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<間に合うかもしれない>

◼️加速する時代

昨今、時の流れに格別の加速感を覚えるようになりました。主観的な時間が年齢とともに短く感じられるようになるのは、ジャネの法則によって説明可能です。けれども、世界情勢における重要な出来事が頻発し、世界の仕組みそのものが急速に変わっていく感触を否定できません。

冷戦後、民主主義とグローバル資本主義が唯一のゲームであるというコンセンサスが2010年代から崩れ始め、2020年代に入って複数の局面が同時に動き出しました。ウクライナ戦争による欧州安全保障の根本的再編、米中の本格的デカップリング、AIの民間浸透による知的労働の地殻変動、ドル覇権への多極的挑戦、西側内部のポピュリズムによる制度疲弊。通常、これらは数十年単位で進むものです。ところが、現在それらは同時並行で進行しています。

◼️思想の伝播

世界構造の頂点には、所有への執着、永続への意志、ゼロサムの権力観といったBlackRockが象徴する「すべては数値化でき、最適化できる」という思想が陣取っています。ペトロダラー体制が前提とする「希少資源の支配が権力の源泉である」という信念とともに、これらには、選ばれた者が支配し、敵は排除すべきものだという、旧約聖書的世界観が体現されています。

日本人らしさの象徴である惻隠の情は、そうした視線を中和する思想です。無常観はまた永続支配への意志を根底から突き崩す哲学です。本来、これらの思想が世界の根幹に届くには100年単位の時間が必要でした。しかし、この加速した時代においては、それが数年のうちに生じる可能性があるのです。

◼️コンテンツの力

近年、日本のアニメと漫画が、欧米の文化コンテンツを席巻しています。鬼滅の刃、呪術廻戦、チェンソーマン。マーベルやディズニーが失速する中で、日本製コンテンツが世界の若者の「最も熱狂するもの」の中心に居座っています。ゴジラ-1.0のアカデミー視覚効果賞受賞は、ハリウッドの本丸で日本製が技術的にも評価された象徴でした。秋には続編も控えている状況です。

なぜこれほどまでに世界から日本の文化コンテンツが支持されているのでしょうか。欧米のコンテンツが善悪二項対立、英雄の勝利、カタルシスの明快さを主軸とする中で、日本のコンテンツは敵にも論理と悲しみがあり、勝利しても何かが失われ、存在そのものへの哀惜を物語の骨格としています。これは明示されざる惻隠の情と無常観の表現です。世界の視聴者は未だその正体を知らない何かに惹かれているのではないでしょうか。思想より先に感性が届いたわけです。

◼️障壁の消失

思想伝播における最大の物理的障壁は言語です。漱石が英語で読まれるには専門の翻訳者と出版社と数十年が必要でしたが、今や日本語で書かれた文章がリアルタイムで英語・スペイン語・アラビア語・ヒンディー語に変換される時代です。

すなわち、思想の伝播速度が、初めて思想の生成速度に追いついたわけです。さらに重要なのは、翻訳AIが単に言葉を置き換えるのではなく、文化的文脈ごと運ぶ精度に近づきつつあることです。惻隠の情のもつ固有のニュアンスを保持したまま届ける可能性が出てきました。概念の希釈なしに伝播できる時代になったのです。

仏教がアジアに広まるのには数百年を要し、キリスト教が欧州を覆うのに数百年の年月が必要でした。いずれも言語と翻訳者の限界があったからですが、今まさに、AIの翻訳機能のおかげで、これまでに要したタイムラグが解消されるようになりました。

◼️世代交代

21世紀に入って四半世紀が過ぎた現在、日本文化の洗礼を受けた世代は、複数の層をなしています。1970年代に少年期を過ごした50代は、宇宙戦艦ヤマト、銀河鉄道999、機動戦士ガンダム、グレンダイザー、ボルテスVほか、無数のアニメや漫画で育ちました。そして、これらは単なる子供向けではありませんでした。

宇宙戦艦ヤマトは滅亡への恐怖と自己犠牲を正面から描き、沖田艦長の死、乗組員一人一人の覚悟といった重厚さを持っていました。999は限りある命の尊さと美しさを描くことで無常観を表現し、ガンダムは敵にも正義があり、味方にも悪があるという構造を本格的に提示しました。善悪二項対立の解体を、50代は思春期に叩き込まれたのです。欧州と中東ではグレンダイザーが社会現象を引き起こし、フィリピンではボルテスⅤが社会変革のシンボルになりました。

この世代が育んだ感性は、後続世代より思想的密度が高い上、皆、各界の意思決定層に位置するようになりました。即ち、その感性が徐々に、しかし確実に権力の座に組み込まれるようになったのです。続く40代は1980〜90年代にドラゴンボール、スラムダンク、セーラームーンで育ち、30代は2000年代にナルト、デスノートに加え、進撃の巨人の衝撃とともに歩みました。鬼滅の刃・呪術廻戦・チェンソーマン世代が20代で社会に入りつつある状況です。

日本文化の洗礼とは単なる娯楽体験ではありません。善悪が単純でない世界観、敵の悲しみへの共感、犠牲と無常の感性を物語として結晶化した経験です。その影響は仮に自覚されていなくとも、判断の骨格に刻まれることになります。

一方、ダボス会議の常連やウォール街の意思決定者、欧米の政治指導者たちの文化的基盤はハリウッド的二項対立と聖書的世界観ですが、その世代は表舞台から退場しつつあります。彼らの後輩たちの世代の文化的感性は、いずれ構造を刷新することになるでしょう。50代から20代まで、三十年にわたる世代が幼少期に共通の感情を経験するという、歴史上、かつてななかった状況が展開中だからです。

◼️構造転換

日本の構造そのものを転換する方法はどこにあるでしょうか。財務省的支配、対米従属、思想的空洞化は単一の手段では動かせません。複数の層が同時並行で、互いを強化しながら進む必要があります。最も持続的な手段は、アニメ・漫画・小説が運ぶ惻隠の情と無常観を、意識的な思想言語に接続する作業です。世界が感性として受け取ったものを、政治・経済原理として個人がnoteやSNSで書き、AIが翻訳し、世界に拡散する。思想は布教されるのではなく、必要とした者が自然に手を伸ばす形で広まるのが健全な伝播です。

財務省的支配、ペトロダラー依存、思想的空洞化は特定の人物や建物に宿っておらず、構造であり、慣性であり、集合的な無意識です。銃で撃てる標的ではないため、クーデターには全く効果を期待できません。二・二六事件はその証明でした。そして何より、惻隠の情と無常観を原動力とする変革が暴力によって開始された瞬間、その思想は自己矛盾を内包することになるのです。

ならば有効な手立ては何でしょうか。既存政党・官僚機構・大手メディアを通じた変革もまた期待薄で、財務省的構造は鉄壁の要塞です。突破口は地方からの浸透、独立メディアの育成、制度外の知識人ネットワークの形成にあります。参政党や日本保守党の台頭はその兆候です。成否は別として、既存構造の外側に回路が生まれていることが重要です。変革は中央からではなく、草の根より始まるからです。

最も時間を要し、しかし最も根深い変革は、世代への直接投資です。20〜30代の多くは感性を持ちながら言語を持ちません。日本のコンテンツが運んだ惻隠の情と無常観を体験しながら、それを思想として自覚できていないことがあります。教育や創作、対話を通じて、その世代に思想の言語を手渡すこと。感性が言語化された瞬間に、それは行動の原理となるからです。

経済的な次元では、円とドルへの二重依存から個人・地域単位で距離を置くことが有効です。地域通貨、物々交換経済、食料自給コミュニティは単なるサバイバリズムではなく、ペトロダラー体制への不服従です。惻隠の情を経済原理に翻訳するとは、数値化できない概念、すなわちケアや信頼、共生を経済の基軸に置く試みにほかなりません。大規模でなくとも、臨界点を超えれば構造を揺るがすことになるでしょう。

財務省的構造が強固である理由の一つは、情報の非対称性を維持できているからです。AIによる情報解析・言語化・翻訳・拡散は、その非対称性を部分的に解体する力を持ちます。個人がかつての大手メディア並みの発信力を持てる時代になったことで、独立した分析をAIで生成し、翻訳し、流布する行為が世界に影響を与えずにはおきません。石ころ一個の波紋が、地球の裏側まで届く条件が整いつつあるのです。

◼️波紋

それぞれが他を強化しながら同時に進むとき、変革が訪れることになるでしょう。文化が思想を運び、思想が言語を得て、言語が世代を動かし、世代が制度を変えるのです。その速度が、今この時代において初めて、人間の一生のスパンに収まる可能性がでてきました。一人一人の仕事は大海に投じた石ころがつくりだす波のごとしです。けれども波紋は干渉し合い、一つの波が、別の誰かの波と重なったとき、振幅は大きな力となるに違いありません。

#創作大賞 #オールカテゴリ部門

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