尖山に呼ばれた話(前編)
常識的な読者には受け入れがたいかもしれない箇所が複数ある話なので、いったいどこからはじめてよいのかよくわからないのであるが、発端は富山の人気ラーメン店に行ったことである。
先週の週末、わたしは法事の準備などもあり、富山の実家に帰省していた。また11月3日に富山の立山町で開催される「立山農芸祭25」に、わたしが編集している風の時代の文芸誌「縄文文芸」で出店予定で、その音楽ステージにbouzraveという名前で登場する長男とその友人も実家に滞在していた。ここで語ろうとしている出来事は、その「立山農芸祭25」前日と当日に起きたのだが、まずはラーメン店に行った話からしなくてはなるまい。
長男と友人が合流したこともあり、ラーメン店に行く前日は、実家で夜遅くまでお酒を飲んでいた。それで翌日はお昼近くになってのそのそと起きだし、車でラーメン店に向かった。ちなみにそのラーメン店では、実家に住んでいるわたしの弟が働いており、一部人脈ではスピリチュアル系であることが知られている店長とうちの長男は、昨年長男がそこでアルバイトをしていたこともあって、顔見知り以上の仲である。
富山在住の人にはお店がわかってしまいそうだが、その人気ラーメン店はいわゆる二郎系である。わたしはふだん二郎系どころかラーメンもほとんど食べないので、最初は長男と友人だけ店に置いていき、ふたりが食べているあいだに別の用事を済ませようと思っていた。けれどもそこに向かっているうちに、たまには若い男に付き合って食べてもいいかという気分になってきた。メニューには「大」と「小」以外に、「ミニ」もあるのである。当然わたしは「ミニ」である。
それでお店に到着し、お昼前の時間だったが20分ほど待ち時間があり、テーブル席に着いて3人で食べはじめた。うーん。とても美味しいけれど、ひたすら3次元的な食べ物だな、などと思いながら極太麺をすすっていると、ラーメンの準備をしながら客の出入りを管理している弟がテーブルに寄ってきて、「山へ行くって言っとったんに、こんな時間からけ?」と言い出した。
そんな予定は立てていなかったから、なんで「山?」と思いながら、まあ昨晩はかなり酔っ払っていたから、覚えていないところでそんな話をしたのかもしれないなどと考えていた。あるいは、仕事終わりの遅い時間からお酒の席に入ってきた弟と長男が、わたしの知らないところでそんな話をしたのかもしれない。
すると次はスピ系店長がテーブルに寄ってきて、少し雑談しているうちに「これから山に行くんだったら、尖山だな。それから帰りに岩峅寺の雄山神社に寄るといい」と勝手に予定を立て出した。たしかに雑談でお勧めの神社は聞いたんだけど、いつの間にか尖山に行くことになっている。長男と店長は直接やりとりしていて、以前一緒に山に登ったこともあるから、見えないところでそんな相談をしていたのかもしれない。
正直わたしは「???」という感じだったのだが、じゃあということでラーメン店を出たあとカーナビで入力し、3人で尖山へと向かうことにした。尖山は、実家のある上市から山の方に向かった先の立山町に位置する、標高559メートルの小さな山である。
わたしは小学生のころに遠足で一度登ったような記憶があるが、地元ではピラミッドではないかという噂が絶えない山である。それぐらいきれいな三角形をしていて、近づいていくとすぐその山容が目に付く。また近辺では、UFOの目撃情報も多数という、そんな場所である。

そこに向かいながら、ただどうしても山に登るという話をした記憶のないわたしは、長男と友人に「昨日、そんな話した?」と聞いてみた。すると2人とも怪訝そうな顔をして「いや、してない」と言い出す。あちらはあちらで、わたしが山に登るという話を勝手に進めていると思っていたらしい。
さてだいぶ怪しい話になってきた。よく思い出してみると、たしか皇祖皇太神宮に行こうかという話はしていたけれど、やはり山に登ろうという話をした記憶は3人ともない。しかし3人は、山登りをするために尖山に向かっているのである。
上市からそんなに遠い山ではないから、遠目に山が見えてきたぐらいまで近づいてくると、反対車線の向こうの方で車が4台ハザードランプを点けて止まっている。田園地帯を通るずっと真っ直ぐの道の途中だから、なにか異様な雰囲気である。
事故でもあったのかなと思いながら横を通り過ぎると、なんと止まっている後ろ3台のナンバーがぜんぶ「1203」である。驚いて「いま、ナンバー1203の車が3台いたぞ」と口にすると、さらに反対車線の向こうから走ってくる次の車のナンバーが「1203」である。わたしが目を剥いていると、さらにその次の車も「1203」である。
つまり、合計5台のナンバー「1203」の車と連続してすれ違ったのである。
確率としてはゼロではないと思うのだが、UFOが発着するピラミッドに近づいているのなら、こういうことが起きても仕方がないのかもしれない。なんだか宇宙人に遊ばれている気分である。
その後はカーナビを入れ直したり、登山道ではないところに入り込んだり紆余曲折あったのだが、どうやら富山地方鉄道横江駅から登山道に入れることがわかり、車を停めて尖山へと向かった。

住宅街を抜けてしばらくすると、山の麓まで向かう山道に入る。それから山に入ると、流れている小さな川を左右に避けながら登っていく道になる。すぐに左手の方に水がパイプから出ていて、コップがふたつ置いてあるのを見つけた。これから登る人に水を用意してくれているのだから、ずいぶん親切な山である。

その日の天気は、ずっと雨模様だったのだけれど、なぜかほとんど濡れなかった。雨が降っている音は周囲からするのだが、頭上には雨粒が落ちてこないのである。ひょっとして上空でUFOが傘代わりになっていてくれたのかもしれない(「かもしれない」が多い文章だな)。
若い男2人は黙々と登っていくので、それに合わせていたら40分ほどで山頂に着いた。最後のつづら折りの山道が少しきついぐらいで、登山としては初心者向けのやさしい山である。

スピ系店長は、尖山がゼロ磁場だということを強調していたが、ほかのゼロ磁場でよく聞くような、立っていられないということもなかった。山頂で一休みして、すぐに下山をはじめた。途中で紆余曲折があったおかげで、もう15時を過ぎていたのである。
帰りも親切な水を飲みつつ30分ほどで下山できたが、山から出たあとの山道では周囲がもう暗くなりはじめている。行きですれ違った人に「熊に気をつけられ」と言われていたこともあり、急に熊が出そうな気配が濃厚に感じられてきた。
遠くの方から、早朝と日暮れ以後は熊の出没に注意するようにという自治体の放送が聞こえてくる。急いだ方がいいなと思い始めると、そこからが長かった。行きは3分ほどで辿りついた印象の道が、今度は10分以上歩いても終わらない。
「迷った?」と後ろにいる息子と友人をふり返るが、途中で迷い込みそうな分岐はなかった。仕方なく、その道を進みつづけて絶対に行きとおなじ距離ではないと確信したあとぐらいに、見覚えのある住宅地へと戻ってきた。
誠に不思議な山である。
その後、岩峅寺の雄山神社にお参りし、帰ってきたのだが、この日に体験したことの答え合わせは、翌日の「立山農芸祭25」ですることになった。
