「観る将」が観た第74回NHK杯トーナメント本戦決勝 藤井竜王名人vs郷田九段
3月16日、NHK杯本戦準決勝の藤井聡太竜王名人と郷田真隆九段の対局が放映されました。NHK杯の本戦は、持ち時間10分・切れたら1手30秒未満(他に各1分の考慮時間10回)の早指し棋戦で、総勢50人のトーナメントとなっています。
藤井竜王名人は本戦2回戦から順に、西山女流三冠、澤田七段、佐藤(康)九段、増田(康)八段を降しています。3年連続の決勝進出で、第72回以来2回目の優勝を目指します。
郷田九段は1回戦から順に、佐々木(大)七段、佐々木(勇)八段、八代七段、佐藤(天)九段、近藤(誠)八段と20-30代の精鋭をなぎ倒して勝ち上がっています。第68回以来6年ぶりの決勝進出で、第63回以来2回目の優勝を目指します。銀河戦を連覇した丸山九段に続き、羽生世代の健在ぶりを示すことができるか注目されます。
両者はこれまで2度の対戦があり、いずれも藤井竜王名人が勝っています。
対局前のインタビューでは、藤井竜王名人は「郷田九段とはこれまであまり対戦したことがないので、今日の対局は楽しみな気持ちもあります。集中して良い将棋が指せるよう精一杯頑張りたいと思います」、郷田九段は「今期のNHK杯もこれで最後の対局なので、月並みですがベストを尽くして良い将棋をお見せできればと思っています」と話しています。
角換わり腰掛け銀対早繰り銀
振り駒で先手となった郷田九段が角換わりに誘導し、藤井竜王名人は△5二金と上がって早繰り銀で応じます。郷田九段が▲3八金と上がって銀を腰掛けると、藤井竜王名人は7筋の歩を交換して銀を繰り出します。郷田九段は4筋の歩をぶつけ、藤井竜王名人が△7六歩と銀を追うと、▲8八銀と引いてかわします。
郷田九段の継ぎ歩攻め
藤井竜王名人は4筋の歩を取り、郷田九段が2筋を継ぎ歩攻めすると、長考して持ち時間を使い切り、8筋の歩を突き捨ててから△4四角と据えます。郷田九段は▲5五角と合わせて交換し、藤井竜王名人が考慮時間を2回使って2筋の歩を取ると、▲4五桂と跳ねて銀に当てます。藤井竜王名人は銀取りに△7三角と打ち返し、郷田九段が5筋の歩を突いて銀を支えると、8筋の飛車を走ります。
両者強気の応酬
ようやく持ち時間を使い切った郷田九段が▲4七金と上がって5筋の歩を支えると、藤井竜王名人は5筋の歩を突いて銀に当てます。解説の羽生九段が意外そうな声を上げる強気な一手に、郷田九段は考慮時間を2回使って銀取りに▲5七角と打ち返します。銀を取られると王手飛車になるので、藤井竜王名人は△6四銀と引き、郷田九段が▲5四銀と後手玉に迫ると、取られそうだった3筋の銀を△4四銀とかわしつつ自玉のコビンを補強します。
郷田九段が駒得の戦果
郷田九段は▲4三歩と玉頭を叩き、藤井竜王名人が△4三同金右と応じると、▲6三銀成と飛び込んで角に当てます。藤井竜王名人は構わず△4五銀と自玉に迫る桂を取り、郷田九段が考慮時間を2回使って▲4四歩と金頭を叩くと、△5三金と寄ってかわします。郷田九段は成銀を角と交換してから銀桂両取りに▲2五飛と走り、藤井竜王名人が△3一玉と引いて桂に紐を付けると、4筋の歩を成り捨ててから▲4五飛と銀を取ります。
先手の飛車を封じ込める藤井竜王名人
藤井竜王名人が△4四歩と飛車を追うと、郷田九段は最後の考慮時間を使って、飛車を2筋にかわします。藤井竜王名人は△3三桂と跳ねて飛車を追い、郷田九段が▲2八飛と引くと、更に飛頭を歩で叩きます。郷田九段は飛車を1筋にかわして辛抱し、藤井竜王名人が7筋の歩を成り捨てると、力強く玉で取って飛車に当てます。駒割りは角桂交換で先手の駒得になっていますが、先手の飛車が封じ込まれ、AIの評価値はほぼ互角の範囲で揺れています。
玉の逃げ場所
藤井竜王名人は飛車を下段に引き、郷田九段が次の王手角取りを先受けして▲4六角とかわしつつ銀に当てると、△6五桂と王手します。郷田九段が玉を6筋に引いてかわすと、藤井竜王名人も最後の考慮時間を使い、王手角取りに△5七銀と放り込みます。郷田九段は▲5七同金と応じ、藤井竜王名人が更に王手銀取りに△7六桂と打つと、少し迷った手つきで▲5八玉とかわします。ごく自然な一手に見えましたが、この瞬間AIの評価値は藤井竜王名人の66%と大きく傾きます。
藤井竜王名人の3枚の桂が躍動
藤井竜王名人は△8八桂成と銀を取って金に当て、郷田九段が飛車取りに▲6三角と打ち込むと、△5七桂成と金を取って王手します。郷田九段は玉で成桂を取り、藤井竜王名人が自陣の桂を△4五桂と跳ねて王手すると、▲4七玉とかわします。藤井竜王名人は取られそうな飛車を6筋にかわしつつ角に当て、郷田九段が▲5二角成と馬を作って飛車に当て返すと、角取りに△5七銀と打ち込みます。
ほどけない詰めろ
後手の6筋の銀に飛車の紐が付いているので、郷田九段はやむなく▲5七同角と応じ、藤井竜王名人が△3七金と王手すると、▲4六玉とかわします。藤井竜王名人は△7八成桂と金を取って詰めろを掛け、郷田九段が▲5八銀と打って逃れると、△8九成桂と桂を取って詰めろを続けます。郷田九段は▲6六桂と打って逃れますが、藤井竜王名人が△5七桂成と角を取ると、詰めろがほどけないと見て投了を告げました。
まとめ
本局は藤井竜王名人が早繰り銀から積極的に仕掛け、郷田九段は強く応じて形勢互角の難解な中盤戦が長く続く熱戦となりました。藤井竜王名人は3枚の桂をうまく活用して先手玉に迫り、郷田九段の一瞬の隙を捉えて鮮やかに寄せ切りました。
2年ぶり2回目の優勝を遂げた藤井竜王名人は、「昨年は準優勝という結果でしたので、今年再び優勝できたことを嬉しく思っています」と喜びを話しました。50歳を過ぎて準優勝という郷田九段には、今後も若手の前に立ちはだかる壁としての活躍を祈念したいと思います。
残念なのは、日本将棋連盟が藤井竜王名人の400勝達成を発表したため、本局も準決勝と同様、放映前に結果がわかっていたことです。準決勝も決勝も白熱の好勝負だったにも関わらず、ハラハラドキドキ感が薄れてしまった感は拭えません。一昨年にも、丸山九段の1,000勝達成を発表したために銀河戦優勝がネタバレしていましたが、日本将棋連盟には通算〇〇勝とか昇段の発表タイミングについて、再考をお願いしたいと思っています。
