12.Chapter Twelve:My Stage──わたし仕様のプロポーズ しゅかの物語
久々にエッセイ書きました。
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12、Chapter Twelve:My Stage──わたし仕様のプロポーズ
その夜は、なんでもない夜だった。
ソファに並んで座り、テレビの音だけが部屋に流れていた。
会話もなく、静けさの中にわたしたちはいた。
その沈黙を破ったのは、彼のほうだった。
「そろそろ……結婚する?」
気取らず、あまりにも軽やかで、まるで“ついで”みたいな口調だった。
その言葉に、胸の奥が一瞬きゅっとなった。
嬉しい。でも、信じきれない。
ほんとうに? わたしでいいの? そんなふうに思った。
だから、しばらくしてから、わたしはぽつりと聞いた。
「え?……ほんとに、わたしと結婚したいの?」
問いというより、確認だった。
彼はすこし黙ってから、照れたように笑って言った。
「やっぱり……お前じゃなきゃだめみたいだなー」
その言葉とともに、強く抱きしめられた。
その腕のなかで、ようやく少し、信じられる気がした。
わたしはそっと言った。
「じゃあ……お願いがある」
「わたしのこと、ほんとうに好きなら──“ちゃんとプロポーズ”して?」
「なにそれ」と笑いながら、彼は「どういうの?」と聞いてきた。
わたしはすぐに答えた。
赤い箱はカルティエ
指輪は一粒ダイヤ。シンプルで、でもちゃんと“誓い”が見えるもの
場所は、わたしの行きつけのレストラン
花は、赤いバラと赤紫のトルコキキョウで、テーブルいっぱいに
音楽は、“あの曲”。わたしが「流れたら絶対に泣いちゃう」と言っていた、あの旋律
ケーキも運ばれてきて、最後にプレートと一緒に箱が出てくる演出がいい
一日だけでいい。わたしを“ちゃんと主役”にして
それは、“わがまま”だった。だけど、緻密で、細部まで全部“意味”があった。
でも彼は、「はいはい」と言いながら、すぐに予約の電話をかけはじめた。
わたしはその横顔を見ながら、胸の中にじんわりと熱が広がるのを感じていた。
──ほんとうに、やってくれるんだ。
当日──世界が“わたしのため”に用意された日
赤い箱。白い花。お気に入りのレストランのベージュのクロス。
テーブルには、バラとトルコキキョウがあふれるほど飾られていて、
照明はあたたかなキャンドルのオレンジ。
その中で、わたしの大好きな音楽もながれてきて わたしの夢が現実になった瞬間だった。
ケーキの中に指輪は入っていなかったけど(笑)、
ちゃんと、最後のプレートと一緒に、カルティエの赤い箱が静かに運ばれてきた。
中には、一粒のダイヤモンド。
小さな光が、テーブルの上の水面のように反射していた。
その瞬間、世界がうっすらと桜色に染まったような気がした。
指の先まで、淡いピンクの熱が巡った。
指が震えて、うまく言葉にならなかったけど、
それでもわたしは、ちゃんと頷いた。
人生で初めて、
**「世界が自分のために用意された」**って感じた夜だった。
そして──“緩急”が始まる
レストランを出て、部屋に戻ったあと。
彼はシャンパンを飲みながら、わたしの顔を見つめて言った。
「なぁ、もう──クラブとか、男友達とか、行かないよな?」
「服もメイクも、誰に見せたいわけ?」
「一人で海外に行って、出会いでも探してるの?」
「モデルの仕事だって……他の男に“そういう目”で見られるの、俺は我慢できない」
桜色の夜が、ゆっくりと色を引いていくのがわかった。
「……それって、全部やめなきゃいけないの?」
彼は、まっすぐわたしを見た。その目は、祝福の目ではなかった。
「俺はさ、お前のために全部捧げてる。家族にも話したし、未来も考えてる」
「だったら、それくらい、やめられるでしょ?」
それは、命令だった。
優しさをまとった声色で、わたしの“自由”を少しずつ削っていく。
「好きだから」
「守りたいから」
「大切にしたいから」
そう言いながら、彼は
「わたしらしさ」の部品を、一つずつ取り上げようとしていた。
わたしの手の中のシャーリーテンプルは、
ピンクのまま、何の味も感じなくなっていた。
そして、魔法がかかる──
そのあとだった。
彼がふいに、強く、でもどこか優しく、わたしを抱きしめてきた。
胸に顔をうずめたその瞬間、わたしのなかで、何かが静かに溶けた。
さっきまで「おかしい」と思っていたことが、
あの腕のぬくもりひとつで、
**「まあ、いいのかも」**に変わる。
この人がわたしを選んでくれたなら、
この人に守られてるなら、
それでいいのかもしれない。
わたしの脳が、そうやって都合よく“快”を記憶していく。
あれだけ言葉で削られたはずなのに、
そのあとの“抱きしめ”で上書きされてしまう。
──これは、わたしの中に染みついた 「緩急」 の癖。
緊張と、安堵。
制限と、救済。
否定と、抱擁。
その繰り返しの中で、“快感”としての愛だけが強くなっていく。
この夜の色は、完璧すぎた。
夢のように美しくて、でも現実に戻るのが怖いくらいに、
わたしの「輪郭」を見失わせた。
“ピンク色の夢”が、
やがて“青ざめた現実”に変わることを──
このときのわたしは、まだ知らなかった。
こんなにも魅力的で、完璧に見える人と、
わたしが“結婚できるかもしれない”という幸福感。
それはまるで、現実からふっと浮かび上がるような、夢の時間だった。
だからこそ、あの夜の“緩急”は、
祝福と違和感、どちらもが真実だった。
──暗転。
つづく。
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