「初め」か「始め」か
更新日:2025/10/24
小論文・作文指導者の〆野が普段の添削・採点指導からよく見かける、中高生の間違えやすい表記を紹介し、世の中高生・受験生に警鐘を鳴らすのが、このシリーズ【間違えやすい表記】。
今日は「初め」と「始め」についてです。この漢字表記を取り違えるケースを中高生の作文や小論文・志望理由書では多く見かけます。たとえば「水泳を習い始める」を「習い『初める』」としたり、「こんな高い山初めて見た」を「『始めて』見た」としたりするケースですね。これらの書き分けについて、今日はお話ししていきます。
まずは、漢字としての意味の違いに着目すると、どちらで書くのか迷うということがなくなります。「初」は「ものごとのはじめ。はじめのころ。はじまり」を意味します。「最初」という熟語がある通り、この漢字を英単語に置き換えれば「first(ファースト)」、つまり「一番目」ということになります。ですから、「初めて~をした」というとその行為をしたことが今までなく、今回が「一番目の経験=はじめて」だったということです。対して、「始」は「ものごとのはじまり、もと、おこる」という意味で一見同じように見えますが、こちらは英単語に置き換えると「start(スタート)」、つまり「ある行動を開始する」ということです。ですからこの「始まり」とは、継続する(していく)状況や行動の「起こり」であり、この「始まり(始め)」は「終わり」と対概念になるものです。こうした、漢字の意味の違いからどちらの表記が適切なのか考えるとよいでしょう。
次に、文法上の違いから見ていきます。まず「初」に「初める(はじめる)」または「初まる(はじまる)」という訓読みは存在しません。「初」の訓読みは「はじめ・はじめて・はつ・うい・そめる」であり、「初め(名詞)」か「初めて(副詞)」しかありえません。つまり動詞の「はじめる」・「はじまる」という読み方や用法は存在していないのです。「初」を使った動詞としての読み方は「初める(そめる)」であり、「はじめる」・「はじまる」という読み方が「初」にそもそもありません。ですから、動詞の「はじめる」・「はじまる」は「始」しかありえないということになります。この段階で、「初める(はじめる)」・「初まる(はじまる)」は表記として誤っていることがわかります。
さて、その上で「実践編」に入ります。いくつか表記例を挙げていきましょう。
①「年のはじめ」。これは一年の最初だから、「年の初め(=正月)」。
②「文章のはじめ」。これは「文章の書き始め」だから、「文章の始め」。だから本の頭にある「はじめに」は漢字で書くと「始めに」。これは本のラストの「おわりに」とセットになる。
③「はじめて海外に行く」。これは今まで行ったことない海外に行く初の体験だから、「初めて~」。副詞としての用法。
④「トレーニングをはじめてみた」。これは「トレーニングをスタートした」ので「始めてみた」。動詞としての用法。
⑤「先生が怒りはじめてもう10分以上が経過した」。これは「怒り始める」つまり「怒る」という行動を「開始する」ということ。補助動詞(先の動詞の後ろについて先の動詞に意味を付け加える動詞)としての用法。「先生が怒り始める」と「もう10分以上が経過した」という二文を一文とした「重文」。この「はじめて」は③の副詞ではなく「下一段活用動詞『始める』の連用形『始め』+接続助詞『て』」。
⑥「ビールは飲みはじめが一番おいしい」。「一口目がおいしい」ととらえて一番最初の意味の「初め」としたくなるが、これは⑤と同じく「飲み始める」という補助動詞の用法(名詞化して「飲み始め」)。つまり「飲んだスタート段階がおいしい」という意味。動詞の後につく補助動詞「はじめ(る)」はほぼ100%「始め(る)」となる。なぜなら「初める(はじめる)」はありえないからである。
⑥最後は読みの問題。「書き初め」。これは「かきはじめ」とは読まない。ご存じ「かきぞめ」。年の初めに行事として行う、その年最初の習字のこと。動詞「初める(そめる)」が名詞化し「初め(そめ)」。なお、「書き初め」で一つの名詞である(「書き初める」という表現が現代語としてはほぼ使われないため)とする説もある(同じような言葉に「馴れ初め」)。「初」の動詞としての読み方は「初める(そめる)」しかない。
(注)補助動詞など補助用言は、本来はひらがな表記が望ましいが、今回は便宜上漢字表記とした。
どうでしょう。「初め」と「始め」の書き分けのポイントはわかりましたか。漢字の意味を考えて使うと間違えは少ないと思いますが、判断しにくいときは「『初』に『はじめる』・『はじまる』の読みはない」ということを思い出すとよいでしょう。
(検索では以下の文献やサイトにお世話になりました)
三省堂国語辞典 第七版
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