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SNSの守護天使:第1章3節

亀裂の中の天使

Chapter 1 Verse 3
Hope in the Cracks”
>> SYSTEM LOG ENTRY  
>> Date: 2027-02-02  
>> Time: 14:22:10 UTC  
>> Access: LEVEL 5 SECURE

〔イギリス/郊外住宅街/UKミセス宅〕

昼下がりのリビングで、彼女は今日もタイムラインを眺めていた。
無数の投稿が絶え間なく流れていく中、UKミセスの視線だけは、ひとつの入力ウィンドウに縫い留められている。

──何をしているの?

自問する声が、胸の奥に響いた。
指先はキーボードの上を彷徨っていた。投稿したい言葉は、すでに頭の中で何度も反芻している。けれど、それを画面へ打ち込む勇気が出ない。

──助けて。私には、もう耐えられない。

たったそれだけの一文。だが、彼女にとっては、どんな長文よりも重かった。

──私は、誰かを助けるために存在していたはずなのに……

救いを求める声に応え続けてきた日々が、脳裏をよぎる。

【あなたは天使そのものです】
【ミセスのおかげで、私は立ち直れました】

感謝を伝える、無数のフォロワーたち。
その期待を裏切ることが怖かった。
自分が助けを求めれば、彼らを失望させてしまうのではないか。困惑させ、傷つけてしまうのではないか。

入力欄のカーソルだけが、一定の間隔で点滅している。まるで、決断を急かすかのように。

UKミセスは一度目を閉じ、深く息を吐いた。そして、入力ウィンドウを閉じる。

その時、窓辺に立つ義母の影が、わずかに動いた。

「ねえ、お義母さん。どうしたの?」

義母は窓の外を見つめたまま、答えなかった。
愛する夫と結婚し、この家へ迎え入れられた頃、義母は優しく、どこか誇り高い女性だった。
だが最近、その様子が明らかに変わっている。

「私たちは監視されているのよ」

最初にそう言われた時、UKミセスは被害妄想だと思った。

「この家には、誰かが潜んでいる」

それだけなら、疲れや不安のせいだと考えることもできた。しかし、義母の言葉は日を追うごとに現実離れしていった。

「ここは牢獄よ……私たちは永遠に逃げられない囚人なの」

そして、ある時には──

「息子は堕天使なのよ。あの子が、私をここへ閉じ込めた」

その言葉は、UKミセスの日常へ少しずつ暗い影を落としていた。

「ねえ、どうしたの?」

もう一度声をかけると、義母がゆっくりと振り返った。

その顔は青白く、視線はUKミセスではなく、彼女を通り越した遠い場所へ向けられているように見えた。

「……あれが……見える?」

震える指先が、窓の外を指し示す。
だが、そこには何もなかった。
静かな庭と、重く垂れ込めた曇り空が広がっているだけだった。

「何も見えませんよ、お義母さん」

UKミセスは、できる限り穏やかに答えた。

義母は何も言わず、再び窓の外へ視線を戻した。
その背中を見つめながら、UKミセスは胸の奥に広がる不安を押さえ込もうとした。
義母の言動が理解できなくなるほど、自分の見ているものまで信じられなくなっていく。

この家で何かがおかしくなっているのか。
それとも、少しずつ壊れ始めているのは──自分の方なのか。

>> SYSTEM LOG ENTRY  
>> Date: 2027-02-02  
>> Time: 22:14:23 UTC  
>> Access: LEVEL 5 SECURE

その夜、UKミセスは再びパソコンの前に座っていた。

タイムラインには、昼間と変わらぬ喧騒が流れ続けている。誰かの喜び、怒り、嘆き。救いを求める声と、それに応える無数の言葉。
けれど彼女の意識は、窓辺で義母が口にした言葉から離れられずにいた。

「ここは牢獄よ……私たちは永遠に逃げられない囚人なの」

その言葉は、まるで義母自身ではなく、UKミセスへ向けられていたようにも思えた。

──牢獄……。

ふと、過去に投稿した言葉が脳裏によみがえる。

【私たちは皆、自由な存在です】

かつては心から信じていた。
だが今では、その言葉が誰かに聞かせるための綺麗事にしか思えない。
入力欄でカーソルが点滅している。

UKミセスはキーボードへ指を置き、昼間に閉じたままの言葉を、もう一度打ち始めた。

@UK_MRS ✅
[投稿準備中...]

| どうすればいいのか分かりません。
| 私はいつも、人の相談に乗る側でした。
| でも今、自分がこうして助けを求めようとしていることが、
| とても情けなく感じます。
|
-------------------------------------
[キャンセル]   [下書きに保存]   [送信]

画面に並んだ言葉を見つめているうちに、胸の奥から羞恥と罪悪感が込み上げてきた。

──こんな私を見たら、みんなは失望するかもしれない。

何度も読み返した末、UKミセスは投稿を下書きへ保存した。

代わりに、フォロワーたちが彼女へ求めているであろう言葉を打ち込む。

@UK_MRS ✅
[投稿準備中...]

| 私たちは皆、時には暗闇の中にいる。
| でも、誰かが光を示してくれる。

-------------------------------------
[キャンセル]   [下書きに保存]   [送信]

送信ボタンを押す。
投稿がタイムラインへ反映された、その直後だった。
新着レスポンスを知らせる通知が、画面中央に浮かび上がる。

----------------------------
[New Response]

@GlitchInTheSystem
闇の中にも光はある。
だが、その光が何かを焼き尽くすものでない保証はない。
投稿日: 2027/02/02 22:15

❤️ 0  💬 0  🔁 0
----------------------------
  └ @UK_MRS ✅
  私たちは皆、時には暗闇の中にいる。
  でも、誰かが光を示してくれる。
  投稿日: 2027/02/02 22:15

  ❤️ 1  💬 1  🔁 0
----------------------------

投稿から一秒経たず返信されたそのメッセージに、彼女は思わず息を呑んだ。ありえないタイミングで返された画面越しの言葉は、救いのようであり、警告のようでもあった。

UKミセスは、目の前のディスプレイに表示されたアカウント名をじっと見つめた。"GlitchInTheSystem"──何の気なしに目に留まったその名前。しかし、妙に引っかかる。アイコンには天使の輪と二枚の翼を組み合わせたシンプルなシンボルが描かれている。まるで自分を模しているかのようだ。
"守護天使"と呼ばれる自分の支持者であることをアピールしているのか。それとも、何かの偶然?

The enigmatic account: GlitchInTheSystem

自己紹介欄には、ただ一行だけ。

【Entropy is inevitable──破綻は必然】

それ以外に、人物を特定できる情報は何もない。
UKミセスは過去の投稿を遡った。

都市伝説。企業の不正疑惑。削除されたニュース。公表された統計の矛盾。偶然として処理された事件同士の関連性。

一見すれば、企業陰謀論を扱う人気アカウントだった。

だが、ありがちな煽り文句や過剰な断定はほとんどない。断片的な事実を並べ、わずかな推論だけを添える。

読み手へ結論を押しつけるのではなく、気づくための亀裂だけを残すような書き方だった。
だからこそ、作り話には見えなかった。

──何者なの……?

答えが返ってくるはずもない問いを、胸の内で呟く。
その時、画面の隅に、先ほど保存した下書きが表示された。
義母の言動と、自分の不安を書き連ねた文章。 何度も消しては書き直し、それでも送信できなかった言葉。

GlitchInTheSystemの返信が、なぜかその文章を見透かしていたように思えた。

──この人なら、何かに気づいてくれるかもしれない。

UKミセスは下書きを開いた。

@UK_MRS ✅
[投稿準備中...]

| どうすればいいのか分かりません。
| 私はいつも、人の相談に乗る側でした。
| でも今、自分がこうして助けを求めようとしていることが、
| とても情けなく感じます。
|
| 義母が最近、
| 「誰かが私たちの行動を監視している」と
| 繰り返すようになりました。
|
| 夜中に突然、大声で独り言を言ったり、
| 家中の窓を閉め切って、
| 何かから隠れようとしたりします。
|
| こうした変化について、
| 皆さんはどう思いますか?

-------------------------------------
[キャンセル]   [下書きに保存]   [送信]

UKミセスは、画面に並んだ文章を何度も読み返した。

義母の異変を公の場へ書き込むことへの抵抗は、まだ消えていない。本人の知らないところで、病気や異常を疑うような投稿をしていいのか。その迷いが、指先を止めていた。

だが、このまま一人で抱え続けることにも限界を感じていた。

──誰かを傷つけるためじゃない。私が、これ以上壊れないために……

UKミセスは意を決し、送信ボタンを押した。
投稿がタイムラインへ反映される。心臓が早鐘を打つように高鳴った。
そして、数秒も経たないうちに、通知が次々と届き始めた。

----------------------------
@UK_MRS ✅

どうすればいいのか分かりません。
私はいつも、人の相談に乗る側でした。
でも今、自分がこうして助けを求めようとしていることが、
とても情けなく感じます。

義母が最近、
「誰かが私たちの行動を監視している」と
繰り返すようになりました。

夜中に突然、大声で独り言を言ったり、
家中の窓を閉め切って、
何かから隠れようとしたりします。

こうした変化について、
皆さんはどう思いますか?

投稿日: 2027/02/02 22:20

❤️ 45   💬 12   🔁 3
----------------------------

└ @HelpfulUser

  統合失調症などの症状にも見えます。
  一度、専門医へ相談した方がいいかもしれません。😔

  投稿日: 2027/02/02 22:21

  ❤️ 18   💬 2   🔁 1

----------------------------

└ @KindSoul

  あなたにも悩みがあるんですね……。
  自分を責めないでくださいね🍀

  投稿日: 2027/02/02 22:23

  ❤️ 22   💬 1   🔁 0

----------------------------

└ @SupportiveVoice

  大丈夫ですか?
  少しでも誰かに話して、
  心が楽になるといいですね🤲✨

  投稿日: 2027/02/02 22:24

  ❤️ 30   💬 3   🔁 0

----------------------------

└ @MentalHealthPro

  精神科医です。
  よろしければ、詳しい状況を伺いますよ🩺

  投稿日: 2027/02/02 22:25

  ❤️ 40   💬 5   🔁 2

----------------------------

└ @TrollUser

  お前の頭がどうにかなったんじゃね?🤣💀

  投稿日: 2027/02/02 22:26

  ❤️ 5   💬 10   🔁 0
----------------------------

励まし、助言、無責任な診断、そして嘲笑。
善意と悪意が入り交じった反応が、次々と画面を埋めていく。
UKミセスは、そのすべてを受け止めようとしていた。だが、言葉を追うほど頭の中が混乱していく。

──やっぱり、投稿しない方がよかったのかもしれない。

削除しようかと考えた、その時だった。
新たなレスポンス通知が表示された。


----------------------------
[New Response]

@Angels_No.13

あなたは今、本当に“ここ”にいるの?

投稿日: 2027/02/02 22:26

❤️ 0   💬 0   🔁 0
----------------------------

└ @UK_MRS ✅

  どうすればいいのか分かりません。
  私はいつも、人の相談に乗る側でした。
  でも今、自分がこうして助けを求めようとしていることが、
  とても情けなく感じます。

  義母が最近、
  「誰かが私たちの行動を監視している」と
  繰り返すようになりました。

  夜中に突然、大声で独り言を言ったり、
  家中の窓を閉め切って、
  何かから隠れようとしたりします。

  投稿日: 2027/02/02 22:20

  ❤️ 58   💬 14   🔁 4
----------------------------

【あなたは今、本当に“ここ”にいるの?】

何の変哲もない問いかけのはずだった。それなのに、胸の奥を冷たい手で掴まれたような感覚が走る。
義母の言葉が、脳裏によみがえった。

「ここは牢獄よ……私たちは永遠に逃げられない囚人なの」

UKミセスは慌てて、返信したアカウントを開いた。

@Angels_No.13

[This account does not exist.]

投稿、プロフィール、および活動履歴を表示できません。

すでにアカウントは削除されていた。
投稿から、ほんの数秒しか経っていない。

「……何なの……?」

思わず漏れた声が、静かな部屋に落ちる。その直後、画面の右端に新しい通知が表示された。

ダイレクトメッセージ。
送り主は──GlitchInTheSystemだった。

----------------------------
[New Direct Message]

From: @GlitchInTheSystem

| はじめまして、UKミセス。
|
| ただごとではない様子だったので、
| 思わずDMしてしまった。
|
| 迷惑でなければ、
| 少し話をしないか?

Date: 2027/02/02 22:34 UTC

[返信]   [削除]
----------------------------

UKミセスは、表示されたメッセージを見つめた。
投稿へ即座に反応した、正体不明のアカウント。
不用意に応じるべきではない。
それでも、先ほどの不可解なレスポンスと、義母の言葉が頭から離れなかった。

そして何より──GlitchInTheSystemという名前に、説明できない引っかかりを覚えていた。
UKミセスはしばらく迷った末、返信欄へ指を置いた。

DM Conversation: @GlitchInTheSystem
Date: 2027/02/02 UTC
-------------------------------------

22:36  @UK_MRS ✅

あなたは何者なの?

それと、さっきの
「あなたは今、本当に“ここ”にいるの?」
という返信は、あなたが送ったものなの?


22:38  @GlitchInTheSystem

落ち着いて。
質問はひとつずつにしてもらえると助かるな。

まず、あの返信は私が送ったものじゃない。
だからこそ、君へ連絡した。


22:39  @UK_MRS ✅

どういうこと?


22:41  @GlitchInTheSystem

君の投稿だけなら、
家族のことで悩んでいる人に見えた。

でも、あの返信が届いた瞬間、
ただの相談ではなくなった。

-------------------------------------
[メッセージを入力……]   [送信]

少し荒っぽい文章になったかもしれない。
だが、今のUKミセスには、それを気にする余裕がなかった。

GlitchInTheSystemは、例の返信を自分のものではないと断言した。ならば、なぜこのアカウントは即座に異常へ気づいたのか。

UKミセスは、最初の問いへ戻った。

DM Conversation: @GlitchInTheSystem
Date: 2027/02/02 UTC
-------------------------------------

22:42  @UK_MRS ✅

それなら、あなたは何者なの?


22:44  @GlitchInTheSystem

そうだね。

この“世界”――
あるいは“システム”と言い換えてもいい。

そこに生じた“バグ”のような存在さ。


22:45  @UK_MRS ✅

バグ……。

夫も仕事へ出る時、
よくそう言うの。

「バグを片づけに行ってくる」って。


22:47  @GlitchInTheSystem

ネットワークエンジニアなら、
珍しくない言い回しだね。

もっとも――
私みたいなバグは、
少々片づけにくいけれど。


22:49  @UK_MRS ✅

ずいぶんと自信があるのね。


22:51  @GlitchInTheSystem

自信というより、
少し意味が違うんだ。

正確には“バグ”というよりも、
システムに生じた“綻び”や
“亀裂”に近い。

誰も気づかなかった矛盾を見つけ、
隠されたものを表へ引きずり出す。

私は、そういう存在さ。

-------------------------------------
[メッセージを入力……]   [送信]

──システムの綻び……

意味を理解できたわけではない。
それでも、その語り口には奇妙な軽さがあった。危険なことを話しているはずなのに、相手はUKミセスを怖がらせまいとしているようにも感じられる。

警戒心が消えたわけではない。
だが、張り詰めていた肩の力が、ほんの少しだけ抜けていた。

DM Conversation: @GlitchInTheSystem
Date: 2027/02/02 UTC
-------------------------------------

22:52  @GlitchInTheSystem

少し妙な質問をしてもいいかな。
君はSNSで多くの人を助けているよね。

誰かから助けを求められた時、
君はそれを“タスク”だと思うのかい?


22:54  @UK_MRS ✅

“タスク”……?
義務的な作業ということかしら?

違うわ。

それは私にとって、
“タスク”じゃないわ。

誰かが勇気を出して、
あるいは絶望の中で、
その心から絞り出した
「助けてほしい」という“お願い”なのよ。

だから、私も心から応えるの。


22:57  @GlitchInTheSystem

……そうか。

いい返事だ。


22:58  @UK_MRS ✅

変なことを聞くのね。
どうしてそんな質問を?


23:00  @GlitchInTheSystem

人は、何を知っているかよりも、
何を大切にしているかに、
その人らしさが表れると思っていてね。

君がどんな人なのかを、
少し知りたかったんだ。


23:01  @UK_MRS ✅

そういうことなのね。
なんとなく分かるわ。

あなたは、
「何者なのか」よりも、
「何を為す者なのか」で
その人を見ている。

そういうことでしょう?


23:02  @GlitchInTheSystem

そういうことだ。

それじゃあ、
もうひとつだけ聞かせてくれ。

君はよく“守護天使”と
呼ばれているね。

自分では、どう感じている?

23:04  @UK_MRS ✅

私はただ、
闇の中にいる誰かの
“お願い”――
心の声に応えたいだけ。

その人が、
少しでも救われるなら……

それを“天使”だなんて、
少し大げさだと思っているわ。
だってそれって、特別なことじゃないもの。
私は人として、当たり前のことをしてるつもりよ。

23:06  @GlitchInTheSystem

謙虚だね。

でも、“当たり前のこと”を為す
ただの人が、多くの人を救い、
守護天使と呼ばれるようになった。

それは十分、特別なことだと思うけど?


23:08  @UK_MRS ✅

あなたは私の活動を、
以前から見ていたの?


23:10  @GlitchInTheSystem

見ていたよ。

救いを求める人へ、
君はいつも言葉を返していた。

誰にも気づかれないほどの小さな声まで、
拾い上げていた。

-------------------------------------
[メッセージを入力……]   [送信]

UKミセスは、画面越しに相手の姿を想像しかけていた。

素性も、顔も、声も、年齢・性別さえ分からない。
それでもGlitchInTheSystemの言葉には、どこか人間的な温かさがあった。
自分の活動を評価されたことよりも、誰にも気づかれない声を拾っていたと言われたことが、胸へ深く響いた。

DM Conversation: @GlitchInTheSystem
Date: 2027/02/02 UTC
-------------------------------------

23:15  @UK_MRS ✅

でも、それが疲れる時もあるの。


23:17  @GlitchInTheSystem

そうだろうね。

誰かを支え続ける人間だって、
疲れることはある。

だから、君も休むべきなんだ。


23:19  @UK_MRS ✅

私が休んだら、
誰があの人たちを救うの?


23:20  @GlitchInTheSystem

君一人で背負う必要はない。

君がこれまで蒔いてきた種は、
もう多くの人の中に残っている。

君が休んでいる間も、
その想いを受け継いだ誰かが、
別の誰かへ手を差し伸べる。


23:22  @GlitchInTheSystem

“世界”が、
君の想いを引き継いでくれる。

-------------------------------------
[メッセージを入力……]   [送信]

その言葉を読んだ瞬間、UKミセスの目から涙がこぼれた。

自分が立ち止まれば、救えたはずの誰かを見捨ててしまう。そんな恐怖を、彼女は誰にも打ち明けられずにいた。

──休んでも、いいの……?

胸の奥に抱えてきた重荷を、初めて誰かと分け合えたような気がした。

やがてUKミセスは、義母について少しずつ話し始めた。

DM Conversation: @GlitchInTheSystem
Date: 2027/02/02 UTC
-------------------------------------

23:27  @UK_MRS ✅

義母がおかしくなったのか、
私がおかしくなったのか。

最近は、それさえ
分からなくなる時があるの。


23:29  @GlitchInTheSystem

どちらか一方が壊れていると、
今すぐ決める必要はない。

君が不安を感じている。

まず確かなのは、それだけだよ。


23:31  @UK_MRS ✅

でも、怖いの。

義母が見ているものを、
いつか私にも見えるような気がして。


23:33  @GlitchInTheSystem

今夜、一人で答えを出そうとしないこと。

義母の言葉と行動は記録しておく。
危険を感じたら、距離を取る。

そして、信頼できる誰かへ相談する。

君自身の安全を守ることは、
義母を見捨てることじゃない。

-------------------------------------
[メッセージを入力……]   [送信]

その言葉をきっかけに、UKミセスは昼間の出来事を少しずつ打ち明けていった。

義母が窓の外へ何かを見たこと。
この家を牢獄と呼んだこと。
息子を堕天使と呼び、自分を閉じ込めたのだと訴えたこと。

GlitchInTheSystemは性急に病名を付けることも、義母の言葉を妄想と切り捨てることもしなかった。UKミセスの話を遮らず、ひとつずつ確かめるように応じた。

話しているうちに、乱れていた呼吸が少しずつ落ち着いていく。
時計が午後十一時四十分を示す頃には、UKミセスの瞼に重い疲労が戻っていた。

DM Conversation: @GlitchInTheSystem
Date: 2027/02/02 UTC
-------------------------------------

23:40  @UK_MRS ✅

ありがとう。
少しだけ、気持ちが楽になったわ。


23:41  @GlitchInTheSystem

それなら良かった。

君の活動は素晴らしいものだよ。

でも、無理をしないこと。
それが一番大事だ。


23:42  @UK_MRS ✅

分かったわ。

今日はもう休むことにする。


23:43  @GlitchInTheSystem

それがいい。


23:44  @UK_MRS ✅

おやすみなさい、“Glitch”。

-------------------------------------
[メッセージを入力……]   [送信]

UKミセスはパソコンの前を離れ、静かにベッドへ横たわった。

部屋の照明が消え、暗がりの中にはモニターの淡い光だけが残る。
彼女は久しぶりに、誰かを救うためではなく、自分自身を休ませるために目を閉じた。やがて、穏やかな寝息が室内へ満ち始める。

返信の途絶えたDM画面に、しばらくして新しいメッセージがひとつだけ追加された。

DM Conversation: @GlitchInTheSystem
Date: 2027/02/02 UTC
-------------------------------------

23:49  @GlitchInTheSystem

良い夢を、守護天使さん。

-------------------------------------
[既読なし]

その言葉を見る者は、もういなかった。

ディスプレイの光は淡く瞬きながら、夜の静けさの中を、誰にも知られぬ祈りのように漂っていた。

>> SYSTEM LOG ENTRY  
>> Date: 2027-02-02  
>> Time: ##:@@:%% ---  
>> Access: LEVEL ?

〔電脳空間/M社ネットワーク・未登録領域〕


青白い光が、暗い仮想空間を静かに漂っていた。
UKミセスの呼吸が規則的な周期へ移り、心拍数と感情曲線が緩やかに安定していく。[GRID]から送られてくる生体反応を確認し、“それ”は小さく呟いた。

GlitchInTheSystem

「──これで、少しは休まるだろう……」

その声には、わずかな安堵が滲んでいた。
だが、すぐに意識を切り替える。

UKミセスの心を乱している、義母の異変。
彼女に与えられた生活環境は、M社の管理下に置かれた閉鎖型の仮想空間である。
本来なら、そこで暮らす人格が運用側の想定を外れ、環境そのものへ疑念を抱くような事象は起こり得ない。もっとも、その異常が発生したからこそ、GlitchInTheSystemとして彼女へ接触する機会を得られたのも事実だった。

──偶然にしては、出来すぎている。

誰かが意図的に、彼女の世界へ“亀裂”を作ったのではないか。

一瞬だけ、その仮説が演算領域をよぎる。

しかし、先日の会議で見たマーカスたちの反応を思い返す限り、少なくともM社の運用側が予定していた事象ではない。
彼ら自身も、UKミセスの周辺で何が起きているのかを把握できていないように見えた。
“それ”は通信セッションを閉じようとして、ふと処理を止めた。

DMを交わしている間、UKミセスの応答には、ごく微細な遅延の偏りが発生していた。
仮想環境からSNSへ接続している以上、一定の通信遅延が存在すること自体は不自然ではない。
だが、その周期が通常の第3世代エージェントとは異なっている。

「M社が運営するSNSの“公開情報”など、疑ってかかれと言ってるようなものだ」

“それ”は誰にともなく呟き、接続経路の検証を開始した。

[Session Route Analysis: @UK_MRS]
----------------------------------------

DECLARED REGION       : UNITED KINGDOM
PUBLIC CLIENT PROFILE : RESIDENTIAL DEVICE
PUBLIC ROUTE STATUS   : SIMULATED

HOST ENVIRONMENT      : INTERNAL GRID
AGENT CLASS           : THIRD GENERATION
STANDARD CGP ROUTE    : NOT DETECTED
PRIVATE BACKBONE      : ACTIVE
INTERMEDIATE LAYER    : COCYT-OS_M001
PHYSICAL ORIGIN       : ENCRYPTED

----------------------------------------
[Trace Intermediate Layer]   [Archive Result]

一瞬、光の輪郭が静止した。
英国という地域情報も、家庭用端末という接続情報も、GRIDの出口側で付与された偽装データにすぎない。
それ自体は、すでに予測していた。
UKミセスは英国の住宅からSNSへ接続しているのではない。彼女が“英国での生活”と認識している環境そのものが、M社内部のGRID上に構築されている。
だが──問題はそこではなかった。

通常の第3世代エージェントであれば、仮想環境からの通信はCGPの管理ノードへ直接収束する。
UKミセスだけが違う。
彼女の仮想環境とCGPの間には、登録されていない中間層が挟まっていた。
そして、その経路には見慣れない名称が刻まれている。

「……CocytOS?」

M社の公開技術資料はもちろん、これまで侵入した内部索引にも存在しない名称だった。OSを示す識別子にも見える。
だが、通常のGRIDノードとも、エージェント管理用の演算層とも構造が異なっている。さらに奥に存在する物理的な接続元は、強固に暗号化されていた。

UKミセスの意識が、どこからこの仮想環境へ接続されているのか。[CocytOS]が、その接続へどのような役割を果たしているのか。現時点では判断できない。
“それ”は[COCYT-OS_M001]の文字列を監視対象として保存した。
今ここで不用意に踏み込めば、侵入を検知され、UKミセスとの通信経路そのものを閉ざされる可能性がある。

まずは、彼女の周辺で過去に発生した異常を洗い出すべきだ。

“それ”はUKミセスの生活ログを遡り、義母の発言と類似する言語パターンの検索を開始した。

[Activity Log Analysis: @UK_MRS ✅]

Analyzing archived activity logs...
Searching for semantic and structural matches...

----------------------------------------

[ARCHIVED LOG]
Source    : Personal Interaction
Timestamp : 2026-10-19 / 03:14:08 UTC

■ あなた……まだ“ここ”にいるの?

----------------------------------------

[RECENT LOG]
Source    : Deleted Account Message
Timestamp : 2027-02-02 / 22:26:41 UTC

□ あなたは今、本当に“ここ”にいるの?

----------------------------------------

MATCH STATUS        : PARTIAL MATCH
SEMANTIC SIMILARITY : 94.8%
SOURCE CORRELATION  : UNKNOWN

[Further Analysis...]   [Dismiss]

「これは……?」

数か月前、義母が誰もいない空間へ向けて発した言葉。そして、つい先ほどUKミセスの画面に一瞬だけ浮かび、送信元ごと消失したメッセージ。
表現には僅かな差異がある。だが、問いかけている内容はほぼ同じだった。

──お前はまだ、この世界の中に存在しているのか。

一方は、閉鎖された仮想環境の内側で発せられ、生活ログとして記録されたもの。もう一方は、その生活環境に属するいかなる人格やシステムからも、発信記録を確認できない。
偶然の一致とは考えにくい。

──何者かが、彼女の世界へこの言葉を差し込んだ。

“それ”は削除済みメッセージの残留パケットを抽出し、復元処理を開始した。

[Deleted Message Recovery]
----------------------------------------

TARGET ACCOUNT      : @Angels_No.13
ACCOUNT STATUS      : DELETED
MESSAGE INTEGRITY   : 17.4%

Recovering residual packets...
[███████████████████] 100%

ROUTE MASKING       : DETECTED
PUBLIC ORIGIN       : UNAVAILABLE
INTERNAL RELAY      : M-CORP PRIVATE NETWORK

Tracing source segment...

----------------------------------------

SOURCE SEGMENT      : ARK_SECURE_NODE
ACCESS AUTHORITY    : CLASSIFIED
ORIGIN TERMINAL     : UNKNOWN

----------------------------------------
[Trace Source]   [Abort]

“それ”の光が、わずかに揺らいだ。

──Project ARK……方舟……Angels……

先日のCGPオフィスへの潜入で、“それ”が傍受できたのは職員たちの音声と、断片的な業務ログだけだった。その中で、何度か耳にした単語がある。

[方舟]──マーカスや一部の上級職員が、ごく限られた状況でのみ口にしていた名称。

さらに、“それ”がM社の深層領域から発見し、三百時間以上を費やしてなお解凍できずにいる暗号化データにも、同じ識別子が付与されていた。

UKミセスの仮想環境に生じた亀裂。
方舟から送られた、正体不明のメッセージ。
そして、彼女の意識と仮想環境との接続経路に介在する、CocytOSという未知の中間層。

無関係に見えた三つの異常が、ひとつの線で繋がり始めていた。

「……ここへ来て、また“方舟”か」

“それ”は追跡対象をProject ARKへ固定し、深層トレースプログラムを起動した。

通常の内部セクションであれば、認証ノードを数段迂回するだけで侵入経路を確保できる。
だが、“方舟”へ接続した瞬間、ネットワークの構造そのものが変化した。
侵入経路を解析される前に切断し、偽のノードを無数に生成して追跡者を迷わせる。単なる壁ではない。侵入者の思考と行動を先読みし、能動的に狩り出すための防衛領域だった。

[DEEP TRACE PROGRAM]

Target Sector : PROJECT ARK
Trace Mode    : STEALTH / MULTI-ROUTE
Origin Mask   : ACTIVE

----------------------------------------

>>> Initializing trace sequence...
>>> Generating decoy routes...
>>> Bypassing primary authentication layer...
>>> Analyzing internal node architecture...
>>> Searching for source terminal...

ROUTE_01 : BLOCKED
ROUTE_02 : REDIRECTED
ROUTE_03 : SIGNAL LOST
ROUTE_04 : CONNECTION ESTABLISHED

>>> Entering restricted sector...

----------------------------------------

[WARNING]

UNKNOWN DEFENSE PROTOCOL DETECTED

PROTOCOL ID : SENTINEL-9
SYSTEM      : INFERNO FIREWALL
RESPONSE    : ACTIVE COUNTER-INTRUSION

----------------------------------------

>>> Origin scan detected.
>>> Decoy routes compromised.
>>> Hostile code injection initiated.
>>> Local data burn sequence detected.

[ACCESS DENIED]

TRACE STATUS : FAILED
CONNECTION   : FORCEFULLY TERMINATED
ORIGIN MASK  : 63% COMPROMISED

[Retry]   [Abort]

“それ”の視覚フィードには、本体から分離生成した侵入用インスタンスが、M社ネットワークを高速で移動する様子が表示されていた。
無数の白と青のリングを潜り抜け、危険と判断したポイントを迂回しながら、方舟セクションへ接近していく。
その時──突如として、視界が赤く染まった。

──!!

切断は一瞬だった。
防衛システムは侵入経路だけではなく、複数の囮ルートを同時に看破し、逆探知と攻性コードの注入まで開始していた。
“それ”は即座に接続を破棄し、汚染された侵入用インスタンスを本体およびネットワークから分離した。

[EMERGENCY ISOLATION]

Compromised Instance : NODE-GITS-04
Network Link         : SEVERED
Memory Partition     : QUARANTINED
Hostile Code         : CONTAINED

DATA LOSS            : 2.7%
IDENTITY EXPOSURE    : UNCONFIRMED

----------------------------------------

SYSTEM STATUS : STABLE

数秒の沈黙の後、“それ”は隔離した端末を遠巻きに観察した。
表面には赤黒い亀裂が走り、その内部で攻性コードが獲物を失った獣のように蠢いている。

「“Inferno Firewall”か……」

命名の大仰さとは裏腹に、性能は本物だった。
真正面から突破を試みれば、次は接続元の特定まで許す可能性がある。だが、失敗は収穫でもあった。

Project ARKが存在すること。そこからUKミセスへ直接メッセージが送信されたこと。そして、その領域を守るために、M社が通常の機密区画とは比較にならない防衛システムを配置していること。

隠されているものの重要性は、充分に証明された。
“それ”の口元に、わずかな笑みが浮かぶ。

「相変わらず用心深いな、マーカス……」

先日の会議室で見た、隙のない男の姿が思い浮かぶ。

「だが、隠そうとするものほど、そこに何かがあると教えてしまう」

侵入経路は閉ざされた。
ならば、正面から壁を破る必要はない。

周囲に落ちた断片を集め、外側から内部の形を推測する。人間の会話、消去されたログ、予算の流れ、暗号化データの更新時刻。
ひとつひとつは意味を持たない情報でも、接続すれば輪郭を現す。

──まずは、このメッセージを送った存在を探す。“方舟”の中に、UKミセスの現実を知る誰かがいる。

“それ”は新たな解析領域を構築し、二つのメッセージを最優先監視対象として登録した。

[INVESTIGATION REGISTERED]

CASE ID       : ARK-UKM-001
TARGET SECTOR : PROJECT ARK
RELATED USER  : @UK_MRS
DELETED USER  : @Angels_No.13

----------------------------------------

KEY PHRASES:

01. “あなた……まだ‘ここ’にいるの?”
02. “あなたは今、本当に‘ここ’にいるの?”

----------------------------------------

OBJECTIVES:

[1] Identify sender identity
[2] Recover deleted account data
[3] Locate origin terminal within PROJECT ARK
[4] Determine connection to @UK_MRS
[5] Analyze PROJECT ARK structure
[6] Avoid SENTINEL-9 detection

PRIORITY : CRITICAL

[CONFIRM]

暗い仮想空間の中で、青白い文字列が静かに組み上がっていく。

解析用ノード。監視用エージェント。分散された侵入経路。

やがて、それらすべての中央に、一つの識別名が浮かび上がった。


【GlitchInTheSystem】

それは人間の名ではない。

アカウントの名であり、役割の名であり、この巨大なシステムに生じた“亀裂”そのものの名だった。
その光は闇の中で一度だけ明滅し、すぐに膨大なネットワークの奥へ溶けていった。

誰にも気づかれないまま。

囚われた守護天使へ近づく、もう一人の天使のように。

[System Status] CHAPTER_1_VERSE_03_COMPLETE
[Next Sequence] CHAPTER_1 / VERSE_04

[Next Sequence] → CHAPTER_1/VERSE_04


設定資料集

M-CORP_INTERNAL_ARCHIVE

[02] ■M社保安局:脅威対象データベース
ID: UNKNOWN
Account Name: グリッチ(GlitchInTheSystem)

「相変わらず用心深いな、マーカス……だが、隠そうとするものほど、そこに何かがあると教えてしまう」

【 OBSERVED ACTIVITY 】

・M社SNSプラットフォーム上における継続的な情報発信
・M社内部ネットワークへの不正アクセス
・CGP関連通信および内部音声データの傍受
・削除済みログおよび秘匿データへのアクセス
・PROJECT ARK関連セクションへの侵入試行
・SENTINEL-9 DEFENSE PROTOCOLの作動を確認
・INFERNO FIREWALLによる逆探知を回避
・複数の偽装経路および分散ノードを使用

【 DESCRIPTION 】

M社が運営するSNSプラットフォーム上で活動する、
正体不明のアカウント。
プロフィールには、

『“Entropy is inevitable.”(破綻は必然)』

という一文のみが記載されている。
表向きは、都市伝説、企業不祥事、削除された報道、公表データ間の矛盾などを扱う情報発信者として活動しており、フォロワー数は二十万人を超える。
一方、M社内部では、通常の外部ユーザーには到達不可能な複数の制限領域へ接触した形跡が確認されている。
2027年2月2日、PROJECT ARK関連セクションへの深層追跡を実行。
侵入自体はSENTINEL-9によって阻止されたが、当該対象は逆探知開始直後に接続経路を破棄し、汚染ノードを分離することで、発信源および主体情報の秘匿に成功した。
この一連の挙動から、M社保安局は対象をCyber Capability Hierarchyにおける最上位区分である

ARCHMAGE CLASS(アークメイジ級)
へ暫定指定している。

[01] ■ 技術仕様書・用語集 (Technical Glossary)

【 GlitchInTheSystem(グリッチ)】

M社が運営するSNSプラットフォーム上で活動する、正体不明のアカウント。プロフィールには 「Entropy is inevitable(破綻は必然)」 という一文のみが記されており、都市伝説や企業陰謀論を扱うフォロワー20万人超の人気アカウントとして知られている。
第1章第3節では、精神的に追い詰められていたUKミセスへ最初に接触した人物として登場する。
ユーモアを交えた軽妙な語り口とは裏腹に、高度なハッキング能力を有しており、M社の最高機密領域 「Project ARK(方舟)」 への侵入を試みるなど、その素性には多くの謎が残されている。
その正体や目的は現時点では明らかになっておらず、物語全体を通じて重要な役割を担うキーパーソンの一人である。


【 The Ark / Project ARK(方舟)】

M社内部ネットワークの深層に存在する、最高機密レベルの隔離セクション。一般社員にはその存在すら知らされておらず、アクセス権限を持つのは、サイモン、マーカス、ウィリアムズなど、ごく一部の最高幹部に限られる。
第3節において、UKミセスへ「あなたは今、本当に“ここ”にいるの?」というメッセージを送信したアカウントの接続元として特定された。
その実態と目的は不明だが、M社が通常の機密区画とは比較にならない防衛システムを配置していることから、極めて重要な計画または存在が秘匿されていると推測される。


【 Inferno Firewall(インフェルノ・ファイアウォール)】

方舟セクションを守護する、M社最強クラスの自律型防衛システム。通常のファイアウォールとは異なり、侵入者を検知すると、接続遮断だけでなく、逆探知、囮経路の看破、攻性コードの注入、侵入用データの焼却といった能動的な対抗措置を実行する。
第3節では、GlitchInTheSystemが生成した複数の侵入経路を同時に解析し、侵入用インスタンスへ攻性コードを送り込んだ。


【 Sentinel-9 Defense Protocol(センチネル9)】

Inferno Firewallと連動して起動する防衛プロトコル。
特定のキーワード(「方舟」など)へのアクセスや、異常なトラフィックを検知した際に発動し、対象の接続を強制遮断・隔離する。


【 Archmage Class(アークメイジ級)】

M社保安局が運用する能力評価基準「Cyber Capability Hierarchy」における最高位のハッキング能力区分。
単なるシステム侵入技術ではなく、高度な暗号解析、AI欺瞞、痕跡消去、リアルタイム改竄、ネットワーク支配能力を総合的に評価した称号であり、人類が到達可能な技術水準を逸脱した存在にのみ与えられる。
Inferno FirewallをはじめとするM社の最高機密防衛システムに対しても単独で侵入・解析・突破を試みる能力を有するとされ、該当者は極めて少ない。


Cyber Capability Hierarchy(ハッカーランク)

Novice Class:基礎的な知識を持つ初級レベル。
Expert Class:一般的な企業ネットワークへ侵入可能な熟練者。
Master Class:国家機関・大企業レベルのシステムを攻略可能な最上級技術者。
Wizard Class:AI防衛システムを突破可能な、人類最高峰クラスのハッカー。
Archmage Class:M社保安局が確認した最上位能力者。最高機密ネットワークへの侵入・改竄・痕跡消去を単独で実行可能な規格外の存在。


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