すぐそこにある《ジェンダー》(SS;2,300文字)
はあい、いらっしゃーい。どうぞどうぞ、入って入って、いらっしゃーい……あれ? 一番後ろに……なんでユウタくんがいるの? 招待していないのに!
「ハルミちゃん、こんにちは」
いや、いやいやいや……何かの間違いでしょ。ユウタくんには声かけてないよ。第一、今日は……
「他の女の子の前だからって、照れなくてもいいよ」
照れてるんじゃない! そもそも今日は雛祭りの集まりよ、女の子だけのお祭りじゃない! ユウタくんなんて、ただでさえ『出禁』扱いなのに、雛祭りのパーティーに呼ぶはずないじゃない!
「その『女の子だけのお祭り』という定義、古いんじゃないかな? お、雛人形、飾ってるね。このお内裏さま、ボクに似てるかな?」
似てるわけない! っていうか、勝手に上がって来ないでよ! あ、他のみんなは上がってね。ユウタくんにだけ言ってるんだから……さっさと帰りなさいよ!
「え、でも……招待されてるんだけど……」
してないって! くどいわね!
「……妹のナツミちゃんに」
え、ホント? ……ナツミ、あんた、ユウタくんをウチに呼んだの? この男の素性がわかってて招待したの? 騙されているんじゃないの? 変なこと、されていないでしょうね?
「……こらこら」
え? ……雛祭り行っていいかって何度も何度も聞かれて、いいんじゃないのって答えた? ……そんなの、招待でもなんてもないじゃない、無理やり言わせてるだけじゃないの!
「お! 妹に先を越されたって、動転しているようだね。焦らなくてもいいよ、人生は長いんだから……」
何バカなこと言ってるのよ。ナツミはまだ3歳なのよ! 雛祭りが女の子だけのお祝いだって、まだよくわかっていないのよ!
「さっきも言ったけど、女だけ、男だけ ── なんていう、特定のジェンダーに限定する集会、マズいんじゃないかな」
── 集会? いや……だって、雛祭りだもの!
「ほら、『雛飾り』だって一番上の壇には男女のカップルがいるし、五人囃子と三人官女は職業を性別で分ける『ジェンダーステレオタイプ』の匂いはするけれど ── 一応男女共同参画の体ではあるよね? 職業選択の自由が性別で制限されているらしいのは改善課題として、その前で行う集会は男女共同参画の形が望ましいんじゃないかな?」
出た! 何でも難しく言って煙に巻こうとするんだから! とにかく、アタシたち、お雛様の前で桜餅や雛あられを食べておしゃべりするだけなのよ。男の子が入ってもつまらないんじゃないの?
「それも、性別に対して固定観念的な特徴を当てはめる『ジェンダーステレオタイプ』の偏見だね」
……そうなのかしら。
「ま、男子、というより、これまで参加を認められていなかった個人としてのボクが加わることによって、このイベントに変革をもたらすことは期待していいんじゃないかな?」
変革? どう変えるの? ……雛祭りなんて、変わりようがないと思うけど。
「じゃあ提案しようか。この家の階段を雛壇にみたてて、全員並んで『リアル雛飾り』をやろうじゃないか! 五人囃子は実際に楽器を演奏するんだ ── ほら、鍵盤ハーモニカとか、縦笛とか、カスタネットとかでさ! それをビデオ録画してみよう!」
そんな変なこと、やらない! ……あれ、みんなどうしたの? 乗り気なわけ? これまでいつもお菓子食べておしゃべりしてるだけでつまらなかった……かも?……って?
「そうだよ。人生には変化が必要なんだ!」
……まあ、みんながそれでいいなら……やってもいいけど……
「ここには今、ナツミちゃんも入れてちょうど10人だね? 職業選択はジェンダーフリーでなくっちゃいけないけど、本来の雛祭りの意図を考えれば、お内裏様だけは唯一の男性であるボクがやるのがいいかもしれないね。……では、お雛様をやりたい人! ……おっと、一斉に手が上がったね……ナツミちゃんも? ハルミちゃん以外全員だね? じゃあ……」
ちょっと待ってよ! ここはアタシの家じゃない? だったらアタシがその役、やった方がいいんじゃないかしら?
「お、ハルミちゃんもボクの隣に座りたいのかい?」
違う! ぜぜぜ絶対に違う! 誤解しないで! でも、ここはさあ、やっぱりアタシが責任を取るというか……
「責任を取るなら、ボクを招待したナツミちゃんかな……お、ナツミちゃん、ノリノリだね……お雛様になりたい?」
ダメよ! ナツミはまだ3歳なのよ、いくらなんでも早すぎるでしょ! ……仕方ないからアタシが……
「ハルミちゃん、やっぱりボクの横が……」
違う違う! ああ……混乱してきた……ユウタくんのことはイヤなのに……イヤなのに……ああ! ああああ!
「おっとっと、ハルミちゃん、白酒……じゃなくて甘酒……だとしても、ガブ吞みはやめた方が……」
よし、決めた! みんな、今日の雛祭りはお内裏様抜きでやりましょう!
「え? どゆこと?」
今の世の中、男性パートナーを持たない、という選択肢もアリじゃない? これまで女性たちは『結婚しなくちゃ』というある種の『呪い』をかけられていたの、そのために嫌なことがあっても我慢し続けていた女性もたくさんいた。今こそ、『お内裏様レス雛飾り』で行こうよ!
「あ、雛壇からお内裏様を! ぶん投げた!」
だから、階段に作る『リアル雛壇』もお内裏様抜きで行きましょ! どう? ……あ、みんな賛成?
「え、この急展開は予想していなかったな……」
じゃ、ユウタくんは帰って! はいはいはいはい、帰った、帰った……
「ああ……そんなあ……」
