一枚一枚の煎餅に、職人の心意気を見た。――丁寧な仕事は、人を豊かにする。――
自宅の近くには、昔ながらの煎餅屋が何軒かある。
前を通るたびに、醤油が焼ける香ばしい匂いが漂ってくる。
ある日、ふと思い立って店に入り、ガラス張りの作業場の前に立った。
店の方に声をかけると、快く作業を見せてくださった。
職人さんは、焼き網の上に並んだ煎餅を、一枚ずつ返していく。
焼き色を見て、
位置を変え、
また返す。
同じ動作の繰り返しである。
しかし、不思議と飽きない。
よく見ると、一枚として同じ扱いはしていなかった。
火の当たり方。
焼き色。
わずかな反り具合。
その違いを見ながら、手の動きが少しずつ変わる。
機械のように見えて、実はとても人間らしい仕事だった。
そこには、長年積み重ねてきた経験と、職人としての誇りがあった。
そしてもう一つ感じたのは、食べる人への思いやりだった。
「この一枚を、おいしいと思って食べてもらいたい。」
言葉にはしなくても、その気持ちが手の動きから伝わってくるようだった。
私はその様子を見ながら、自分の創作のことを考えていた。
小説を書く。
noteを書く。
人生設計図を作る。
どれも、自分一人で完結する仕事ではない。
そのとき、ふと苦笑いした。
人生設計図の設問を作っていたときの自分を思い出したのである。
「まあ、このくらいでいいか。」
「あとで直せばいい。」
そんな軽い気持ちで作った設問が、いくつもあった。
ところが目の前の職人さんは、一枚の煎餅にも手を抜かない。
同じように見える作業を、何百回、何千回と繰り返しながら、最後まで丁寧に向き合っている。
その姿を見ていると、
「このくらいでいいか。」
そう考えていた自分が、少し恥ずかしくなった。
読者は楽しめるだろうか。
何か一つでも持ち帰ってもらえるだろうか。
少しだけ前向きな気持ちになれるだろうか。
そんなことを考えながら、一行ずつ手を入れる。
それが、本当の意味で作品を作るということなのかもしれない。
AIを使えば、文章は以前よりずっと早く書けるようになった。
それでも最後に必要なのは、人の目であり、人の心なのだと思う。
読みやすいだろうか。
伝わるだろうか。
この表現で、本当に相手の心に届くだろうか。
その最後のひと手間は、どれだけ技術が進歩しても、人にしかできない。
煎餅を焼く職人さんの姿を見ながら、私はそんなことを考えていた。
帰り際、焼きたての煎餅を一枚買った。
ひと口かじると、香ばしい醤油の香りが口いっぱいに広がる。
きっと、この一枚にも、あの何百回、何千回と繰り返してきた手の動きが詰まっている。
帰宅すると、人生設計図の設問をいくつか書き直した。
もちろん、これで完成とは思っていない。
でも、「このくらいでいいか。」という気持ちは、あの煎餅屋に置いてきたつもりである。
創作も、かくありたい。
自己満足ではなく、読者に楽しんでもらうために。
読んだあと、少しでも心が動き、何かを始めたくなるような作品であるために。
そのための手間も時間も、惜しまない。
あの職人さんの背中が、そう教えてくれたような気がした。
今日の持ち帰り
本当のプロは、自分のためではなく、相手のために丁寧な仕事をする。
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【60代から始めたもう一つの挑戦】
人生再点火の一環として、小説創作にも取り組んでいます。
現在、TALESにて伝奇ミステリー小説を公開中です。
noteとは少し違う世界ですが、こちらも私の大切な創作活動です。
興味をお持ちいただけたら、ぜひご覧ください。
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