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第11話 【余白】

朝。


目を覚ます。


胸の奥は、

少しだけ重い。


でも、

もう慌てない。


「今日は、

そんな日なんだな。」


それだけで、

十分だった。


オートノミアは、

お気に入りのカップに

コーヒーを淹れる。


お湯が落ちる音。


静かな湯気。


窓から入る風。


何も特別じゃない。


でも、

何も特別じゃない時間が、

少しだけ心を静かにする。


カップを持ったまま、

窓の外を見る。


街は、

いつも通り動いている。


急ぐ人。


スマートフォンを見ながら歩く人。


俯いたまま、

信号を待つ人。


みんな、

何かを抱えているように見えた。


そのとき。


公園のベンチに、

ひとり座る人が目に入る。


俯いている。


何を考えているのかは、

わからない。


疲れているのかもしれない。


悲しいことがあったのかもしれない。


何もないのに、

なんとなく苦しいだけなのかもしれない。


オートノミアは、

少しだけ立ち止まる。


何かを言うわけじゃない。


励ますわけでもない。


答えを知っているわけでもない。


ただ、

同じ空を見上げる。


風が吹く。


木の葉が揺れる。


カップから、

細い湯気が空へ伸びていく。


その人も、

ゆっくり空を見上げた。


言葉はない。


会話もない。


でも、

それだけでよかった。


「……休んでも、いいのかもしれない。」


その言葉は、

相手に向けたものじゃない。


自分に向けた言葉だった。


締めつける影は、

まだ胸の奥にいる。


ささやく影も、

時々声をかけてくる。


欲しがる影も、

完全には消えていない。


でも、

影がいることと、

休めないことは、

同じじゃなかった。


疲れた日は、

疲れたままでいい。


立ち止まる日があってもいい。


少しだけ、

深呼吸できる時間があれば、

それでいい。


オートノミアは、

最後の一口を飲む。


少し冷めたコーヒーは、

朝より少し苦くて、

少しだけ優しかった。


帰ろう。


今日を、

ちゃんと生きるために。


速くじゃなくていい。


上手じゃなくていい。


自分の歩幅で、

歩けばいい。


オートノミアは、

静かに歩き始める。


その背中を、

朝の光が、

やさしく照らしていた。


― 次回予告 ―

空は、

誰の上にも広がっている。


苦しい日も。

笑える日も。

立ち止まる日も。


全部、

同じ空の下。


最終話【同じ空の下】

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