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なんでもない日記:いつものデスクを離れ、見たことのない顔に会う

画面の通知と、遠い記憶の重み

夕方前、ポケットの中でスマートフォンの画面が短く光った。

画面に表示されたのは、かつて同じ職場で過ごした元同僚からの通知だった。

「今年の夏祭り、ステージに出ることになったから見に来てほしい」

その一行を目にした瞬間、指先がピタリと止まる。私たちが住む街の夏祭りは、ただの地域イベントではない。街全体が熱気に包まれ、多くの企業も参加する一大行事だ。

メッセージをくれた相手は、いまの職場を去った元同僚だ。退職してからは年に数回近況を話す程度の距離感で、決して毎日連絡を取り合うような間柄ではない。だからこそ、この誘いには驚いた。

「晴れ舞台を見せたい」と思ってもらえる関係の中に自分が含まれていたことが、純粋に嬉しかった。

早退の申請と、踏み出す足の軽さ

提示された出演時間は夕方の早い時間帯だった。最後まで見届けようとすれば、仕事を早退しなければならない。

普段の私なら、予定外の早退には躊躇していただろう。「後から影響がないか」「段取りが乱れないか」といった細かい計算をしてしまうのが日常の癖だからだ。だけど、今回の選択肢を前にして不思議と迷いは消えていった。

滞りなく回すことばかりを優先していると、目の前を通り過ぎる大切な瞬間を見逃してしまう。仕事も大切だが、後から鮮明に思い出されるのはいつだって「思い切って自分の足を運んだ日の出来事」だ。

「見に行くよ」と返信を打つ指先は、いつもより少し軽やかだった。上司に早退の申請を出すとき、胸の奥が小さく跳ねた。決められたレールから少しだけ踏み出すこと。それ自体が、私にとって今年の夏におけるちょっとした冒険になりつつあった。

スポットライトの下の、知らない表情

当日の夕方、会社を後にして祭り会場へと向かった。太陽の残光が街並みを真っ赤に染め、浴衣姿の人々や出店の香ばしい匂い、遠くから太鼓の重低音が響いている。

大勢の観客が集まるステージの前で、人混みに紛れながらその時を待った。やがて音楽が鳴り響き、出演者たちがステージの上に姿を現す。

スポットライトを浴びるその人を目にした瞬間、胸がぎゅっと締め付けられた。そこにいたのは、かつて職場のデスクで静かにパソコンに向かっていた同僚ではなかった。圧倒されるような存在感を放ち、全身で表現を楽しんでいる一人の表現者だった。

人は誰しも、職場で日常的に見せている姿だけで出来ているわけではない。見えない日常の裏側に、こんなにも強い情熱を秘めている。応援しに来たはずのこちらが、いつの間にか大きな力をもらっていた。挑戦する人の姿は、これほどまでに人の心を揺さぶる。

耳に残る太鼓の音と、問いかけ

演技が終わり、地鳴りのような拍手が会場を包んだ。

「忙しいのに来てくれてありがとう」と晴れやかに笑う顔を見られただけで、早退して駆けつけた価値は十分すぎるほどあった。

帰り道、賑やかな喧騒を背にしながら夜道をゆっくりと歩いた。もしあの時、「仕事があるから」と断っていたらどうなっていただろう。

だけど私は自分の足を動かした。誰かからの小さな招きに耳を澄ませ、ほんの少しだけ行動を変えてみること。その一歩が、胸を打つ時間を運んできてくれる。

帰宅した今も、耳の奥に太鼓の余韻が心地よく残っている。私たちは日常のちょっとした決断で、あとどれくらい、心を動かす瞬間に巡り合えるのだろうか。

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