60代が気づいた昼休みの生かし方――「人生は短い。デザートから食べなさい」という教え――
昼休みだった。
おにぎりを食べ終え、残り十五分ほどをスマートフォンで過ごそうとしていた。
その時、ふと「人生は短い。デザートから食べなさい」という言葉を思い出した。
「人生は短い。デザートから食べなさい」
――ジャック・トーレス
ジャック・トーレスは、アメリカで「Mr. Chocolate(ミスター・チョコレート)」の愛称で知られる著名なショコラティエである。
初めてこの言葉を見た時、なるほど、チョコレート職人らしい発想だと思ったのである。
だが最近になって、この言葉を別の意味で考えるようになった。
私にとってのデザートとは何だろう。
そう考えた時、真っ先に浮かんだのが昼休みだった。
若い頃の私は、人生のご褒美はもっと先にあるものだと思っていた。
定年退職したら。
仕事が落ち着いたら。
お金が貯まったら。
いつか自由な時間ができたら。
その時こそ、自分の好きなことをやろう。
そんなふうに考えていた。
だが六十代になった今、少し違う考え方をするようになった。
人生のデザートは、最後にまとめて食べるものではないのかもしれない。
昼休みは毎日やって来る。
十五分でも二十分でもいい。
一年で二百回以上。
十年なら二千回以上。
そう考えると、これは案外大きな時間である。
ところが私は長い間、その時間を単なる休憩時間として消費していた。
昼食を食べる。
スマートフォンを見る。
気が付けば終わる。
それだけだった。
もちろん悪いことではない。
だが少し勿体なかった気もする。
そこで私は、昼休みにジョークや笑い話を考えてみることにした。
別に芸人になりたいわけではない。
落語家を目指しているわけでもない。
そもそも私は、気の利いた冗談を言える人間ではない。
若い頃から、面白いことを言おうとして微妙な空気を作った経験なら数え切れないほどある。
そんな人間がジョークを考えるのである。
我ながら無謀な挑戦だった。
まずは笑い話を調べてみた。
落語を読んでみた。
海外のジョークも眺めてみた。
すると不思議なことが起きた。
少しだけ物事の見方が変わったのである。
笑いというものは面白い。
少し角度を変える。
少し大げさにする。
少し意地悪な視点で眺めてみる。
それだけで、普段とは違う景色が見えてくる。
例えば私はダイエット中である。
だが最近思う。
六十代のダイエットは、体重より先に膝が文句を言い始める。
体重計は静かだが、階段は正直だ。
そんなことを考えて一人で苦笑している。
残念ながら、これで人気者になったわけではない。
職場で爆笑を取ったこともない。
昼休みにジョークを考えた結果、華麗なユーモアセンスを手に入れた――などという奇跡も起きていない。
だが一つだけ変わったことがある。
午後の気分が少し軽くなったのである。
頭の中が切り替わる。
気持ちが少し柔らかくなる。
昼休みは単なる休憩時間ではなく、心の換気時間だったのだ。
私はそこでようやく気付いた。
デザートとは、人生の最後に食べるご褒美ではない。
毎日の中に少しずつ散りばめるものなのだ。
昼休みは、そのために用意された時間なのかもしれない。
本を読む。
散歩する。
音楽を聴く。
ジョークを考える。
何でもいい。
大切なのは、その時間を自分のために使うことだ。
人生を劇的に変える話ではない。
だが私は最近、人生を変えるのは案外こういう小さな時間なのではないかと思っている。
十五分。
二十分。
たったそれだけの時間。
だが一年で二百回以上訪れる。
十年なら二千回以上になる。
その時間をどう使うか。
それだけで人生の景色は少し変わるのかもしれない。
最近の私は、昼休みにジョークを考えている。
だが来月はどうなっているか分からない。
ひょっとすると昼休みにヒンズースクワットを百回やっているかもしれない。
人生のデザートは、意外と日替わりメニューなのである。
私の場合、昼休みにジョークを考え始めた結果、面白い人にはなれなかった。
だが少なくとも、少し機嫌の良い人にはなれた気がするのである。
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