「顧客管理」の本質|経営の根幹を成すことを忘れてはいけない
■100年変わらない「顧客管理」の本質を
「顧客管理」の本質(変化しうる部分を全て削ぎ落として残った不可欠で普遍的な要素)をご存知ですか?
私の前職のベンチャー企業では、CRM(顧客管理システム)を内製でゼロから開発したのですが、そのときは私が営業部長として要件取りまとめや機能改善、営業チーム定着をリードしたので、そこそこわかったつもりになってました。
そのせいで、この記事をまとめるまで「中小以上の企業・法人が顧客データを一元管理して売上拡大に繋げるシステム」くらいにしか思ってませんでしたが、改めて勉強するともっと経営の根幹を成すものであり、影響範囲も活用範囲も広い、重大な経営資源であることがわかりました。
■きっかけ
さまざまな顧客管理SaaSやマーケティングオートメーションツールが沢山あって、CRMプラットフォームなど比較的新しい概念も次々登場しており、さらにAIによる自動化や無人化、高付加価値化が進んで、何が「顧客管理」の本質的なエッセンスなのか分からなくなってきたので、自分の整理のために「顧客管理の本質」をまとめてみることにしました。
■こんな方におすすめ
これから顧客管理システム(CRM)を導入したり、顧客管理体制を強化したり、マーケティングオートメーションに挑戦する方に考え方の土台を提供するような内容に仕上がりました。
ぜひ最後までご覧いただき、コメントやスキ、フォローいただけると幸いです。大変励みになります!
■顧客管理の本質
⚫︎顧客管理の本質とは、「販促・営業を最小化しつつ、売上・収益を最大化する」という目的を達成するための顧客情報活用の仕組みづくりです。
もう少し具体化すると「販促・営業を極小化しつつ、売上・収益を最大化する」という目的をKGIとし、KPIとして以下の3つを定義・定量化して記録し、向上させ続けるということ。
顧客毎の顧客体験(CX)
顧客毎の顧客生涯価値(LTV)
顧客毎の収益性・生産性
この3つのKPIを追い求めることで販促・営業を最小化しつつ、売上・収益を最大化させる。それが、顧客管理の本質です。
⚫︎顧客管理のKGI(Key Goal Indicater)
販促・営業を最小化しつつ、売上・収益を最大化する
前半部分『販促・営業を最小化しつつ』について
マーケティングの役割とはselling(販促・営業)を不要にすることだ
営業組織や販促チームに所属する方からすると「なぜ販促・営業を減らすんだ?そこを拡大させるための顧客管理だろう?」と疑問に思われるかもしれません。違います。なぜなら、マーケティングの父と呼ばれるマーケティングの権威フィリップ・コトラーも言っている通り、販促・営業は理想的には無くなった方がいいからです。
販促・営業活動を必要とする状態は、顧客と商品との間で大なり小なりのミスマッチが起こっており、その緩衝材・触媒・調整材としての販促・営業を必要としていることを意味します。
例えば、目の前のお腹が空いてたまらない人に食べ物を販売することは何の販促も営業も要りませんが、同じ町内のどこかに居るであろう小腹が空いているだけのサラダ好きな人にピンポイントで牛丼を買ってもらうには多少の販促や営業が必要になるようなイメージです。人類数万年の歴史の中で、この大なり小なりのミスマッチは物理的に避けて通れないものだったので、販促・営業が絶対必要なものだと先入観を持ってしまうのも無理はありません。
しかし、インターネット、スマートフォンやAIといった革新技術によって、先ほどの「同じ町内の小腹が空いているサラダ好きな人」を首尾よく特定して、新メニューのミニ牛サラダをタイミング良く届けて買ってもらうようなことが、技術的には可能になりつつあります。そのため、販促・営業の必要性が低くなるどころか、むしろそれらを極力減らして自動的な販売を目指すことが「顧客管理」のミッションとしてより求められるようになっているのです。この逆転現象はテクノロジーの登場以降は不可逆的に進展しており、一部のレアケースを除いて、今後元に戻るようなことは無いように思われます。
⚫︎後半部分『売上・収益を最大化する』
売上を最大化することは誰にでも理解、イメージできるミッションです。売上を拡大するためのアプローチとして既存顧客の情報を管理して利用することは至極当然ですが、見込み客や新規客、休眠客や離反客など顧客の定義をどんどん広げていくと、人間個人の記憶力ではカバーしきれない容量に達してしまいます。まず、そこを補完するミッションを「顧客管理」が担っています。
また、「収益」についてはどうでしょうか? 個人の営業マンとしてよくある「最低でも自分の月給以上は売り上げたい」といったジンクス的な発想に代表されるように、多少のコスト意識は根付いているように思われます。しかし、収益最大化するために売上拡大活動と同等のリソースを割けているかと問われると、ほとんどの販促・営業担当は沈黙してしまうでしょう。
収益を構成するものは、売上とコストです。売上を拡大することが第一の打ち手であり、コストを最小化することが収益を最大化するアプローチのもう一つの打ち手です。コストとは、人件費や広告宣伝費など現金移動を伴う支出に限りません。販促・営業担当者の時間(生産性)や、機会ロス、否決案件に投下した販促・営業リソース(埋没コスト)なども含まれます。
これらのコストも個人の記憶力ではカバーしきれないだけでなく、何らかの支援がなければ定量的に把握することすら叶わないのです。そこを補うものとして「顧客管理」が必要とされるのです。
⚫︎定量化すると顧客管理の必要性がより可視化される
・売上
売上=客数×客単価
この計算式の時代であれば顧客管理の重要度はそこまで高くありませんでした。
売上=(見込顧客×リーチ率×CVR)×新規客単価+(既存客リピート率)×既存客単価
生涯売上=売上×1年継続率+売上×2年継続率+…
ここまで計算式を拡張し始めると、複雑すぎて容易に算出もリアルタイムな把握も難しくなります。そこを支えるために「顧客管理」の必要性が出てきたということです。
・コスト
コスト=年間で支出した金額
これは最も雑なコスト把握の計算式
コスト=顧客別人件費×顧客数+顧客別販管費×顧客数+顧客別機会ロス×失注顧客数+顧客別…
実際はもっともっと複雑で長い式になると思いますが、売上と同様に、この計算式の自動算出や示唆出しを支えるための「顧客管理」ということです。
■KGIに対する3つのKPI(手段)
色々と計算式に落とし込みましたが、あれはあくまで参考。因数の分解をする前に、最適な切り口を整理します。それは以下の3つです。
【KPI1】顧客毎の顧客体験(CX)
顧客(見込み客や非接触客も含む)が購買行動を取る意思決定の前後には、自社が提供する顧客体験(CX)とのマッチングが必須です。この顧客体験には、広告との接触から、営業、一般情報の収集、比較検討、購買、その後の共有活動やアフターフォローなど全ての自社関係行動が含まれます。AIDMA、AISASなどの顧客行動分析や、マーケティングの4P、Who・What・How、カスタマーステージモデルなどのフレームワークは全てこのCX体験を設計するための道具です。
【KPI2】顧客毎の顧客生涯価値(LTV)
顧客生涯価値という言葉は、比較的新しい概念で、サブスクリプション型商品やリピート型商品の需要の高まりとともに現れたフシがあります。しかし、この概念自体は実は古くからありました。
かつて江戸時代の優良商家には、必ず「大福帳」がありました。大福帳とは、いわば「顧客カルテ」のようなものです。
おそらくは、公になっていないだけで、文字が発明されたり、紙が発明されたりした大昔の時点でも、(物々交換を含む"商売"での売主と買主における)顧客ごとの重要度を示す記録を、頭の中の記憶を含めて、なんらか残していたのではと思います。一言でいうと「この人は今後も買ってくれるだろうから大切にしよう」を定量化したもので、顧客毎の優先度や顧客獲得・維持コストをどれだけかけていいのかを判断する重要な因数になります。
【KPI3】顧客毎の収益性・生産性
顧客体験(それを生み出すためのコスト・資本)と顧客生涯価値(将来的なものも含めた総売上見込)とが定まると、その割り算によって収益性や生産性が求められます。
売上 ÷ コスト = 収益性
売上 ÷ 資本 = 生産性
あくまで一般的なものですが、
・コストには、広告費、システム利用料、などが
・資本には、労働力、設備、時間、などが
当てはまります。
もっとミクロなものだと、お客さんあたりの商談時間や商談交通費、カスタマーサービスの対応時間、リード獲得コスト、など具体的な数値がなんでも該当してくる訳です。これは個社ごとに異なります。何故ならば、個社のビジネスモデルやターゲット市場、自社の強み・弱みごとに、組み立てるべき顧客体験(CX)と、見積もるべき顧客生涯価値が異なるためです。
■具体的な3つのアプローチ
具体的には、以下の3つの軸でアプローチします。
①顧客データの蓄積と分析:
既存顧客だけでなく、未来の顧客も含めたあらゆる顧客データを収集し、分析することで、顧客のニーズや行動を深く理解します。さらにコスト面、資本面でも、可能な限り、何にどれだけ投下したのかが記録・追跡できる体制を構築します。リソースに大きな制約がある場合は、慎重に仮説検証を進めながら、優先的な記録対象を選抜します。
いずれにせよ、定量的に記録して、データを蓄積するということから始めるということです。
②ビジネスプロセスの最適化:
顧客との接点から受注までのプロセスを最適化し、効率的でパーソナライズされた顧客対応を目指します。顧客ごとに個別化されたメッセージで口説き落とすことを理想とした時に、似たような属性をもつ顧客群をグルーピングしたり、似たような行動パターンでグルーピングしたりして自社の打ち手の数を現実的な水準まで下げていくことをビジネスプロセスの最適化と呼びます。
③データドリブン経営とAI活用:
蓄積されたデータは、あらゆる仮説検証を科学的なものにしてくれます。経営判断に活かせる場合もあれば、事業戦略や営業戦略の改善に活かす場合、一人一人の従業員の毎日の様々な小さな意思決定の品質を高めたり、それらの意思決定にかかるあらゆるコストを下げてくれるのに役立ちます。これを「データドリブン経営」と呼びます。最新のAIを活用すれば、その意思決定の自動化や予測精度を高めることも出来るでしょう。
短期的には、2025年7月時点では、AIをここまで活用している企業はまだ少数派なので、AI活用によるデータドリブン経営そのものが競争優位性にもなり得ます。
■CRMはこの3つ↑のアプローチをシステムで支えるもの
これらのアプローチを支えるシステムやソフトウェアとして、CRM(顧客関係管理)やCRMプラットフォームが無数に登場したということです。
最新のテクノロジーの進化により、これらの導入コストは低下し、自動化できる領域は拡大しています。また、「顧客」の概念も既存顧客に留まらず、未来の顧客まで広がりを見せています。
■まとめ
エクセル管理や記憶に頼った管理であれば、到底実現できない品質とスピードで「販促・営業を最小化しつつ、売上・収益を最大化する」という目的を達成するための顧客情報活用の仕組みづくりをサポートするのがCRMということです。
改めて、顧客管理の本質を深掘りしましたが、かなりクリアになりました。
経営の意思決定に始まり、大小問わず社内のあらゆる意思決定の品質とスピードを高めるための仕組みであるという点で、経営の根幹を成すものであり、影響範囲も活用範囲も広い、重大な経営資源であることがわかりました。
■参考図書
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