【短編】黒髪マッシュに喰わせろよ。①
そのサイトに投稿することに決めたのは、単なる気まぐれだった。
SNSで呟きや写真をアップすることはあったが、あるときふと思い立ち、物語を書いてみた。数分で読める短いもので、特に奇想天外な発想もない。わたしと同じ女子大生の視点から、何気ない日常を切り取っただけの代物。それでも初めて紡いだ私だけの世界に愛着が湧き、どこかで公開して反響を確かめたくなった。
ネット内でいくつかのプラットフォームを下見し、なんとなく思い選んだのがそのサイトだった。SFやファンタジーを主流としたプラットフォームが多い中、私の書いたものと似たテイストの作品もあり、場違いにはならなさそうだった。
特に気負いもなくアカウントを作成した。アイコンはどこぞで撮ったガラス細工の写真を使い、ペンネームも昔「似ている」と言われたキャラクターの名を借りて、『peko』とつけた。
『物語を書き始めました。感想いただけたら嬉しいです。』
ガラス細工のアイコンの隣にそんな紹介文を添え、『peko』の活動はスタートした。
それなりに期待を込めての初投稿だったが、閲覧数は思うように伸びなかった。作品ごとにグッドボタンを押せるシステムだが、そちらもまるで振るわない。落胆しながらも、「まぁ、こんなものか」と諦観に似た心持ちだった。
二作目を書いた。
同じように、日常のワンシーンを切り取ったもので、派手さはなかった。しかし、個人的には悪くない。前作もそうだったが、特に詰まることもなく、流れるように筆が進んだ。決して大声では言えないものの、自分には才能があるのでは、と密かに感じた。
投稿後の反応は依然として薄かった。それでも、三作目、四作目を書いて公開した。この良さを理解してくれる人がいるはずだ、という微かな予感があった。
五作目で、初めてコメントがついた。サイトから通知が来たときは、心が踊った。講義中にも関わらず、机の下でスマートフォンを操作し、すぐに確認した。
『あなたの作品からは、作者の顔が見えない』。
そう書かれていた。
発言主は『カムパネルラの父』という投稿者で、その名に似つかわしく、白髪で眼光鋭い男のアイコンだった。ページを覗くと、形而学上、ルサンチマンといった哲学用語が記事に多用されていた。
変な輩に絡まれてしまった、と思う一方で「顔が見えない」という指摘が気にかかった。自分と同じ学生を主人公に、等身大の目線で書いているのに。そんな切り口からダメ出しをされるのは、意外かつ心外だった。
試しに、フォロワー数の多い、人気投稿者のページをはしごして回った。すると私のように物語を投稿しているのは少数派で、大半はエッセイを主軸に活動していた。今更ながら、こういう類のものの方が読まれやすい、ということを知った。
創作物だけでは、私がどういう人間かわからない。それがわからないと、興味を持ってすらもらえない。
どうやらそういうものらしかった。
手始めに写真フォルダを漁り、斜め後ろから私の顔が映ったものを見つけ出した。色彩と光を加工し、それを新しくアイコンに据えた。
紹介文も書き直した。
『生まれてはじめて文字を紡いだ大学生。明け方のお散歩が好き。ペンネームは某菓子メーカーのあの子から(※似ているかは諸説あります)』
そのリニューアルと同時に、六作目を投稿した。
そこで初めて、フォロワーがついた。
