神に呼ばれたのか?それとも?――あの日見つけた古いコインの後日談――
皆さんは、7月9日に公開した
「神社巡りで思わぬお土産をもらってきた」
という記事を覚えておられるだろうか。
近所の雷電社と第六天神社を巡った帰り、自宅へ戻ると、ズボンのポケットから見覚えのない古いコインが一枚出てきた。
どこで入ったのか、まったく心当たりはない。
神社の落とし物だったら申し訳ない。
そう思った私は、「次に神社を訪れた時に返そう」と机の引き出しへしまっておいた。
……という話だった。
あの時は、それで終わったと思っていた。
しかし、終わってはいなかった。
数週間後。
仕事から帰り、いつものように机の引き出しを開けた。
その日は特に探し物があったわけではない。
何気なく視線を落とした瞬間、違和感があった。
古いコインが二枚並んでいた。
私はしばらく、その二枚から目を離せなかった。
一枚しかしまっていない。
そう思いながら引き出しを閉める。
数秒置いて、もう一度開ける。
やはり二枚だった。
「返しに来いということなのだろうか。」
そんな考えが頭をよぎる。
もちろん、すぐに打ち消した。
そんなはずはない。
それでも、その晩は何度も机の引き出しの方へ目が向いた。
翌週の土曜日。
神社へ返しに行く前に、一つだけ確かめておきたいことがあった。
この土地に、何か古い伝承は残っていないのだろうか。
そう思い、図書館の郷土資料室を訪ねた。
冷房の効いた静かな部屋だった。
係の方へ声を掛ける。
「このあたりに伝わる古い民話や伝承のようなものを調べたいのですが。」
司書は少し考え、
「それでしたら……。」
と言って書庫へ入っていった。
しばらくして戻ってきた手には、一冊の古びた冊子があった。
『○○市郷土史研究会会誌 平成十年版』
今は解散した郷土史研究会が最後に発行した会誌で、特集は
「聞き書きで残す○○の伝承」
だった。
ページをめくる。
紙は少し黄ばんでいる。
雷電社の項目を見つけた。
そこには二つの神隠しが記されていた。
一つは江戸末期。
凶作の年、十歳の農家の男児が、空腹のあまり雷電社付近を歩いていたまま帰らず、行方知れずとなった。
村人総出で捜索したが発見されず、後年まで神隠しとして語り継がれたという。
私はページをめくる手を止めた。
空腹のまま歩き続けた少年の姿を思い浮かべようとしたが、うまく想像できなかった。
もう一つは昭和十七年。
他県へ嫁いだ女性が、病気療養のため実家へ戻っていた。
「雷電様へお参りしてくる。」
そう家族へ告げて家を出たまま帰らなかった。
青年団や消防組も加わって捜索が行われたが、消息は判明しなかった。
地元では、この出来事も神隠しとして語り継がれてきたという。
冊子を閉じた。
もちろん、聞き書きである。
史実とは限らない。
昔話や言い伝えが混じっていても不思議ではない。
それでも、頭に浮かぶのは二つの神隠しではなかった。
机の引き出しに並ぶ二枚の古いコインだった。
偶然だ。
そう考えるのが一番自然だ。
……そう思いたかった。
図書館を出ると、夕方の日差しは少しだけ傾いていた。
私は駐車場へ向かいながら決めた。
やはり、一度あの神社へ返しに行こう。
その時はまだ、あの老人と出会うことになるとは思ってもいなかった。
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【60代から始めたもう一つの挑戦】
人生再点火の一環として、小説創作にも取り組んでいます。
現在、TALESにて伝奇ミステリー小説を公開中です。
noteとは少し違う世界ですが、こちらも私の大切な創作活動です。
興味をお持ちいただけたら、ぜひご覧ください。
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