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短編小説75「村外れに大きな地主」

 谷に音が反響しては消えゆく、道を揺らす振動も常態化している。この場所は高速道路から下りてすぐにある村外れである。同村の人口は7000人だが、山の中腹に五軒の家が存在する。通りの長さにして50メートル弱で、山の斜面に面している。中腹から下は一級河川が見えており、古くから隣村をつなぐ高速道路として多くの車両が行き来する。
 こんな辺鄙な所にも、インターチェンジを出てすぐに大手のコンビニが出来た。このニュースはここに住む住民にとって、驚くべきことだ。何せ同村の買い物に一時間を要す所、歩いて数分である程度の買い物ができるのだ。
 そこで、住むことになった友人が喜々として語っていた。親戚が家を手放し譲ってもらったらしい。銀行員を辞め、自然の中で暮らしたいと思っていた彼には願ったり叶ったりだったようだ。「防音防振のリフォームをし、山を歩き回る」と綿密な計画を私に話した。
 私からすれば、村外れの遠いこんな所は完全に外れクジだと思うのだが、彼の前向きさにあえて言葉にしなかった。工事を手伝う関係で、近隣の家にたずねることがあったが、二軒は早朝に出て深夜に帰る生活で、運送業を行う40代の男性2人、通りの奥に各々家を構えている。一軒は高速道路を走り最初のサービスエリアで働く30代女性で、女手一つで子供2人を育てているらしい。たずねた際、長男を学校へ送り届けるところだった。
 残り一軒が、古さを超越した古の家とでも言おうか、ほこりにまみれた看板には「屋米」と書いてある。右から「米屋」と読む昔ながらの店だ。昼間というのに戸は半開きで、中は薄暗い。私と彼で「すいませーん。」と声を出すと、ゴトゴト音がして奥の方から、腰の曲がった老婆がゆっくりと出てきた。「いらっしゃい。」と言うと。しばらく沈黙が続き、彼は「挨拶が遅れました。引っ越してきた、峡田と言います。」と大きな声ではっきりと言った。
 すると、「そうかい。これでも耳はまだ遠くなくてね。ただ、目が悪いんだ。」とおもむろにめがねを取り出した。家は時折、高速道路からの振動が定期的に揺れている。ふるえる手でめがねを取ると、「千馬と勘違いしそうだ。」と親戚のおじさんの名前を出した。すると、話の途中で店の奥に下がり、「ほれ、たんと食べな。」と米30キロ2袋を渡された。いずれも、一人で店の奥から持ってきた時には、こちらが肝を冷やした。家の土台を残し、8割ほどリフォームが始まったが、業者の昼代を浮かすほど、米には困らなかった。
30代女性の家に車が入り、女性だけ出てきた。私は、少し気になって、老婆について聞くと通称「キヨさん」はかつて米生産で栄えた同村の地主だった。螺旋状の旧道に何台もトラックが列を成し、キヨさんの家に米をおろしに来ていたらしい。ただ、生産が落ち着いて、収益が上がらない状態に入っても、親戚から続く地主家族で店の経営は安定しているとのこと。
インターチェンジに、コンビニを作ろうと言い出したのもキヨさんらしく、自治体がすぐに動いた。やけに広い駐車場から、川と高速道路が立体交差する風景がみえており、異質である。峡田を含めた、五軒の家の周りは異様に暗いが、外から来た私にとっては、目の保養になる。
 「どんな場所でも仕事が出来る時代だからこそ、ここに住むことを決意したんだ。米をたらふく食べられるのがいい。」と峡田は私に言った。交通の便がいいことには触れなかったのが意外だった。米農家は今でもキヨの店に米を卸し、何かにつけて菓子折を用意してくる。キヨはそれを峡田の家を含め、横流ししている状態だ。本来なら、悪しき習慣なのかもしれないが、それを良しとしてもいい気がする。
 私は「峡田が住みたいっていう場所にきて、驚きの連続だけど、今は少し羨ましいよ。」と少し揺れる道路や、上から降ってくる騒音にも慣れていた。リフォームを終え、高速に乗り帰る頃、詳細は分からずじまいのキヨさんのことを考えていた。
 キヨさんの一声でできたコンビニだけ敷地が狭くとも、駐車場は広く24時間煌々と明るい。この村の外れでは革新的と言っていいほど、コンビニの存在は大きい。だが、それよりキヨさんの影響力は村外れでも、とどまることを知らないだろう。
 峡田は暮らし始めてからというもの活力を取り戻している。米のおかげかもしれない。
 

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