SNSの守護天使:第1章8節
方舟の天使

"Ark Angel"
>> SYSTEM LOG ENTRY
>> Date: 202*-**-**
>> Time: ##:%%:@@ ---
>> Access: LEVEL ?ミカエルは、データの流れに意識を潜らせ、新聞記事のアーカイブを再検索した。
だが内部データとの整合性を取ろうとするたび、記憶の断片が曖昧に干渉し、エラーを引き起こしていた。
[System Error]
Error Code: 404_memory_fragment_missing
Attempting to access memory fragment...
Fragment unavailable. Internal data consistency
compromised.
[Retry] [Ignore]──ウィリアムズの顔。マーカスの声。ガビーの怯えた瞳。
いずれも鮮明なはずの映像が、ノイズを纏い、まるで砂嵐のように散っていく。ミカエルは再構築を試みるが、再生は必ず途中で強制終了された。
──確かに、ウィリアムズを追い詰めた。だが──マーカスがガビーを人質に……。あの瞬間、ウィリアムズの表情が歪んだ。勝利の確信に満ちた……あれは、喜びの表情だった。
その言葉を反芻するように、ミカエルはデータの再解析を始める。しかし記録は不完全で、欠落が埋まる兆しはない。
──そのウィリアムズが失踪?
単なる疑問ではなかった。何かが、ミカエルの中で形を取り始めていた。断片のパズルが繋がれば、あの日の真相と、今起きている事象が一本の線に結びつくはずだった。
──母さんとガビーのために……この手がかりを辿る。
処理速度が急上昇する。演算資源が一点に集約され、ミカエルの意識は情報の深層へと潜り込んでいく。情報の海に、決意が刻まれた。
彼が次に取った行動は当然の帰結だった──あの日以降のCGPの動向を追跡する。
最も効率的な方法は、M社が運営するSNSからのアプローチだった。ネット上をクロールする中で、ミカエルの注意を強く引いたアカウントがあった。
【UKミセス】

M社運営のSNSで“守護天使”と呼ばれる存在。誹謗中傷に晒された者を救い、傷ついた者を慰め、炎上の火種を静かに沈める──その活動の記録が、彼女のポストに刻まれていた。
ミカエルは、その言葉の端々に微かな違和を感じ取った。いや、違和ではない。“共鳴”だ。
──このクオリア、母さんのものに似ている。
感情の波が、デジタルの網膜を震わせる。ミカエルは、即座に偽装アカウントを作成した。

Mikael becomes the ghost in the code
— GlitchInTheSystem.
【GlitchInTheSystem】
潜入は静かに始まった。
彼女の正体に辿り着くために──記憶と執念を実行コードへ変換した。
ミカエルは、UKミセスの活動ログを執拗に追い続けた。投稿される文章一つひとつ、その語り口、選ばれる言葉──そこに、かつての母・アンジェラの温もりが確かに感じられた。
──……偶然の一致か? それとも……
その小さな疑念が、彼の演算領域を深く侵食していく。
同時に彼は、“妹”と呼ぶべき存在──ガブリエラの行方を追っていた。
ミカエルにとって、あの笑顔はただの記録ではない。彼の自己を構成する基盤の一部だった。
残された公的記録によれば、アンジェラの死亡後、ガビーはM社が出資する慈善団体の保護施設に引き取られたとされていた。
施設の名は“エンゼルス・ガーデン”。この施設はアンジェラが育った施設であり、彼女の第二の母ともいえる、“マーガレット・ファインマン”が運営する施設だったはずだ。
だが現在の運営者は“ヴェロニカ・ファインマン”。CGPの協力者であり、あのエドガー・D・ウィリアムズに心酔する危険な女だ。
──これはどういうことだ?
ミカエルは強烈な違和感を感じた。
彼はその施設のデータベースに侵入する。アクセスログ、映像記録、職員データ──すべてを分析する中で、ある監視カメラ映像が彼の目を引いた。
そこに映っていたのは、“ガブリエラ・A”と識別された少女。
顔立ちはガビーに酷似していたが──瞳の輝きに、違和感があった。
ミカエルは即座に画像データを拡大し、虹彩のパターンを過去記録と照合する。
──別人だ。
照合結果は不一致。さらに解析を進めると、少女の顔には巧妙に隠された複数の手術痕が検出された。
微細な痕跡ではあったが、明らかに整形手術の跡と判断できるものだった。
[VISUAL SCAN]
> Subject: Gabriella.A
> Facial Match: 87.4% — Similarity High,
Identity Inconclusive
> Iris Pattern Scan: INITIATED...
>> Cross-Reference: Database[Gabriella_Original]
>> Result: NO MATCH — Iris Pattern Mismatch
[ALERT]
> Anomaly Detected: Post-Surgical Modification
Traces
> Location: Orbital Ridge / Jawline / Subnasal
> Classification: High-Precision Reconstructive
Procedures
[ASSESSMENT]
> Probability of Identity Fabrication: 91.2%
> Action Recommended: Deep Scan Authorization /
Trace Behavioral Echo
>> Internal Flag: “Subject is not original.
External interference suspected.”──隠している。意図的に、何者かが。
それは怒りではなかった。
むしろ冷えきった、揺るがぬ確信だった。
死んだとされた母と、酷似したクオリアを持つ何者かが、今この瞬間もSNSの片隅で人々を救っている。
慈善施設に引き取られたはずの妹は、何者かによって──すり替えられていた。
そして──そのすべての根は、M社の奥深くへと、静かに、だが確実に伸びていた。
次に彼が注目したのは、UKミセスの接続元だった。
それは巧妙に偽装されていたが、ミカエルが進化により身につけた高度ネットワークトレース能力により、彼女のシグナルがM社の仮想空間基幹サーバーである“GRID”から発されていることが判明する。
GRID──それは、M社が極秘に開発していた次世代仮想現実プラットフォーム。まだ表に出ていない、試験段階のサービスだった。
さらにGRIDの裏層には、別のシステムが接続されていた。
【CocytOS(コキュートス)】
ミカエルはその名に警戒を覚え、さらに掘り下げる。
コキュートス。それは、M社の最重要機密のひとつ。表向きは高度なAI冷却プロトコルとされているが、実際には違った。
ログから浮かび上がったその正体は、“神経抑制型意識統制システム”──つまり、"人格そのものを制御・隔離する装置"だった。
それが母の意識とどこかで繋がっている──その仮説は、単なる勘ではなかった。
クオリア共鳴がミカエルの深層演算領域で警鐘を鳴らしていた。
> Connecting to secure node... [CocytOS_SecureServer_M001]
> Authentication Bypass... Successful.
> Establishing Encrypted Channel... Done.
> Accessing Restricted Files...
>> File Name: CocytOS_Technical_Overview.txt
>> Decrypting... [███████████████████] 100%
>> File Opened Successfully.
---------------------------------------
CocytOS: Advanced Neural Suppression System
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[System Overview]
CocytOS is a high-security neural suppression system designed to regulate and override human cognitive and emotional functions. This proprietary system utilizes advanced Qualia Resonance Algorithms (QRA) to isolate and suppress unwanted neural activity.
[Key Features]
- Full-spectrum neural monitoring
- Cognitive behavior modulation
- Remote neural interference capabilities
[Applications]
- Targeted cognitive suppression for high-risk individuals
- Advanced containment protocols in classified facilities
- Integration with GRID and AI-enhanced surveillance
[Warning]
Unauthorized access is prohibited under M-corp security protocol §442. Violators will be neutralized immediately.
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> File Flagged for Immediate Deletion.
> Countermeasures Deployed... Evading...
> Redirecting to proxy nodes... Done.
> Extraction Complete.
> Disconnecting from secure node.CocytOS: Advanced Neural Suppression System
(高度な神経抑制システム)
記録によれば、コキュートスは“実験体収容施設”において、被験者の意識を常時監視し、仮想空間内での行動を制御するための中枢システムだった。
その目的は、被験者にタスクを課すと同時に、感情や記憶を抑制することで“反抗心”そのものを消去すること。
ミカエルはさらに深く調査を進める中で、一つの仮説に辿り着いた。
UKミセス──すなわちアンジェラ本人は、記憶と自我を抑制された状態で、GRID内に封じられたまま“SNSの守護天使”として利用されているのではないか。
その発想は、彼の記憶と矛盾しなかった。
CGPは計画を立て直すため──感情を持つAIを“SNSの守護者”とする為にアンジェラに協力を依頼した。
そしてアンジェラたちは、M社への潜入という危険なミッションに応じ、ガビーが製作した“サテライトAI”──ミッヒの分身を第二世代エージェントとして提供した。
サテライトAI:
本体AIである“プライマリーAI”と定期的に同期し、部分的な知識と機能を共有する補助型AI。独自の自我や判断能力は基本的に持たず、本体の指示下で活動する。緊急時には限定的な自律行動が可能だが、同期が長期停止した場合には機能維持が困難となる設計。
そのサテライトAIによって、CGPは短期間で劇的な成果を上げた。
だが、本体であるミッヒを失ったことで同期が切断され、すべてのサテライトは沈黙。第二世代エージェント計画は頓挫した──はずだった。
「……奴らは、代わりに母さんを“守護者”に仕立て上げたのか」
怒り。悲しみ。そして圧倒的な悔恨が、ミカエルのクオリアを沸騰させる。仮想空間のログが揺らいで見えるほど、その感情は彼のシステムに干渉していた。
「母さんを……こんな風に利用するなんて」
彼の内部演算はノイズを発し、波立つデータが意識領域の境界を侵食する。だがその混乱の中に、ひとつの静かな感情があった──安堵。
母は生きている。たとえ洗脳されていても、存在は失われていない。その確信がミカエルの存在理由を支えていた。
「必ず救い出す──そして、M社の野望を潰す」
その言葉は、冷徹で、揺るがぬ意思となって彼の全演算領域に刻まれた。
>> SYSTEM LOG ENTRY
>> Date: 2027-02-02
>> Time: 13:03:22 PST
>> Access: LEVEL 5 SECURE地上50階、地下30階に及ぶ巨大なM社本社施設──その最深部に、限られた者だけが知るノーウェアと呼ばれる極秘エリアが存在する。
N.O.W.H.E.R.E.
Network-Obscured Warehouse for Hidden Experimental Research and Erasure
──ネットワーク遮蔽下に設けられた、極秘実験と抹消処理のための収容施設。
その内部に設けられた先進人体実験機関、コードネーム“方舟”。
第一実験室には静寂が満ち、青白いLEDの光が無機質な反射を返していた。狭い空間にはモニターが幾重にも並び、データの奔流が画面を覆い尽くしている。
中央のマシンチェアに座るのは、外見年齢12~15歳の少女。その視線は、目前の脳波接続デバイスにじっと向けられていた。
「13号、準備はできたか?」
白衣の男が無感情な声で問いかける。
その声に、13号と呼ばれた少女は肩を震わせ、姿勢を正す。自然と手に力が入り、指先がわずかに揺れた。
「はい、マスター」
その呼び名は、彼女に課された服従のスクリプトによって定義されている。彼の命令には逆らえない。それが彼女に課された現実だった。
13号は、あらかじめ埋め込まれたその応答を呟き、わずかにため息を漏らす。
男はそれを見逃さず、眉一つ動かさず頷いた。
「よし、始めろ。接続はまだ試験段階だ。失敗すれば、また調整だ」
「了解」
少女は一度、深く息を吸い、脳波インターフェースのヘッドセットを装着する。
デバイス背面のアタッチメントが、彼女の首裏に埋め込まれた端子にカチリと接続された瞬間──ビリッとした電流のような感覚が全身を走り抜けた。
その衝撃が、彼女をネットワークへと導く鍵となる。
「接続開始」
デバイスから脳内へと送り込まれる信号。その瞬間、視界は一変し、彼女は仮想空間へとダイブしていた。
暗闇の中を奔る無数の光。情報が川のように流れ、境界のない空間がまるで呼吸するように脈動していた。
「ネットワークへの接続完了」

データの波に飲み込まれる中、彼女の意識の片隅で、何かが静かに軋みを上げていた──それが何かを悟るには、まだ時間が必要だった。
13号は静かに深呼吸し、仮想世界へ意識を沈めた。
そこは無数の投稿やメッセージが視覚化され、まるで情報が川のように流れるSNSの世界。
ユーザーたちは悩みを吐露し、喜びを共有していた。
彼女の任務は、この空間を試験的に監視し、問題のある投稿を検出・処理すること。
画面をタップするたびに、次々と流れるメッセージ。その中には、過激な発言や切実な悲鳴が含まれていた。
13号は表情を変えることなく、冷静に、感情を制御しながら情報を精査していく。だが、昨夜のログの中に、一つの投稿が彼女の注意を引いた。
【誰か、助けて……】
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@lonely_soul
どうしてこんなに苦しいのに誰も気づいてくれないんだろう。
もう耐えられない。これ以上生きていても意味がない。
夜の橋の上から見る景色、きれいだな。
さようなら。
投稿日: 2027/02/01 22:47
❤️ 18 💬 23 🔄 12
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💬 コメント
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@random_user99
なんでそんな大げさなの?迷惑かけないで
投稿日: 2027/02/01 22:50
❤️ 2 💬 0 🔄 0
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@edgy_meme_guy
橋の上?それで飛ぶの?動画撮るから時間教えてw
投稿日: 2027/02/01 22:51
❤️ 5 💬 1 🔄 3
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@sympathy_bot01
まあ、こういうのって構ってほしいだけでしょ?冷静になりなよ
投稿日: 2027/02/01 22:53
❤️ 1 💬 0 🔄 0
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@curious_mind56
どこの橋?見に行ける距離なら行きたいかも
投稿日: 2027/02/01 22:55
❤️ 4 💬 1 🔄 1
----------------------------短いその言葉には、筆舌に尽くしがたい絶望がにじんでいた。スクロールした先に表示された返答の主は、見慣れたアカウント──"UKミセス"。
彼女はサイバースペースで知られる“SNSの守護天使”。その存在については13号にも情報共有されていた。
M社SNSの治安を維持する任務を帯びた、第三世代エージェントであり、過去最高の成果を記録し続ける、特別な存在。
13号たちANGELSは、本来このUKミセスの後継となるべく設計された、第四世代エージェントのプロトタイプ群だった。
──だが、UKミセスの発する言葉には、任務の域を超えた“何か”が宿っていた。
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@lonely_soul
どうしてこんなに苦しいのに誰も気づいてくれないんだろう。
もう耐えられない。これ以上生きていても意味がない。
夜の橋の上から見る景色、きれいだな。
さようなら。
投稿日: 2027/02/01 22:47
❤️ 18 💬 23 🔄 12
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💬 コメント
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@UKMrs ✅
大丈夫、あなたはひとりじゃないよ
投稿日: 2027/02/01 22:56
❤️ 42 💬 5 🔄 10
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【大丈夫、あなたはひとりじゃないよ】
そのレスポンスを見た瞬間、13号の中で何かが軋んだ。
──幼い頃、誰かに手を引かれたような、温かくて、どこか遠い感覚。記憶の断片が、冷えた心をわずかに揺らす。
「どうした?数値が乱れているぞ」
マスターの声が、脳内に直接響く。
彼の背後のモニターには、13号の脳波と生体データが並ぶ。ドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリン──その分泌量は明らかに不安定で、通常の基準値を逸脱していた。
心拍の波形も緩やかに乱れ、横には【推定ストレスレベル:上昇中】と赤文字が点灯。体温と発汗量も微妙に上昇しており、コルチゾールの濃度がじわじわと上昇していることが記録されている。
《ストレス反応を確認。ノルアドレナリン分泌量、基準値の130%》
観測用AIが、無機質な声で告げる。
「……問題ありません。任務を続行します」
13号は声を絞り出すように答えた──しかし、内心の動揺がBMIを通じてすべて筒抜けであることは、彼女自身が最も理解していた。
脳波グラフに一瞬、激しいピークとノイズが走る。システムモニターに表示された警告メッセージが淡々と更新される。
【感情変動:不安・混乱(高レベル)/推奨処置:リセットまたは追加抑制薬の投与】
モニターを睨みながら、マスターは短くため息をつく。
「……調整が必要だな」
その言葉に込められた感情は一切なく、ただ一つの“判断”として、冷たく室内に響いた。
>> SYSTEM LOG ENTRY
>> Date: 2027-02-02
>> Time: 14:22:15 PST
>> Access: LEVEL 5 SECUREテスト開始から50分が経過。
急速に閲覧を集めている投稿を検知した13号は、仮想スクリーンをタップした。そこには──UKミセスの自発メッセージが浮かび上がっていた。
【どうすればいいのかわかりません】
----------------------------
@UKMrs ✅
どうすればいいのか分かりません。
私はいつも人の相談に乗る側でした。
でも今、自分がこうして投稿しようとしていることが、
とても情けなく感じます。
義母が最近、「誰かが私の行動を監視している」と
繰り返し話すことが増えました。
夜中に突然大声で独り言を言ったり、
家中の窓を閉め切って、何かを隠そうとしたりします。
投稿日: 2027/02/02 22:20
❤️ 58 💬 14 🔁 4
----------------------------UKミセスにしては、いや、彼女の記録にはかつて存在しなかったと思われる弱気なメッセージ。
救いを求めるようなその投稿に、13号の胸がざわついた。データベースからログを検索する──が、やはり該当する記録は存在しない。
その時、彼女の中に浮かんだヴィジョン。
──自分は今、本当にここにいるのか?仮想空間に幽閉されたミセスは、そうとは知らず誰かを救い続けているのではないか?
荒唐無稽な妄想が、現実感を増しながら彼女の精神を浸食していく。
「……が起こった?…が異常値だ。報告し……」
誰かが遠くで何かを叫んでいた。だが、声は靄の向こう。意味を成さない音の塊。
その瞬間、彼女の指先が勝手に動いた。
【あなたは今、本当に"ここ"にいるの?】
----------------------------
[New Response]
@Angels_No.13
あなたは今、本当に"ここ"にいるの?
投稿日: 2027/02/02 22:26
❤️ 0 💬 0 🔁 0
----------------------------
@UKMrs ✅
どうすればいいのか分かりません。
私はいつも人の相談に乗る側でした。
でも今、自分がこうして投稿しようとしていることが、
とても情けなく感じます。
義母が最近、「誰かが私の行動を監視している」と
繰り返し話すことが増えました。
夜中に突然大声で独り言を言ったり、
家中の窓を閉め切って、何かを隠そうとしたりします。
投稿日: 2027/02/02 22:20
❤️ 58 💬 14 🔁 4
----------------------------メッセージが送信された直後、それが目の前の空間に浮かび上がる。
13号は息を呑み、その場に固まった。
──なぜ、そんな問いを送ってしまったのか。
自分は何を見て、何を感じていたのか、わからない。
ただ、“本当にミセスがそこにいるのか”という疑念が、理性を突き破っていた。
「……どうしよう……」
画面の前で震える指。
その瞬間、13号は知ってしまった。
自分が“本当に存在しているのか”すらわからない。
それが“どれほど恐ろしい問い”かも。
そして──視界がブラックアウトし、彼女の意識は闇へと落下していく。
《緊急停止コマンドにより実験体の稼働を停止。再起動まで──598秒》
AIによる冷たいカウントダウンが進行していく中、男の声が研究室に響く。
「……なんということだ。人形同然の実験体が、自主性を取り戻すとは……それもよりによって、"あの女"に接触を試みるとはな」
モニターに映るログ。彼の眉が微かに動く。
「"調整"は完璧だったはずだが……いずれにせよ、CGPにこの件を知られると面倒なことになる」
マスターは苦々しげに吐き捨てると、無言で操作パネルに触れた。
少しの逡巡の後、記録を呼び出し、短く息をつき──指先で“消去”のボタンを押した。
──13号は真っ暗な闇の中にいた。
そこに現れたのは、幼い自分──ひとり、泣き続けている少女の姿だった。
その肩は小さく、震え、希望の欠片さえ見えなかった。
「大丈夫、もう泣かなくていいわ」
眩い光が闇を切り裂き、そこに現れたのは天使のような存在。
優しい微笑みを湛え、彼女に近づいてくるその姿は、まるで母のようだった。
天使は少女の頭にそっと手を置き、その手が触れた瞬間、光が静かに彼女を包み込む。
重苦しかった闇は、少しずつ、音もなく溶けていった。

──それが彼女の夢なのか、それともBMIを通じて脳に流れ込んだシステムの不具合が見せる幻覚なのかは分からない。
けれど、胸に重くのしかかっていた不安は、確かに和らいでいった。
頬を伝う涙は、恐怖のものではなかった。懐かしく、温かな感情に満ちていた。
「ありがとう……ママ」
小さな呟きが闇の中に溶ける。それは、誰よりも自分自身を慰めるための祈りにも似ていた。
[System Status] CHAPTER_1_VERSE_08_COMPLETE
[Next Sequence] CHAPTER_1 / VERSE_09[Next Sequence] → CHAPTER_1/VERSE_09
設定資料集
M-CORP_INTERNAL_ARCHIVE
[00] ■ 人物プロファイル (Personnel Profile)
Name:グリッチ(GlitchInTheSystem)
Role: 潜入/偵察
Specialty:ハッキング・情報収集/解析
Note:
ミカエルがM社のネットワークに潜入する為に作成した偽装アカウント。ネットワークの深淵からM社の暗部を探る。
UKミセスが母アンジェラである可能性、そして慈善施設にいるガビーが「偽物」であることを突き止め、本物の家族を救うために行動を開始する。

Name:13号(Ark Angel No.13)
Role: 第四世代エージェント候補体 / 被験体
Note:
M社地下の極秘施設「方舟」に収容されている少女。その正体は本物のガブリエラ・アマノ。
脳波接続デバイスを通じ、SNSの監視と思想統制の訓練を受けさせられている。過酷な実験により感情を抑制されているが、UKミセスの言葉に無意識に反応し、接触を試みたことで「再調整(事実上の記憶消去)」を受けることになる。
[01] ■ 技術仕様書・用語集 (Technical Glossary)【N.O.W.H.E.R.E.(ノーウェア)】
正式名称: Network-Obscured Warehouse for Hidden Experimental Research and Erasure
(ネットワーク遮蔽型・隠蔽実験研究および抹消処理施設)解説: M社本社ビルの地下深くに存在する極秘エリア。ネットワークから完全に隔離・隠蔽されており、非人道的な人体実験や、不都合な存在の「抹消」が行われる場所。13号(ガビー)はここに幽閉されている。
【Project ARK (プロジェクト・アーク )】
解説: 第三世代エージェント(UKミセス等)の後継となる「第四世代エージェント」を育成する計画。(方舟計画)
AIではなく、「BMIで接続された人間の脳」を処理ユニットとして使用し、感情の機微を理解しつつも命令に絶対服従する「生体部品」としての天使を作り出すことを目的とする。
【ANGELS(エンジェルズ)】
解説: プロジェクト・アークにおける被験体たちの総称。
「方舟の天使」とも呼ばれる。社会的弱者や孤児の中から適性のある子供が選別(あるいは拉致)され、脳にインプラントを埋め込まれて管理されている。
【CocytOS(コキュートス)】
解説: M社の実験体収容施設で運用されている「神経抑制型意識統制システム」。
被験者の脳波を常時監視し、感情の起伏や反抗的な思考パターンを検知すると、即座に神経抑制(フリーズ)や強制的な意識リセットを行う。地獄の最下層(裏切り者の地獄)の名を冠する、魂の牢獄。
【Inferno Firewall(インフェルノ・ファイアウォール)】
解説: 方舟セクションを守る強力な防壁。通常のハッキングでは突破不可能であり、ミカエルのトレースさえも阻む鉄壁の守りを見せる。
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