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短編小説267「行かなくちゃ」前編

 私ははとある学校に向かっていた。車の荷台に積まれているのは、我々が丹精込めて作った弁当である。この学校は我々のルートの中で一番離れた届け先であり、車で片道20分弱はかかる。地図上の直線距離にすればすぐそこのように見えるのだが、地形の都合で大きく迂回するようなルートを強いられるのだ。交通量の多い国道をショートカットしてスッと抜けられるような、都合のいい裏道は存在しない。
 とはいえ、配達の終盤ということもあり、車内は穏やかな空気に包まれていた。使い込まれた軽バンだがカーエアコンの調子は良く、心地よい冷風が夏場の汗ばんだ肌を冷ましてくれる。目的地までの道すがら、ドライバーとの雑談も弾む。最近の物価高騰の話や、朝のニュースで見た時事ネタなど、他愛のない会話が続く。そうこうしているうちに、車は見慣れた学校の正門へと到着した。
 時刻は11時30分を過ぎている。距離も離れているし、そもそもどういうご縁でこの学校から弁当の注文をいただくようになったのか、詳しい経緯は分からない。当時の立ち上げを知る人は、もうこちら側にもあちらの学校側にも残っていないのだ。
 それでも、私の知る限り10年以上は、毎日のように電話注文が入り続けている。ある日は4個以上の大口注文だったり、またある日はそれ未満の小口だったりと日によってばらつきはあるものの、我々にとっては長年お世話になっている非常に大事な客であることに変わりはない。
 自分自身はあくまで配達をする側なので、勝手知ったる様子で弁当が入った番重を抱え、直接職員室へと向かう。指定された長机の上に今日の弁当を置き、そこにある古びたクッキー缶の中に入れてある代金を自分で受け取る。
 まるで、田舎の道端によくある野菜の無人販売所のようなシステムだ。昨今どこでもうるさく叫ばれる「セキュリティー」という言葉は、一体どこへ消えてしまったのだろうか。令和の時代になっても、お互いの「信頼」という目に見えないものだけで成り立っている、なんとも昭和的で牧歌的なやり方である。学校の門も常に開いているし、玄関のドアも開けっ放しだ。
中編に続く。

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