれた彼と、同じ人間だとは思えなかったの」
マーカスはぴくりと肩を震わせ、涙の滲んだ目でアンジェラを見つめた。
「……そりゃそうだろう」
彼は自嘲気味に笑い、口元を歪ませる。
「俺は、ある意味あの時に“死んだ”んだよ。甘ちゃんでおめでたい“天使ちゃん”は死んだ。代わりに、血も涙もない“人もどき”が生まれたんだ」
彼の声は静かだった。
しかし、その静けさの奥には、深い怒りと絶望が滲んでいた。
アンジェラはマーカスの目を真っ直ぐに見つめながら、一歩近づいた。
そして、静かに言葉を紡ぐ。
「その通りよ、ジョン。あなたの心は理不尽に殺されたの。希望を信じ、母親の愛を信じていた“天使ちゃん”は、無慈悲な現実によって無惨に殺された」
マーカスの拳が、無意識のうちに震えていた。
「……だったら、なんで今さら俺は……」
「あなたの涙は、失われたものを悼むためのものよ」
アンジェラは震えるマーカスの拳を優しく撫でるように僅かに力を込めた。
「心が殺されたとしても、その傷は決してなくならない。あなたの中の“天使ちゃん”は、ずっと助けを求めて泣いていたのよ。でも、あなたはそれを無視し続けるしかなかった。傷つくのが怖かったから。心を守るために、あなたは自分を“血も涙もない人間”に作り変えた。でもね──」
アンジェラは涙に濡れた目で、同じく涙に濡れたマーカスの目を見つめる。
「本当に血も涙もないなら、あなたは今、泣いてなんかいないわ」
マーカスは、息を詰まらせたまま、言葉を探すように唇を動かした。
「……っ」
「あなたの心は、今も生きている。傷ついたまま、ずっと叫び続けていたの。でも、あなたはその声を聞かないようにしてきた。ずっと。長い間……」
「……それが、今さらになって響いたってのか……?」
マーカスの声は、かすれ、力なく震えていた。
「そうよ」
アンジェラは優しく微笑んだ。
「あなたの心は、凍りついたままだった。でも、誰かがそばにいることで、それが少しずつ溶けていくこともあるの」
「……そんな簡単に言うな」
マーカスは顔を伏せたまま、唇を強く噛みしめた。何かを振り払うように。
「俺がどんな世界を生きてきたか、お前には分からない」
「ええ、わからないわ」
アンジェラの声は、静かに、しかし力強く響いた。
「でも、あなたが傷ついたこと、あなたが耐え続けてきたこと、それは理解できる。そして、あなたの涙が証明している。あなたの心は、まだ壊れていない」
マーカスは、握りしめた拳をゆっくりと開いた。
まるで、長い間閉じ込めていた想いを、夜の静寂に溶かすように。
そこに残る涙の痕が、彼の胸の奥で静かに波紋を広げていった。
──夜風が、月明かりに照らされた二人を静かに包み込んでいた。
[System Timestamp]
2013-04-01T21:30:00-07:00「悪かったな、さっきは……その、取り乱しちまった。そんなに飲んでないはずなんだが……」
マーカスはバーカウンターからメキシカンビールの瓶を二本持ち帰ると、バツが悪そうに一本をアンジェラに差し出し、椅子に腰掛けた。
「ありがと。お互いさまよ、気にしないで」
髪留めを外したアンジェラは、その手で瓶を受け取ると、口に挿されたカットライムを押し込んだ。
ライムが炭酸と反応して泡立つ。マーカスもそれに倣う。泡が落ち着いたのを見計らい、アンジェラは瓶を掲げた。
「ほら、何やってんの?」
アンジェラに促され、マーカスは慌てて瓶を掲げる。

「よろしい! では改めて……ジェイコブのバースデーミッションの成功を祈念して──乾杯!」
瓶がぶつかり、閑散とした会場に軽く響いた。
「お前の前だと調子が狂う」
瓶から口を放したマーカスは、月を見上げながら苦笑した。
「気にしないでってば」
アンジェラはビールをグイッと煽る。
「いや……そうじゃなくてな。正直、俺は志なんてなかった。このプロジェクトに参加したのも……人脈が作れて、技術が盗めりゃ上等──その程度だ」
自嘲気味に語るマーカスの声には、どこか遠いものを見つめる響きがあった。
「だから、何も期待してなかった。戦場でデータを取るのと同じで、何も考えずに淡々となすべきことをなすだけだと思ってた」
「でも今は違うの?」
アンジェラがそっと問いかける。
マーカスは小さく笑い、ビールをもう一口飲む。
「……さあな。ただ、俺の心は死んでないとわかったからかな? 今はすごく後悔してるよ」
「……後悔?」
アンジェラは心配そうにマーカスを見る。
「ああ、知っての通り、俺は人殺しの道具を作ることで飯を食ってきたクソ野郎だ。それに対する世間様の評価は……俺の自己紹介の時の反応──恐怖・軽蔑・侮辱……あれがダイジェスト版みたいなものだ」
マーカスはテーブルに瓶を置き、力なく続けた。
「そんなこと……深く考えるどころか、気にかけたことさえなかったのにな……」
アンジェラはテーブルの上に置かれたマーカスの手を優しく叩いた。
「いい、ジョン?これは私の師匠の師匠のそのまた大師匠の言葉なんだけどね……」
アンジェラの大仰な物言いにマーカスは苦笑する。
「師匠の師匠の、そのまた大師匠? どこの武道の流派だよ」
水を差されたアンジェラは片目を瞑りながら、マーカスの手を軽くつねる。
「いてて!」
「心理学の流派よ、ジョン!」
マーカスはおおげさに痛がりながら、つねられた部分をさする。
「それで、そのまた大師匠は何を説いたんだ?」
アンジェラは改めて、諭すようにゆっくりと言葉を紡いだ。
「──他人と過去は変えられないが、自分と未来は変えられる……」
彼女はマーカスの反応を確かめるように、一瞬、間を置く。
「ジョン、あなたが後悔している過去は無かったことにはできないし、それに伴う他人からの評価や反応を変えることはできないわ」
視線が交わる。
「でも、あなた自身は今からでも変わることができる。そしてあなたが変われば、自ずと他人も変わるものよ」
マーカスは即答できなかった。瓶の首を握る指が白くなる。
……打ち明けていない“罪”がある。
──"母を殺した"罪。
それを知ったうえでも、彼女は同じように温かい言葉をかけてくれるのだろうか。
「"自分と未来は変えられる"……か。本当にそう思うか?」
やっとのことで絞り出した言葉に、アンジェラは微笑みを返してくれた。
「ええ、さっきまでのあなたなら、そんなふうに悩まなかったでしょう?」
アンジェラはふっと微笑み、少し肩をすくめる。
「ジェイコブ風に言うなら、"この反応こそ、変化が起きたエビデンスだね"ってところかしら?」
最後にペロッと舌を出し、再度マーカスの手を優しく叩いた。
「はは、なんだよそれ。本当に調子狂うぜ」
マーカスは思わず笑い、瓶を手に取る。ふと、視線を上げると、夜空に浮かぶ月が目に入った。アンジェラも、つられるように同じ月を見上げる。
「──借りっぱなしは性に合わない。必ず返す。誕生日の件は俺に任せろ」
マーカスは横目でアンジェラを見た。

一抹の不安を浮かべながらも、決意を感じさせる瞳で月を見上げる彼女は、ただひたすらに──美しかった。
「なあ、アンジェラ……」
マーカスは聞こえるか聞こえないかのトーンで囁く。
──ジェイコブじゃなく俺じゃ……
アンジェラは即座に反応した。
「ん? なに?」
直前で舌が止まる。言えるわけがない。
「その、なんだ……応援してるぜ。気合い入れろよ」
「うん。ありがと! 私がんばるから」
アンジェラは無邪気な笑顔でそう答えた。
Angela──そうか、"天使"ってのは、こういう存在を言うのかもな……
マーカスは苦笑しながら瓶を傾けた。
炭酸の刺激が喉を滑る。だが、それとは別に、微かなざわつきが胸の奥に残り、何気なく問いかける。
「……お前って、人の心を裸にするのがうまいよな?」
アンジェラは首をかしげ、少し考え込むようにしてから、くすっと笑った。
「いちおう、心理学者だからね」
当たり前のように返される言葉。
けれど、その響きが妙に耳に残った。
マーカスは、何かを振り払うように、もう一口ビールを飲んだ。
夜風が吹き抜ける。月の光が、アンジェラの髪をやわらかく照らしていた。
──もし選ぶ未来が違っていたら……
そんなことを考えかけて、すぐに思考を断ち切る。
無意味だ。何も変わらない。
マーカスは視線をアンジェラに戻し、再度瓶を掲げる。
「……舞台は整えてやる。決めろよ!」
「もちろん!やらいでか!」
アンジェラは屈託無い笑みを浮かべ乾杯に応じる。
マーカスはその顔を見つめながら、胸の奥に沈む感情を意識した。

──願ったところで、どうせ叶うはずがない。
彼は夜空を見上げる。冴えた月は、どこまでも冷たく、ただ静かに輝いていた
[System Status] CHAPTER_2_VERSE_05_COMPLETE
[Next Sequence] CHAPTER_2 / VERSE_06[Next Sequence] → CHAPTER_2/VERSE_06
設定資料集
M-CORP_INTERNAL_ARCHIVE
[00] ■ 人物プロファイル (Personnel Profile)
Name: サイモン・C・エヴァンス (Simon C. Evans)
Role: プロジェクト支援者 / M社社長
Note:
エグゼジェネシス記念パーティーにて登壇。「無知の鎖」からの解放と、AIによる人類の再定義を謳うスピーチを行う。
その思想の根底には濃厚なグノーシス主義(物質界を牢獄と捉え、知による解放を目指す)が見え隠れしており、当時のマーカスからも「世界平和が目的ではない」と看破されている。
[01] ■ 技術仕様書・用語集 (Technical Glossary)【天使ちゃん (Angel / Little Angel)】
解説:
一般的には愛しい子供への呼びかけだが、マーカスの過去においては、売春宿で働く女性たちが客を取っている間、邪魔にならないよう隔離された子供たちを黙らせるために使われた隠語(スラング)。
「父親のわからないガキ」という意味を含んだ蔑称であり、マーカスにとってこの言葉は、信じていた母の愛が偽りであったことを突きつけるトラウマのスイッチとなっている。
【知らぬが仏 (Ignorance is Bliss)】
解説:
「真実を知らないほうが平穏でいられる」という意味のことわざ。
マーカスはM社の真の目的(世界征服や思想統制)に薄々感づきながらも、自身を「ただのコマ」と定義し、深く関与することを避ける処世術としてこの言葉を用いた。しかし、アンジェラからは即座に「知らぬが花(Ignorance is flower/beauty)」ではないかと訂正される。
この会話は、現実の残酷さを知って心を閉ざすマーカスと、それでも真実(花)を求めようとするアンジェラのスタンスの違いを象徴している。
【自分と未来は変えられる (You can change yourself and the future)】
解説:
アンジェラがマーカスに送った言葉。交流分析(心理学)などで用いられる概念「他人と過去は変えられないが、自分と未来は変えられる」の引用。
過去の罪や出自に縛られ「自分は終わっている」と考えるマーカスに対し、今ここからの変化の可能性を説いた。この言葉はマーカスの心に深く刺さったが、彼が選んだ「変化」は、アンジェラが望んだ形とは異なる方向(修羅の道)へと進んでいくことになる。
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