【AIR】歩けるのではなく、歩きたくなる街の条件は「日陰」である理由
カタルーニャに来て最初に気づいたことがあります。街に木陰が多い。バルセロナの街路を歩いていると、広葉樹が街路を覆い、直射日光がほとんど当たりません。タラゴナのランブラ通りも同様で、プラタナスの巨木が連なり、まるで緑のトンネルの中を歩いているような感覚です。

1. バルセロナで気づいた「木陰」の豊かさ
「歩ける」ではなく、「歩きたくなる」のです。
これが日本の地方都市との決定的な違いです。日本の地方都市も歩道は整備されています。段差は解消され、点字ブロックもあり、「歩ける」環境は作られています。しかし「歩きたくない」のです。夏は直射日光が容赦なく照りつけ、冬は殺風景な低木が並ぶだけ。歩行可能性は確保されていますが、歩行欲求は満たされていません。

この違いを生んでいるのが、樹冠被覆率という指標です。日本ではほとんど測定されていない、都市の見えない資産です。今丁度Newspicksでもその話題がコラムで触れられていますので、こちらも併せてどうぞ。
2. 樹冠被覆率とは何か — 都市の見えない資産
樹冠被覆率とは、上空から見た時に樹木の葉が覆う面積の割合を指します。英語ではTree Canopy Coverと呼ばれ、欧米では都市計画の重要指標として扱われています。WHO(世界保健機関)は都市の樹冠被覆率30%以上を推奨しており、多くの欧米都市がこの数値を目標に掲げています。
樹冠被覆率が高いと、体感温度を5度から8度下げる効果があります。これは単なる快適性の問題ではありません。歩行可能性(ウォーカビリティ)ではなく「歩行欲求」を左右する要素なのです。歩道が広く整備されていても、直射日光が当たる街では人は歩きません。木陰があるから歩きたくなり、歩くから店を見る機会が増え、消費が生まれます。
日本ではこの樹冠被覆率がほとんど測定されていません。国土交通省の街路樹統計は本数と樹種を記録していますが、樹冠被覆率は把握していません。測定していないものは管理できず、管理できないものは改善されません。
3. バルセロナの樹冠被覆率戦略 — 160年の系譜
バルセロナの樹冠被覆率は地区によって差がありますが、中心部では相当に高い水準を維持しています。2037年までに都市全体の樹冠被覆率を30%にする目標を掲げており、現状は20%から25%程度と推定されます。ただし、歴史的な中心部や商業地区では60%を超えるエリアも珍しくありません。
この高い樹冠被覆率の基盤となっているのが、1859年に策定されたセルダ計画です。イルデフォンス・セルダが設計したこの都市拡張計画は、113メートル四方の街区を碁盤目状に配置し、各街区の間に幅広い街路を設けました。そしてこの街路には最初から街路樹が計画されていたのです。

ランブラス通り、グラシア通りといったバルセロナの主要な商業軸は、樹冠被覆率80%を超える区間もあります。プラタナスの巨木が街路の両側に並び、枝が交差して天蓋を形成しています。これらの樹木の多くは植樹から100年以上経過しており、幹の直径は1メートルを超えるものもあります。
興味深いのは、バルセロナが単に過去の遺産を維持しているだけでなく、現在も積極的に樹冠被覆率向上に取り組んでいることです。2016年から始まったスーパーブロック計画では、街区内の車道を削減し、その空間を歩行者空間と緑地に転換しています。車を排除し、樹木を増やす。この明確な方針が、160年前のセルダ計画の延長線上にあるのです。まさに現在の工事はそのためのものです。片側の自動車通行を廃止し、もう一方だけ残すという形です。さらに上下水などのインフラもすべてやり直すということで、古い街を維持してきたバルセロナ市の工夫も感じられました。
タラゴナも同様です。人口13万人のこの都市は、古代ローマ時代の遺跡を残しながら、現代の都市機能を維持しています。そして中心部のランブラ通りは樹冠被覆率80%を超える緑のトンネルです。大都市だけが高い樹冠被覆率を実現できるわけではありません。

4. パリの樹冠被覆率改善 — 後発組の本気
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