60代、曲を作ったら物語が生まれた――作曲と小説が出会ったら?――
会社から帰宅し、夕食を済ませる。風呂に入り、猫と少し遊び、一息つく。最近の私の平日は、だいたいそんな感じだ。
若い頃は、こんな夜の過ごし方をするようになるとは思わなかった。当時の私は、ときどき平日にもかかわらず深夜の渋谷を歩き回っていたのである。失恋したわけでもない。夢を追いかけていたわけでもない。ただ何となく街を歩き、ネオンを眺め、人の流れを見ていた。今思えば、翌日の仕事はどうしていたのだろう。若さというのは不思議なもので、寝不足などまったく気にならなかったらしい。
もちろん六十代になった今、そんなことをする気はない。そんな元気があったら、翌日の仕事に備えて寝る。ところが最近、その頃の記憶が思わぬ形で蘇ってきた。私は少し前に『深夜の渋谷』という曲を作った。
雨上がりのアスファルト。ネオンの反射。終電後の街。そんな情景を思い浮かべながら作った曲である。
ただ、この曲はまだ公開していない。YouTubeにも出していないし、noteでも紹介していない。言わば、私のパソコンの中で眠っている曲だ。完成した時は、それで満足していた。少なくとも、そのつもりだった。
ところが何度か聴き返しているうちに、妙なことを考え始めた。この曲の中を歩いているのは誰なのだろう。そんな疑問だった。
若い男かもしれない。中年の会社員かもしれない。あるいは私自身なのかもしれない。考え始めると止まらない。気がつくと私は、その人物のことを想像していた。
どこから来たのか。何を考えているのか。どこへ向かうのか。そして、その主人公の物語を書き始めていた。
我ながら不思議な話である。小説を書くために曲を作ったわけではない。曲を作るために小説を書いたわけでもない。先にあったのは音楽だった。ところが音楽の中から、いつの間にか物語が生まれてきた。
最近、私はこの現象を少し面白がっている。
思い返せば、この一年ほどで随分いろいろなことを始めた。noteを書き始めた。ChatGPTを使い始めた。AIで曲を作り始めた。長編小説も書いた。そしてTALESという投稿サイトに作品を公開した。
若い頃なら、こんなことは考えもしなかっただろう。趣味は趣味。音楽は音楽。小説は小説。全部別々の引き出しに入っていた。
ところが最近は違う。曲を作ると物語が生まれる。小説を書くと、その場面に流れる音楽を考える。創作を楽しんでいると、別の創作が始まる。趣味同士が勝手につながり始めるのである。
これは私にとって新しい発見だった。学ぶことは楽しい。創作することも楽しい。だが本当に面白いのは、それらがつながり始めた時なのかもしれない。
一つの趣味が別の趣味を連れてくる。一冊の本が新しい興味を生み、一曲の音楽が物語を生む。若い頃には気づかなかったが、人生後半の楽しみとは案外そういうものなのかもしれない。
平日の深夜に渋谷を歩いていた頃の私は、まさか六十代になって、その記憶をもとに曲を作り、その曲から短編小説を書くことになるとは思ってもいなかっただろう。
人生というのは案外面白い。
そして創作というのは、思った以上につながっている。
最近の私は、そのつながりを楽しんでいる。
『深夜の渋谷』から生まれた短編小説がどんな作品になるのか、私自身にもまだ分からない。
ただ一つ分かっていることがある。
六十代になっても、新しい楽しみはちゃんと見つかるということだ。
しかも時には、一つの趣味が次の趣味を連れてきてくれる。
どうやら私は、まだしばらくその変化を楽しめそうである。
【YouTube】
『深夜の渋谷』
※この記事の元になったオリジナル楽曲です。
(YouTubeリンク)
