[毎ショ]天使のつま先(約440文字)
「隆志、どうしてもやりたいの?」
隆志は、慎重に頷いた。
バレエ教室。壁一面の鏡、横切る一本の手すりが、少年の引き結ばれた唇のようだった。
営業スマイルの先生を前に、隆志の母親は露骨に困った表情をしながら、我が子の望みを叶えることにした。
「ズル休みはダメよ。それでも良いのなら、やってみなさい」
手すりのように引き結ばれた唇のまま、隆志はもう一度、慎重に頷いた。
母親の心配とは裏腹に、少年はとても熱心に、自分よりも三歳は年下の幼稚園児たちに混ざりながら、熱心にポアントの練習をしていた。
「ほら、足元ばっかり見てると姿勢が悪くなるわよ」
隆志の目の前に、トウシューズが現れる。
顔を上げると、小学校高学年ほどの女の子。希和が立っていた。
「ほら、ポアントはこう」
練習量を示すようなトウシューズで、希和が美しい姿勢を見せる。
その美しい足先に、隆志はドギマギした。
「やってみて」
希和に体を支えられる。
さっきまで痛かったつま先が、熱い。トウシューズが、天使の羽根のように軽かった。
田原にかさんの毎週ショートショート、6回目の参加です。
手癖で書いていると、1500字くらいまで膨らませてしまいそうで、そこからどうやって削って、ショートショートとして体裁を整えていくかが難しいな、と思いました。
今回のような、お題にストレートに行くと、余計にそう感じます。
面白いと感じた方は、スキやコメント等、よろしくお願いします。
作者の励みになります。
それでは、また来週のショートショートで。
