街クジラが住む湖【シロクマ文芸部】
街クジラへようこそ。
山奥に近いこの街はそう呼ばれていた。
どうしてそう呼ばれているのかわからない。
宿のおかみさんにきたところ、街の真ん中にある湖にクジラが住んでいるからだと言う。
湖にクジラ?しかもこんな山奥で。
ここに来るのは初めてだった。
執筆のため、ずっとホテルに缶詰めだったわたしは、のんびりとしたくて誰も来なさそうなここを選んだ。
一息ついて散歩に出た。
おかみさんが言っていた湖はすぐ近くにあった。
それはこの街の3分の2を占めるほどの湖だった。
「琵琶湖なみだな」
湖の周りを歩いていると木の看板があった。
「たべられないものをあたえないでください」
「んう?」
看板は半分に割れていた。
しかしそう読むことができたためそれ以上は気にならなかったがその意味はわからず、とりあえずわたしはそばにあった石を投げた。
湖に落ちた石は音がしなかった。
不思議になって、もう一度投げた。
でも石はぽちゃりともいわなかった。
「なんだ?」
次の日。
朝の散歩に出た。
ここはこの湖以外は何もないらしい。
「たべられないものをあたえないでください」
わたしは昨日より少し大きめの石を探した。
そして昨日より湖に近づいて石を投げようとした。
しかしその瞬間、うっかり足を滑らせ尻もちをついてしまった。
「クソッ!」
そういって起き上がろうとした。
ところが起き上がれない。
どんなにやっても起き上がれない。
足が沼にはまり、まったく身動きがとれない。
「クソッ!」
そして私はそのまま湖の中へ連れていかれてしまった。
「たべられないものをあたえないでください」
「たべられないものをあげるとあなたがたべられてしまいます」
割れた看板の半分を読んでいれば助かったかもしれない。
