九十八|花野奇譚
花野にはオオセンナリを植えて花がつくまで一人で育てられれば出世するという伝承がある。立身出世するという意の「鶯遷」という言葉を使った「オオセンナリ、花をつければ鶯遷なり」という常套句があった。
御舟の森下喜八は、人を惹きつける魅力があった。幼少より運動は万能であったが、大の勉強嫌いであった。
大正十年頃、森下が十六の頃の話である。 響きが気に入ったという理由で、オオセンナリの句をよく口にしていた。それで彼岸の頃、「儂のような無学は咲かせるだけでは足りない」と前置きしてから咲いたオオセンナリを友達の前で花ごと食べた。オオセンナリは毒草である。森下は腹を壊した。友達は大いに笑って讃えた。数年後、森下は城崎にある温泉宿に婿養子に入った。鶯遷とまでは言えないが、人垂らしの才を開花させ、宿を繁盛させたそうである。

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