「おいしそう!」はどうすれば伝わるのか?──10年間“シズル”を考え続けて分かったこと
こんにちは、Todaです!
2017年にOisixという食のサブスクリプションサービスを展開する事業会社に転職し、インハウスのアートディレクターとして働いています。
過去にこちらのnoteでも書いたように、Oisixのデザイナー達は、
どう表現すれば、“おいしそう!”が伝わるのか?
そもそも、“おいしそう!”とは何なのか?
といったことを日々考えています。
かくいう僕も、Oisixに転職する前から人一倍食には興味・関心があったと思います。いつぞやからカレーはスパイスから作るようになりましたし、昨年からはピザを生地から作り始めるようになりました。このまま順当に歳を重ねれば、たぶん蕎麦も打つようになるでしょう。
銀杏とところてん以外は基本何でも食べますし(逆にその2つは100万円積まれてもNo!)、最後の晩餐にするならEggs'n Thingsの生クリームたっぷりのパンケーキがいい!と思っているくらいに甘党でもあります。
気づけば、食いしん坊が高じて寝ても覚めても「おいしそうとは?」を考え続ける人間になってしまい、どうにもこうにも訳が分からなくなってきてしまったので、頭の整理も兼ねて、僕が考え続けてきた「おいしそうとは?」についてお話したいと思います。
そもそも“シズル”って何?
食を扱う会社であるOisixでは、デザイナーだけでなく企画者も頻繁に口にする“シズル(Sizzle)”という言葉。
この言葉について調べてみると、揚げ物や肉が焼ける時の「ジュージュー」と音を立てる意味で、そこから転じて消費者の感覚を刺激して食欲や購買意欲を喚起する手法を意味する言葉となったそうです。
僕はこのシズルを、
理屈を超越して感じさせてくれる、その商品のらしさや魅力
と解釈して捉えています。
なので、僕は食べ物だけでなく全ての物にはそれ特有のシズルがあると考えています。例えば、車のフロントフェンダー部分のハイライトの輝きは、車の持つシズルの一つだと思います。

「おいしそう!」を伝える写真を撮影する時に意識していること
Oisixのデザイナーの主な仕事に、食べ物の撮影ディレクションがあります。その際、シズル=その商品のらしさや魅力をいかに引き出せるか?を常に意識しています。
しかし、それと同等かそれ以上に意識していることは、 その商品を買おうと思ったときにお客様が感じる“ボトルネック”をどう解消するか?です。
ここで言うボトルネックとは、その商品に興味を持って、いざ買ってみようかな?と思った時に生じる、買うのを躊躇してしまう理由のことを指しています(マーケティング用語に寄せるとしたら、“クロージング”に近い概念として捉えています)。
撮影ディレクションの仕事の最終ゴールは、お客様に商品をおいしそうと感じてもらって購入し召し上がって頂くことなので、写真表現で解決できることであれば、ボトルネックの解消にも努めます。
ボトルネック(買うのを躊躇してしまう理由)の例
・誰が/どこが作ったのか? → 信用性に欠ける…
・どんな味がするのか? → 味で失敗したくない…
・どれくらいの量なのか? → お値段に見合っている量なのかな…
・どんな使い方なのか? → 面倒くさい調理はしたくない…

例えば、上は伊勢湾産の冷凍アサリの商品写真です。最初は、シズルのあるおいしそうな写真だけで販促をしていましたが、
・どうやって調理すればいいのかよく分からない
・砂抜きをする必要があって面倒臭そう
といったボトルネックがあり、思うように販売数が伸びていませんでした。

そこで、袋からそのまま出すだけで簡単に調理に使えることを伝えるために上の写真を新たに撮影したところ、売上が7倍にアップしました。
こうしたボトルネックの解消を写真などでお客様に伝えることで、売上が何倍にもアップした事例がたくさんあります。
「おいしそう!」を極めるために日々研究していること
では、おいしそうな写真を追求するために、日頃どんなインプットを積み重ねているのか?というと、世の中のおいしそうな写真や映像をとにかくたくさん観察しています。雑誌やテレビや映画など、さまざまな媒体を見ています。
中でも僕がよく参考にしているのは、“インサート”という料理紹介映像です。ラーメン屋さんを紹介している時に差し込まれる、麺を箸で持ち上げている映像みたいなやつです。インサートは、その料理が一番美味しそうに見える瞬間を切り取った映像なので、大変参考になります。
映画などの映像作品の中にも、「おいしそう!」と思わず唸ってしまうシーンがたくさん登場します。有名なものだと、ジブリ作品の食にまつわる描写の精巧さでしょうか。
個人的にお気に入りの映画は、クエンティン・タランティーノ監督の“イングロリアス・バスターズ”のカフェでのシーンです。
“アプフェル・シュトゥルーデル”というオーストリアの伝統的なお菓子を食べるシーンがあるのですが、クリームをお皿にポトンと乗せる時の質感や音、パイ生地を切る時のサクサクとした感触、パイとクリームという2つの要素を織り交ぜて口まで運ぶ時の描写などなど、視覚と聴覚をくすぐる「おいしそう!」の表現がふんだんに詰まっているシーンだと思います。(実際は中々シリアスなシーンなのですが…)
10年間の撮影の中から選んだ珠玉のおいしそう!写真BEST3
かれこれ10年以上Oisixで働いてきた中で、通算1,000点以上の食べ物を撮影ディレクションしてきました。その中から、「これはメチャクチャおいしそうに撮れたぞ!」と思える写真を、完全に僕の独断と偏見で3つ選んでご紹介します。
第3位:ラーメン特集

その名の通り、ラーメンの販促に特化した特集ページのFV用の写真です。
個人的な見せどころは、スープに浮かんだ油膜の匙加減と、バターの溶け具合の絶妙さです。
この撮影の最大の課題は、醤油・味噌・塩の3種類のラーメン全てを、出来たてほやほやのおいしそうな状態で見せるにはどうすればいいか?ということでした。
食品の撮影では、おいしそうな状態が一瞬しか保てない、時間との勝負になる商材がいくつかあります。撮影を始めたそばからすぐに溶けはじめてしまうアイスクリームが代表例です。ラーメンもまた、麺にスープを注いだその瞬間から、瞬く間に麺が伸びていってしまいます。
3種類のラーメンを個別に撮影して、3分割の画面でビジュアルを構成すれば、この問題は簡単に解決できたかもしれません。しかし、僕は3つのラーメンをひとつの空間に共存させることによるシズル感・ライブ感を、どうしても出したかったのです。
そこで考えたアイデアが、黒背景でラーメンを真俯瞰アングルから撮影し、後で1枚絵に合成するという見せ方でした。こうすることで、それぞれのラーメンはできたての状態で、なおかつ同じ空間に置いてあるようなライブ感のあるビジュアルを作ることができました。
第2位:神戸牛の焼肉セット

年末年始のごちそう需要のために開発された、売価10,000円近くする焼肉セットです。
この撮影での最大の課題は、火を使わずにいかに本当に炭火で焼いているかのような臨場感が出せるか?でした。
弊社では、自社内にスタジオを構えていて、社員のカメラマンもいて内製化していますが、オフィスビルの一室を間借りしているかたちなので、スタジオ内は火気厳禁です。
このような制約がある中でまずやったことは、実際に焼肉屋に行って炭火で焼いている肉を観察することでした。滴り落ちた肉汁が炭に当たることで煙や炎が上がるなど、色々な発見がありました。
この観察で学んだことを基にして撮影に臨み、決して嘘に見えないような肉の焼き加減のつけかた、炎の上がり方(炎は合成です)、煙の上がり方をディレクションしました。
ちなみに、カメラのシャッターと連動して発光するライトを七輪の下に忍ばせて、本当に炭が燃えているように見せるというカメラマンのスーパーテクニックも駆使されています。
第1位:いちごフェア

あまりんや紅ほっぺといったブランドいちごや、いちごを使った加工品やスイーツを取り扱う特集ページのFV用の写真です。
いちご本来のフレッシュさをストレートに表現するために、瑞々しいいちごが宙に舞っているようなイメージを作りました。
この事例を1位に選んだ理由は、このビジュアルがデザイナー・カメラマン・スタイリストの3者の知恵と創意工夫が盛大に盛り込まれた1枚だからです。
この写真は、水気を帯びたいちごが水滴とともに宙を舞っているようなビジュアルになっていますが、実際はいちごは1個1個を串に刺した状態で、色々と角度を変えて撮影していました。
この時、いちごにいい感じの水滴が付着するように、水にとろみをつけてスポイトで一滴ずついちごに纏わせているのですが、これはスタイリストさんのアイデアと技術による賜物でした。
次に、宙に舞っている水ですが、実はほんの少しだけ墨汁で色付けがされています。こうすることで、ピンクのバックペーパーの背景でも水滴がしっかり見えてくるようになりますが、これはカメラマンさんのアイデアでした。

そこにデザイナーの合成のアイデアとテクニックが加わることで、実写でしか引き出せないシズルが活かされたビジュアルを作り上げることができたのです。
「おいしそう!」と思わず心揺さぶられた体験を大切に
「おいしそうとは何だろう?」
「シズルとは何だろう?」
という問いに10年以上向き合い続けてきた末にたどりついた結論は、“シズルとは、理屈を超越して感じさせてくれる、そのものらしさや魅力”ということでした。そんな魅力を撮影で表現するための試行錯誤を、Oisixのデザイナーは日々行っています。
これって要は、理屈を超越したもの=エモーショナルなものを徹底的にロジカルに考えて表現するということなので、メチャクチャ難しいしメチャクチャ奥が深いです。
時折、社内のデザイナーから、
「どうしたらおいしそうな写真を撮れるようになりますか?」
と質問されることがあります。
僕のアンサーとしては、見ただけで五感に訴えかけるようなおいしそうな食べ物に出会った時に、「何がこんなにも自分の心を揺さぶるのか?」を深く考えることが大事だと思います。
BEST3で紹介したラーメンも焼肉もいちごも、全部僕の大好物です。目の前に出されたらヨダレが止まらずにすぐにガッつきたくなりますが、「なぜこんなにおいしそうなんだろう?」と冷静かつ俯瞰して観察することも大切なのです。
出てきた直後の熱々のラーメンのスープの油膜ってどんな状態なんだろうか?それが時間が経って冷めてくると、どう変化してゆくのか?みたいな観察がものをいいます。
食べ物の撮影ディレクションの仕事をかれこれ10年以上続けてきましたが、いまだに全くもって飽きません。むしろ年々楽しさが増しています。食べ物のシズルを追求することは、物事の本質を見極める訓練になるからです。この、本質を見極める力が身につけば、どんな仕事にも活きると思っています。
これからも悩み・楽しみながら、試行錯誤を続けてまいります!!
