だってキミは特別だから
「さぞかし上手に飛んだんでしょうね〜」
リエが、わざと聞こえるように言っている。
仲の良いクラスメイトが体育の時間に跳び箱から落ちて捻挫をした。
しばらく体育の授業には出られないことを羨ましがって、そんな嫌味を言っているみたいだ。
捻挫をした友達は何も言わない。
ただ、手をぎゅっと握りしめている。
リエに向かって、つい言葉が出た。
「ねぇ、そうやって怪我した心配もしないで恥ずかしくないの? 自分がそういう人間ですって言いふらしてるみたいなもんだよ」
リエは一瞬、目を見開いて、それから顔を真っ赤にして教室を飛び出していった。
休み時間はあと3分くらいで終わるのに。
私はよく、いろんな人からこう言われる。
しょうこは良いよね。
しょうこは出来るから。
しょうこは特別だから。
だから、何を言っても大丈夫な人間だと思われる。
何をされても平気なはずだと思われる。
そういえば中学の時、登校して下駄箱を開けたら、上履きにぎっしり画鋲が入ってたことがある。
履いたら血だらけじゃん、と思いながら、靴下のまま教室に行った。
いつもはいない隣のクラスの子が、ニヤニヤしながらこっちを見ている。
ああ、アイツか。
「おはよー」
両手に画鋲盛り合わせ上履きを持ったまま言うと、みんなが一斉にこっちを見た。
「え? しょうこ、どうしたの?」
「上履きに画鋲入ってたから履かないでそのまま来た」
そう言ったら、男子たちが騒ぎ出した。
「マジで!? 誰がやったの?」
ちらりとアイツを見る。
きっと、好きな子と私が仲良くしてるのが気に食わなかったんだろう。
「犯人? わかんない。誰だろね。でも、なんで普段いない隣のクラスの人がここにいるの?」
その言葉で、みんなの視線が一斉にアイツに向いた。
大人しいクラスメイトが、小さな声で震えながら「私、画鋲入れるの見てた」と教えてくれた。
私はその子の目を見て、ゆっくり頷いた。
「教えてくれてありがとう。大丈夫だよ。アイツには何にもさせないから」
男子たちが、「画鋲ちょうだい」と言い出した。
「犯人アイツだろ」と言いながら、名前を画鋲で装飾しはじめる。
「醜いよなー、しょうこにそんなことしても無駄ってわかんねーのかな」
しばらくアイツは学校を休んだ。
その後、私は先生に職員室に呼び出された。
「なあ、聞いたぞ。やりすぎじゃないか?」
画鋲の話をしてるんだろう。
「なんでですか? 私があの上履きを履いてたら血だらけで傷害罪になるのに? あの子が私に犯罪をしてきたのに、私が注意されるんですか?」
先生は少し口ごもった後、こう言った。
「いや、でもな。お前は反撃できるだろ?」
反撃できるかどうかで、許されることが変わるのか。
「しょうこは良いよね」
その言葉が、ずっと頭にこびりついていた。
次の日の朝、教室に入ると、リエがすでに席に座っていた。
昨日のこと、まだ根に持ってるかなと思ったけれど、いつもの調子でこっちを見てくる。
「ねえ、しょうこってさ、嫉妬とかする?」
「は? なんで?」
リエは椅子をぐるりと回して向き直る。
「しょうこって何でもできるじゃん。でも、例えばさ、誰かにすごく憧れたり、あの子みたいになりたいなーって思うことある?」
ない、と言いかけて、言葉を飲み込んだ。
そんなの考えたこともなかった。
ちがう。考えたくなかったからだ。
「もしかして、あるんじゃない?」
リエはじっと私の目を見つめる。
からかうような言い方じゃなくて、何かを確かめるみたいなまなざしで。
言われて、初めて考えた。
私は…誰かに嫉妬したことなんて、あっただろうか。
ふと、目で追ってしまう子がいることに気づいた。
同じクラスの、綾乃。
運動も勉強も平均的。
特別何か抜きでてるわけでもない。
でも、綾乃はいつも自然と人に囲まれてる。
みんなが楽しそうに話しかけて、綾乃も楽しそうに笑ってる。
綾乃がいると空気がやわらかくなる。
それが、私にはできないことだった。
私は「すごい」って言われることには正直慣れてる。
頼られることも多いし、正論で返せばたいていのことは片付く。
でも、そのせいか、私の周りには「しょうこなら大丈夫」って思う人ばかりで、
「しょうこだから話したい」って思われることは少ない気がする。
綾乃みたいに、ただ一緒にいるだけで人を安心させることができたら。
あんなふうに、みんなから自然に話しかけられたら。
そう思った瞬間、心の奥がチクリと痛んだ。
私は、綾乃になりたかったのかもしれない。
その感情に名前をつけるなら。
きっと、嫉妬だろうか。
でも、気づいたところで、どうすればいいのかわからない。
ぼんやりと綾乃を見つめていると、突然視線がぶつかった。
綾乃が、ふわっと笑う。
「おはよう、しょうこ」
なんでもないような顔で、なんでもないような声で。
私は少しだけ息を止めて、それから言った。
「おはよう」
X(旧Twitter)で仲良くしていただいているnoterさんたちが書いていた記事。
共通点は#嫉妬祭りというハッシュタグ。
なんだろう?と思って見にいくと、こんな企画をされていました。
思い切って私も投稿してみることにしました。
そして斉藤ナミさんの新連載。
その方をこの企画で知りました。新連載、面白くてどんどん読んじゃう。
今日本も買ってこようと思います。
