「escalationは必要ない」って教わったけど──あの頃の自分に届きそうな論文に出会った話。

感染症科フェローになりたてのあの頃、頭の中は常に「これで合ってるのかな…?」とぐるぐる。

そんな私に、ボス(敬愛する上司)が放ったひと言。

「escalationなんて実際には臨床で必要ない。きちんと微生物を推定して診療すれば、狭く始めてもカバーできていることが多い。
escalation が必要になるということは、微生物の推定が甘いのだ。」

「うーん、でもそうは言っても、escalationが必要ないということは、もともとbroadスペクトラムなのでは?」と、当時の私はちょっとだけ思ってました。
まるで初デートにスーツ、ネクタイ、勝負靴で来ちゃう感じで、「最初からちょっとやりすぎ?」

が、3年のトレーニングを経て今や立派な“broad開始体質”。
初期抗菌薬が carbapenem でも「まあ、仕方ないよね」と思うようになった自分がいる…。

でも、先日読んだこの論文、11年前の自分に向けて書かれたのかと思うくらいタイムリーでした。

🔍紹介したい論文はこちら:
"Association Between Delayed Broad-Spectrum Gram-negative Antibiotics and Clinical Outcomes:
How Much Does Getting It Right With Empiric Antibiotics Matter?"
(Clinical Infectious Diseases 誌に2025年1月公開)
👉 https://academic.oup.com/cid/advance-article/doi/10.1093/cid/ciaf039/7985686?searchresult=1

🧪簡単に言うと…
「最初から broad に行け!」という鉄則に、ちょっと待ったをかけるような論文。

この研究では、グラム陰性菌に対する広域抗菌薬(carbapenemなど)の「開始タイミング」と「臨床転帰」との関係を調査。
結果はというと──

ちょっとくらい delayed(遅れて投与)でも、
広域抗菌薬の投与が遅れたこと自体では明確に転帰が悪くなるわけじゃないよ。

という、今までの(私の)常識にゆさぶりをかける内容でした。

つまり「最初から外さないように広くカバーしろ!どんと来い!」な方針に対し、
「いやいや、狭く始めても全然アリな場面もあるよ」というわけです。

🧠で、私の感想。
正直、「おぉ…そういうこと言ってくれるの、待ってた…」と思いました。
あの頃の、狭く始めて、様子見ながら調整するのってアリじゃないの?と思っていた自分を
ちょっとだけ抱きしめたくなりました(笑)

もちろん、これは「絶対に escalation すべし」という話ではない。
患者のリスク評価や臨床状況によっては、最初から広域で行くのが命綱になることもある。
でも一方で、「必ず最初は broad にしないとダメ!」という呪いのような思考からは、
少し解き放たれてもいいんじゃないかと思わせてくれる一編でした。

🗓感染症科を始めて、もう11年。
あっという間に広域抗菌薬みたいな人生(?)を歩んできたけど、
たまには原点に立ち返るのも悪くないですね。

若手のころの違和感って、実は今の自分にとっても大事なヒントだったりする。
そんなことを思い出させてくれる論文でした。

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