すぐそこにある《残業》(SS;1,300文字)
はい、では、昨日出した算数の宿題、提出して下さい! ……お、どうした、ユウタ、また忘れたのか?
「いいえ、忘れたわけではありません。『残業規制』をしているんです」
はあ? 残業? 規制? ……また意味がわからんことを……
「本来、学校での授業は授業時間内に終わらせるべきですよね? それ以外は残業 ── それどころか、家でやらせるのは『持ち帰り残業』、相当ブラックな状態です!」
ここは学校だ、会社じゃない! 宿題は君たち自身のために課しているんだ。考え違いするんじゃない!
「ブラック企業も、これは従業員教育の一環だとか、ひとりひとりの成長のためだとか言って洗脳しようとするそうですね……それと同じで……」
だからなあ、企業と一緒にするなって言ってるだろう! ……先生だってなあ、宿題の採点なんて余分な仕事、ホントはしたくないんだ! ただでさえ『みなし残業制』で、どれだけ働いても給料変わらないんだから!
「お! ようやく本音が出てきましたね、『残業手当も出ない余分な仕事はしたくない』 ── でも、宿題出さないと怠慢教師と騒ぎ出す保護者もいるし、トラブルが校長先生や教育委員会の耳に届くと先生の出世にも関わりますもんね?」
そうだ! あ……いや、出世なんてどうでもいいが、クレイマー・ペアレントは厄介だぞ! あ……いや、このクラスにはいないと思うが……とにかく、キミらが家でも勉強するようにさせて欲しい、という保護者ニーズは強いんだ。
「でもね先生、学校が終わった後、遅くまで塾に行かされヘトヘトになって、とてもじゃないけど家で宿題やる余裕なんてない、特に中学入試と無関係な宿題ならなおさらだ、なんて子もいるよ」
そうなんだよなあ……一方で、テストに出る問題を予測するためにも、宿題は必要だ、という子もいるからなあ……
「で、どうでしょうか? ── 先生は宿題を出す、やりたい子はやる、必要ないと考える子やボクのように残業規制中の人間はやらない ── 残業を拒否したからといって先生がとがめだてしたり『人事考課』に影響するようなことはない……というのは?」
『人事考課』って、ひょっとして通知表のことか? うーん……でもなあ……
「採点業務が減るから先生の『サービス残業』も減る……つまり、先生と児童、両方の『働き方改革』を一挙に進めるわけです!」
おお! あ……いや……お、どうした? ……教室中拍手じゃないか……
「残業したい人は進んで引き受けしっかり稼ぐ、ワークライフバランスを重んじる人は定時で上がって私生活を愉しむ……」
『私生活を愉しむ』って……ゲーム三昧じゃマズいと思うが……それに『稼ぐ』って……?
「いやいや、先生、勉強って ── 中学入試のための塾通いも含めて ── 本質は将来に対する投資ですから、今すぐじゃなくても、将来の報酬を稼ごうとしている行為なんです」
……ほう……なるほど……
「そうしてボク、この国にはびこる『残業文化』を変えていきたいのです!」
お、おおおお! なんかよくわからんが、すごいな、ユウタ! おお、みんな、立ち上がって拍手か! ようし、この国の悪しき『残業文化』、一緒に変えていこうじゃないか!
