稼ぐスタジアムと、溶かすスタジアム — 全国65カ所のスタジアム・アリーナ計画乱立が示す共倒れする「令和のハコモノ」事業
香川県が202億円をかけて2025年に開業した「あなぶきアリーナ香川」。サザンオールスターズやMISIAの公演を誘致し、開業10ヶ月で来場者60万人。稼働率は94%。これ以上ない成功に見えます。しかし赤字なのです。
1. 香川の衝撃 — サザンが来ても赤字
日経新聞が2026年2月に報じました。「稼げるアリーナに公設民営の壁、稼働9割も赤字」。稼働率94%で赤字。この事実は、これまでの「稼働率を上げれば黒字になる」という前提が完全に崩壊していることを意味します。202億円の建設費に対して、利用料収入の構造が根本的に合っていない。サザンオールスターズが来ても赤字なのです。
週末を中心に需要は旺盛です。Bリーグの香川ファイブアローズのホーム試合、コンサート、展示会。アリーナは埋まっています。それでも、施設の維持管理などにかかる費用を利用料収入で補えません。公設民営方式の限界が、稼働率94%という数字とともに明確になりました。
この香川の事例が衝撃的なのは、「ハコを作れば人が来る」という幻想を超えて、「人は来た。それでも赤字」という新たな段階に入ったことを示しているからです。やばい再開発シリーズで取り上げてきたアウガ、アルネ津山、木更津、エリアなかいちは「ハコを作ったが人が来なかった」事例でした。香川は「ハコを作った。人も来た。それでも赤字」です。
つまりは初期の事業計画から破綻しているわけです。これだけ集客をしたとしても、今利用している関係している団体の使用料があまりにも低い、もしくはそれによる経済的効果を得ているところの負担が低いという、「負担と受益」の構造が全くバランスしていないということです。これでは稼働すればするほど赤字が拡大するという構造になります。
そしてこの香川と同じ構造のスタジアム・アリーナが、全国65カ所で計画されています。
2. 全国65カ所の建設乱立 — 国策が煽った構造
東洋経済が2026年1月に独自集計を発表しました。全国65カ所以上でスタジアム・アリーナの建設計画が進行中。100億円超のプロジェクトが20以上。大半の計画に自治体が関与し、税金が投じられています。東洋経済はこう見出しをつけました。「先に待つのは"夢のアリーナ"か"令和のハコモノ"か」。
65カ所の内訳を見ると、27カ所がバスケットボールのBリーグチームの拠点化を想定しています。この建設ラッシュの発端は、2016年の安倍政権です。成長戦略『日本再興戦略2016版』の骨子に「スポーツの成長産業化」が制定され、スポーツ産業を2015年の5.5兆円から2025年までに15兆円に拡大する目標のもと、「スタジアム・アリーナ改革」が国策として推進されました。
Bリーグは2026年から最上位カテゴリー「Bプレミア」をスタートさせ、参入条件として収容人数5,000人以上のホームアリーナの確保を規定しました。Jリーグも同様で、J1は収容人数15,000人以上、J2は10,000人以上です。既存のアリーナでは収容人数が足りない。新たに建てなければクラブがBプレミアに参入できない。クラブに建設費を賄う体力はなく、自治体が「地域の誇り」「経済効果」を理由に税金で建てることになります。
Bリーグの島田チェアマンは東洋経済の取材に対して、こう認めています。「想像もできなかった数になった」。
国策で建設を煽り、リーグ基準で自治体に迫り、結果として65カ所もの計画が生まれた。しかし、煽った側が「想像もできなかった」数になっているという事実は、計画の持続可能性を誰も検証していなかったことを意味します。
3. 失敗事例と構造的問題 — 建設費と維持費の負担
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