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13. Chapter Thirteen:White Feather ──消えていく光のなかで しゅかの物語

前回までは 👇こちらより 


12月23日。
この冬でいちばん冷えると言われていた日で、朝から雪は静かに降りつづけていた。
街はきらびやかな光に包まれているはずなのに、
わたしの目に映る世界は、音を吸い込んだようなばかりだった。


白いざわめき

婚約をしたことを、系列病院で勤務するわたしたちは、
両方の病院へのあいさつを済ませ、両家へのあいさつも終えた。

同じ系列に属しているわたしたちの婚約の話は、
白紙にペンを走らせるみたいに一瞬で広がった。

祝福、好奇心、尾ひれ。
全部混ざりあった“白いざわめき”が、
院内のあちこちで揺れていた。

その頃も、わたしはモデルの仕事を続けていて、
SNSにはまだ写真が残っていた。
ある日、ツイッターの捨て垢から冷たい一文が届いた。

“外側”の気配じゃなかった。
むしろ、“内側”を知っている手触りだった。

彼は異様にもてる人だった。
噂もいつも絶えなかった。
だから、
わたしをよく思わない誰かがいてもおかしくない。
白い棘みたいな違和感だけが胸に残った。


白く荒れる救外

その頃、わたしは系列の救急外来へ助勤として入っていた。
年末の救外はどこよりも忙しくて、
ストレッチャーの軋む音も、トリアージの声も、モニターの音も、
全部が混ざって白い渦みたいに聴こえた。

その日、彼は準夜勤で同じ病院に来る予定だった。
「今日そっち行くよ」
朝の連絡に、すれ違うだけでも会えるかもしれないという
白い息みたいな期待がふっと生まれた。

処置、採血、点滴、搬送。
ひとつが終われば次の緊急。
昼休憩はほとんど形だけで、温めたコーヒーは冷えていた。

そして夕方。


白で塗りつぶされた瞬間

救急車の対応を終え、椅子に腰を下ろしたその瞬間。
腹部の奥に、鈍い痛み。
息がふっと止まる。
視界がにじむ。

そして――
わたしの視界は真っ白になっていった。

目を開けたとき、
白い天井と、心電図の緑の波形だけがあった。

準夜で来ていた彼が息を切らしながらそばにいた。
「大丈夫?」
医療者の顔じゃなかった。
完全に、“わたしの人”の表情だった。


白の沈黙

採血は異常なし、熱もなし。
それでも彼は離れようとしなかった。

その後の腹部エコー。
青白い光が広がる部屋で、医師がつぶやいた。

「あれ……?」

その声に、彼の表情が固まる。
医師と彼の視線が、白い沈黙の中で交差した。

そして彼は、
そっとわたしの下着を確認した。
白の中に落ちる淡い赤
その色が胸を締めつけた。

「……わたし、妊娠してるの?」
気づけば、医師ではなく彼に問いかけていた。

産婦人科の専門医が呼ばれ、
妊娠6週、そして出血量が多く継続はできないと説明された。

理解しているはずなのに、
心だけが白い空洞のまま追いつかなかった。


白い夜に行われた処置

日付が変わってまもない12月24日。
救急処置室でのオペになった。

金属の音と冷たい光。
“聖なる夜”と呼ばれる時間とはまるで別世界の冷たい白

彼は周囲に事情を伝え、
他の業務をスタッフに任せてずっとそばにいた。
医療者ではなく、婚約者として。

出血で汚れた白衣を脱がせ、
ていねいに病衣へ着替えさせてくれた。
手つきは慣れているのに、声はかすかに震えていた。

「大丈夫?」
その一言には、必死さが濃く滲んでいた。

処置が進む間、白い痛みが波のように押し寄せて、
意識が何度も揺れた。
悲しさも、後悔も、色を持たずに白へ落ちていった。


白の余白に沈む未来

終わったあとは、世界が真っ白な余白になったみたいだった。
身体には痛み、胸の奥には空洞。

「……わたし、これから……むずかしいのかな」

言いながら、
何が“むずかしい”のか自分でも分かってなかった。
それだけ気持ちが追いついていなかったんだと思う。

彼は答えられなかった。
その沈黙だけが、雪の夜みたいにゆっくり落ちてきた。


白い眠り

静脈麻酔の眠さが残って、
世界はまだ白く揺れていた。

伸ばした指先が彼の腕に触れ、
わたしはそのまましがみついてしまった。

痛みも悲しさも後悔も、
ぜんぶ白へ沈んでいく中で、

わたしは彼の腕にしがみついたまま、
病院のベッドの上で静かに眠った。

さようならとごめんねが混ざったままの気持ちとともに。



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