インフレーションについて
昨今、ステーブルコインが盛り上がりを見せ、ブロックチェーンの普及が以前にもまして加速しています。これはブロックチェーンという技術普及の側面で見ると、良いことであろうというのは自明かと思います。それと同時に、昨今、ブロックチェーンの最初のユースケースであるビットコインの原初的な価値も高まりを見せていると感じます。そう感じさせるのは、やはりインフレーションです。多くの人にとっては当たり前の内容かもしれませんが、今一度整理してみました。
国家債務の現状
国家債務というのは、結局のところ国としてのバランスシートの話として捉えられます。これは、人によっては「国の借金」とも呼ばれるところの話で、この点において日本は特に諸外国とは異なった性質を持っています。
財務省は普通国債残高をこちらのページで開示しています。

これは国が国債発行を通じてこれまで資金調達してきた(借金してきた、とも言える)、返済が必要とされている残高のことです。見ればわかるとおり、日本は圧倒的な高み()にいます。
結論、これは当然芳しいことではありませんが、ここで一つ確認しておきたいポイントがあります。
それは現代貨幣理論、通称MMTです。れいわ新選組の台頭にあたって、彼らの論理的足がかりとしていた経済理論でもあります。
現代貨幣理論(MMT)について
ご存知の通り、MMTは決していい加減な理論ではありません。ランダル・レイのMMTについての説明ではいくつか重要なコンセプトが挙げられていますが、この議論において中核的なのは、以下のような考え方です。つまり、中央銀行と政府が連動して貨幣供給と国債発行を行うとき、国の借金と呼ばれる国債残高はあくまでバランスシートの拡大に過ぎず、政府支出と租税収入がバランスしていなくとも、つまり国家債務が膨らんでも、さして大きな問題ではないというもの。詳細は、こちら(ビスポークパートナー株式会社 コラム『クイックに理解する「MMT(現代貨幣理論)」』)がわかりやすいです。
名前に理論と入っているものの、これはある種のイデオロギーというよりも、現代の国家運営における貨幣発行のモデルを説明している点において、極めてプラクティカルな考え方と捉えることができます。
ただ、MMTを認めるからと言って、どこまでも好き勝手に国債発行して良い、とはならないと個人的には考えています。この理由は簡潔に、インフレをコントロールできる程度には限界があると考えられるためです。
いくら国債発行をして政府債務を増やしても理論的に問題ないといったとしても、インフレをコントロールできずにハイパーインフレに陥ってしまえば、元も子もありません。

朝日新聞GLOBEより拝借。
では、どの程度の国家債務なら許容できるのか。ここで参考になるのがレイ・ダリオがThe Big Debt Cycleと呼ぶものです。
The Big Debt Cycle

簡略にここで行われている議論をまとめると、
借金とは将来の消費を犠牲にして、現在の消費を増やすことであり、正しく行えば悪いものではない。
個人や企業と異なり、国家にはお金を刷る(紙幣増刷)という選択肢があるため、表向きのデフォルト(債務不履行)を避けることができる。
しかし、債務負担が大きくなると政府が取れる選択肢は、以下の4つ:
緊縮財政(Austerity):支出を減らす。痛みを伴うため政治的に不人気。
債務不履行・再編(Default/Restructuring):借金を踏み倒す。経済が大混乱し、資産価値が消滅する。
富の再分配(Redistribution):富裕層への増税など。
お金を刷る(Printing Money):中央銀行がお金を作り、国債を買う(借金の穴埋め)。
この中で、政治家にとって最も抵抗が少ないのは、お金を刷ること。
これを選べば、通貨の価値は下落し、実質的な借金の価値を目減りする。
歴史上、すべての主要国が最終的にこの道を選び、通貨の価値を破壊してきた。
このようなものです。そして、これを踏まえつつ、The Big Debt Cycleという政府債務のサイクルは下記のように理解できます。
バブル期:借金で景気が良くなる。
ピーク:債務負担が限界に達し、利払いが収入を圧迫する。
不況・危機:新たな借金ができなくなり、経済が収縮する。
リフレーション(通貨膨張):政府・中央銀行がお金を大量に刷り、債務を貨幣化する。これが「通貨安」と「インフレ」を招き、実質的な国家の破綻(通貨の信認喪失)となる。
当然、この運動はは通常の景気循環のサイクルよりも長いものです。

そして、これが2025年1月時点での国家債務の各国比較です。

どちらの画像もRay DalioのLinkedinブログからそのまま拝借しました。日本は、対GDPで215%、対税収比で1376%であり、他の先進国よりも高い水準にあります。
もちろん、日本は自国通貨建ての借金であり、国内で消化しているため現状は、維持できていると言えます。ここまではMMTが掲げる説明の通りです。しかし、金利が上がると利払い費が急増し、インフレのコントロールが出来なくなるリスクが高い状況でもあります。
この表の中では、最もそのリスクが高いといって差し支え無いのではないかと。
「では、どの程度の国家債務なら許容できるのか」という先に提示した問いへの直接的な答えはありませんが、相対的に他国と比較したときに、日本は許容できない水準にかなり近い、ということは言えそうです。
債務残高対GDP比 vs 純債務残高対GDP比
高市政権下では、債務残高の対GDP比ではなく、純債務残高の対GDP比を重視するというような説明もあります。確かに前者より後者の方が、相対的に現状の政府債務の状態は健全に見えますが、Dalioが提示している対税収比といった点も考慮したときに、この差がどれほど大きな意味を持つのかについては、疑問を付すことができそうです。


まとめ
つまるところの結論として、現状、日本政府はインフレのコントロールについて、かなりギリギリの舵取りを求められている可能性があり、今後インフレが継続する可能性が高いと言えるでしょう。
確かに、現在の日本政府の債務状況を肯定するMMTのような理論体系も存在はします。しかし、程度問題として、MMTにおいてどの程度の政府債務なら許容できるかについては明瞭な答えがありません。
債務残高がいくらになるとまずい、というような定量的な基準を定めることは難しいですが、諸外国と比べて日本が極めて特異な状況にあり、かつ、Dalioの説明に基づくと、歴史的にこのような状況に陥った国は、通貨膨張を継続する確率が高いということです。
さらに、今回は検討しませんでしたが、ここに経済戦争や台湾有事などのファクターも考慮すると、インフレを加速させるような強烈なトリガーは、いくつかあるように思われます。
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