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NO.36 母の目覚め

母はとても奇妙な人だった。
妄想で話をしているのか真実なのか、わからないような話をしていた。
巧妙な嘘も得意だった。

母からお金の無心があったと叔母は言う。
その内容の中に嘘も含まれていた。
父が酒乱で殴る→これは本当
父がギャンブル依存→これは母が依存だから嘘。

母が倒れ意識不明なのを良いことなのか、叔母の話も聞いていると(あれ、さっきと話し違くない?)と思うことがあった。
叔母の家から母に会いに来るには飛行機か新幹線を利用する。
母に頼まれ叔母は名義貸しをし、母がカードや返済の管理をしていた。
叔母は名義貸しをしたカードの借入金が20万円ならば10万をもらう。
母は20万の返済をし続けると言った内容だった。
「叔母へのお金多くない?」と疑問になり聞くと、叔母は「現金で貸していた金額の一部よ」と答えた。
「現金で貸していた金額はいくらなの?」と聞くと「あんたには関係ない!」と怒鳴る。それなのに「母親の借金なのだから子供のあんたが返済しな!」と言う。
金額も不明なのに、母の借金と言うだけで娘、娘の夫は返済しなくてはいけないのか?と思うから聞くと「うるさいね、いちいち。あんたの母親の借金なんだよ!」と怒鳴る。
傍で聞いていた祖母は何も言わなかった。
祖母は母と叔母に甘い。叱らない親だった。好きなようにさせて放任でもあった。
祖父にその話をしても「俺には知らない話」と言った。

そして、わたしの夫は叔母に責め立てられ責任感を感じたのか、一刻も早く叔母から解放されたかったのか、夫の祖母にお願いして600万円を貸してもらうように手配をしていたのだ。
その600万円の内訳は、叔母、わたし、夫の消費者金融の借金返済だけの金額だ。叔母は納得いかないかと思いきや、「それでいい」と言った。
夫の両親、祖母は夫が借金したお金だと思っている。
すぐに用意してくれ、全て完済して借金はなくなったと安心していた。

そして母方の父、わたしの祖父は母の病院へ行き、母の傍へ行くとまじない的な事をした。2本の指で母の手のひらをさすり額をさすり、何か小さな声でつぶやく。
祖父も祖母も宗教加入はしていたけれど、そんなことをするような宗教ではなかった。
数日すると、母がぐぅ~と大きな息をして目が覚めたのだと聞いた。
母が目を覚めた瞬間はわたしや夫は立ち会っていない。
借金返済に奮闘している中の出来事だった。

祖父はわたしと夫に「お母さんの目を覚めさせたのはおじいちゃんだ」と誇らしく言った。祖母は隣でうんうんと何度も頷いていた。
わたしはその姿を見て、少し気落ち悪いと思ったけれど、自分の子供とこれから母の面倒を見なくてはいけないと思うと忘れた。

翌日、母の病院へ行くと母はベッドに座っていた。
右手を挙げて笑顔に「あら、来たの」と言った。
そしてそこから母の愚痴が始まった。
「目覚めたらお腹空いたのよ。看護師に言ったら昼から出るって言うから待っていたら、なんと天ぷらだったの!ありえないでしょ!意識不明だったのによ!」と怒り散らしていた。
わたしは「病院食だしそれは仕方ないよ」と言ったけれど、母の文句は止まらない。
そして、わたしに「髪の毛をみつあみにして」と言うから言われたまま、意識不明で入浴もしていない薬品の臭いがあるべたべたした髪をみつあみにした。
みつあみをしている最中に母は「あんたおじいちゃんに感謝してよね!三途の川が見えたけれど足元が水浸しで渡れなかったのよ。おじいちゃんの声が聞こえて振り返ったら目が覚めたのよ」と満面の笑みを浮かべて話していた。
確かに九死に一生を得るなんて話も聞くけれど、なんか母の話は変だった。
なぜか母は誇らしく話をしていた。
そしてもう1つは「青空の子供の手がおばあちゃん行かないで」って肩に手を乗せて掴んだんだよ」とまで言った。
もうこうなると止まらない話になるのは知っていたから「うん、うん」と聞いていた。

翌日、病院へ行くと母は「転院するように行ったから」と言ってきた。
お医者様と看護師からわたしは呼び出され、「お母さんこの病院が嫌い。藪医者だと言い転院したいと〇〇病院名を出してきました。本来ならばもう少し治療してからですが患者が望んでいるので…」と困った様子だった。
わたしも「わかりました」と告げた。
転院書類を見ると6万円の入院金が必要と記載があった。
(誰が払うの?)と思いつつ帰宅し、祖母、叔母に話すも2人はいそいそと帰っていった。

夫とわたしと子供だけになりわたしは夫に
「なんかお金だけ取っていった感じ。母の面倒を見るのもしんどい」と話すと、初めて「俺もだよ。最初と話しが違いすぎる」と言った。
それでも夫はわたしに「青空が思うようにしていいよ」と言った。

親のことが嫌いになってきているのに、なぜか親を捨てられないでいるわたし。結婚し子供もいるのに、まるで自立していない人だった。
母を可哀想と思うわたし、大嫌いだと思うわたし。両方のわたしがいてずっと苦しい。
どれを選べば正解なのか、正しいのか誰も教えてくれなかった。

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