「やめよう」と思うほどやめられない。その理由を心理学が教えてくれた。
在宅ワークの午後。
資料をひと区切り終え、コーヒーを淹れる。
「さて、おやつでも食べるか。」
戸棚を開けると、ポテトチップス、おせんべい、チョコレートと選び放題のおやつのストック・・・
以前の私にとっては、午後三時のレギュラーメンバーだった。
「今日は少しだけ。」
そう言いながら袋を開ける。
しかし、この「少しだけ」という言葉ほど信用できないものを、私は他に知らない。
一枚だけ。
一つだけ。
そのはずが、気づけば袋の底が見えている。
犯人は誰だ。
家には私しかいない。
どうやら今回も私らしい。
健康診断の結果を見て反省し、
「もう高カロリーのおやつはやめよう。」
そう決意したことも、一度や二度ではない。
ところが、しばらくすると元通り。
意志が弱いのだろうか。
そう思っていた。
ところが、ある心理学の研究を読んで、その考えが少し変わった。
オランダ・ユトレヒト大学の心理学者 Marieke A. Adriaanse(マリケ・A・アドリアーンセ) らは、2011年、社会心理学分野の国際的な査読誌 Personality and Social Psychology Bulletin(PSPB) に発表した研究で、興味深い結果を報告している。
論文のタイトルは、
Planning What Not to Eat: Ironic Effects of Implementation Intentions Negating Unhealthy Habits
(「何を食べないかを計画することの皮肉な効果」)。
研究では、
「高カロリーのおやつを食べない」
と決めるより、
「高カロリーのおやつを食べたくなったら、健康的なおやつに置き換える」
と決めた方が、習慣を変えやすいことが示された。
さらに、「食べない」と否定するだけでは、皮肉にも元の悪い習慣が強まる「皮肉なリバウンド効果(ironic rebound effect)」が見られる場合もあったという。
なるほど。
それなら、我慢大会はやめよう。
私は、おやつを禁止するのをやめた。
代わりに買ってきたのは、ミックスナッツだった。
最初の数日は、やはり物足りない。
正直に言えば、
「ポテトチップスの方がおいしい。」
そう思った。
でも、一週間。
二週間。
気がつくと、ミックスナッツを食べることが普通になっていた。
おやつをやめたわけではない。
置き換えただけである。
すると、不思議なことに、ポテトチップスを買う回数も自然に減っていった。
この研究を読んで気づいた。
悪い習慣と真正面から戦う必要はないのかもしれない。
その場所に、少しだけ良い習慣を置いてみる。
人は、その方が自然に変われるらしい。
これは食事だけではない。
夜更かしを読書に。
スマートフォンを見る時間を散歩に。
エレベーターを階段に。
人生もまた、「やめる」より「置き換える」方が続くことが多いのかもしれない。
六十二歳になって思う。
人生は、大きな決意で変わることもある。
でも、多くの場合は、小さな置き換えの積み重ねで変わっていく。
最近は、そんな気がしている。
今日の持ち帰り
悪い習慣をやめようとするより、良い習慣に置き換えよう。
参考文献
Adriaanse, M. A., van Oosten, J. M. F., de Ridder, D. T. D., de Wit, J. B. F., & Evers, C. (2011). Planning What Not to Eat: Ironic Effects of Implementation Intentions Negating Unhealthy Habits. Personality and Social Psychology Bulletin, 37(1), 69–81. https://doi.org/10.1177/0146167210390523
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