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窓口は冷徹に

総務で契約書関係の仕事をしていると、
印紙を貼ってしまったが、書類が不要になった、誤った額の印紙を貼ってしまった、などということが時たま起こる。
印紙というのは、ふちがギザギザになっていて、
それぞれ金額が書いてあったりして、まるで切手のような形のものだ。
印紙税を収めましたよ、という証明のようなものだが、
契約書関係に間違って貼ってしまった場合、
仕事を頼む側、頼まれる側のどちらかが割り印という印鑑を押していない場合に限り、その額が戻ってくる。
割り印を押してしまうと契約成立とみなされ、
どんなに高額な印紙を誤って貼ったとて、一銭も戻ってこない。
還付になる書類はそうそう出てこないが、
還付になりますよ、この期間ならね、という期限があるため、
反故の書類がある程度たまった時点で、
地元の税務署に赴いて手続きをする。

書類提出の際の確認作業をお願いするため、
税務署に予約の電話をした時から嫌な予感がした。
諸税担当の職員さんは女性だった。
男性でも女性でも別に構わないが、最近、女性の割合が増えたよな、という印象がある。
そのため、女性の方が電話口に出たとて、たいして不思議にも思わなかったが、その対応が冷たい。
電話でも表情はわかる。
にこりともせずに、能面のような顔で対応しているのが見えるようだ。
声も小さくて、少々聞き取りづらい。
(決して私の耳が悪いわけではない。そのくらい、ぼそぼそ。)
まあ、こちらとしては、予約を取り付けて窓口へ向かえばいいだけなのだから、愛想の良しあしはさほど気にはならないが、欲を言えば、愛想は悪いよりはいいほうがいいに決まっている。

来訪は一週間後。
必要な申請書類をホームページからダウンロードして作成し、持ち込むだけだ。
会社印や担当者の押印はだいぶ前に廃止された。
これだけでも助かるというものだ。
(役所に行くときにはたいてい、身分証明書、ハンコが必須だからだ。)

予約当日、時間ぴったりに窓口へ伺うと、
絵にかいたような女性職員の方が出てきた。
小柄でやせたおかっぱの黒髪、化粧などしたことがないことを体現しているような化粧っ気のない能面に眼鏡、昔の先生のような中途半端な丈のスカートにスニーカー。
私が中学生の頃の歴史の女教師を思い出す。
もちろん、それはあまり楽しくない思い出とともに。
面接ブースへ案内され、
書類を確認します、という。
紙袋一つの反故の契約書を申請書を出すと、
一瞬息をのんだ後に書類の山を一瞥した女性職員さん、
「一覧表はどこですか?」
一覧表ってなんだ?
一覧表ですか?とオウム返しに聞いてみると、
書類の種類、契約日付、いくらの印紙が何件、という一覧表だという。
一覧表なんて言われたことありませんけど、と言うと、
能面は、はあーっとため息をついた後に、
「・・・そうですか。では、次回以降で結構です。」
とこちらの顔も見ずに言う。
それは必ずつけなくちゃいけない書類なんでしょうか、と聞いてみると、
言い終わるか終わらないかのうちに、
「ですから!次回からで結構です!」
という。
ちなみに、私は、
「だから!」
とか
「ですから!」
という人間は信用しない。どちらかと言えば大嫌いだ。
そんなこともわからないのか、この馬鹿は、と言われているような気がするからだ。
私の被害妄想かもしれないけれど。
なので、こちらも「ふうん・・・」と鼻を鳴らし、唇をへの字にしてしまったが、それだと、あちらの土俵に乗ったことになってしまう。
気を取り直して、背筋をただし、能面の手元を凝視する。
能面は、隣にあったプリンターから白紙を取り出し、
こちらの書類を数え始める。
200円の印紙×〇件
400円の印紙×〇件



のような感じだが、それは申請書に書いておいたし、
書類の種類ごと、印紙の金額ごとに並べておいた。
悔しいのは、こちらの確認不足で、
双方押印=契約成立、の契約書が2件混じってしまっていたことだ。
「還付できませーン」
と腹に力の入っていない声で返してよこしたが、
客の言うことを真に受けて数えてしまった自分にも腹が立つ。
それでも、
200円の印紙×25件=50,000(本当は5,000円)
と書いた能面に、優しい声と手つきで、
「50,000円と書いてありますけど」
と指摘してあげたので、ちょっとすっきりとした。
その時の能面は、無表情のまま「あっ」といって、
ぐしゃぐしゃぐしゃと間違えた数字を塗りつぶし、そ
の上に「5,000円」と書いていたが、
なんというか、感じ悪いことこの上ない。

ひと通り眺めた結果、合計金額を三度も電卓をたたいた結果、
とりあえず、他は問題がなかったようだ。
還付には二、三か月かかること、
今回使用した申請書の様式が古いことを告げて、
能面は山のような埃っぽい書類を抱えて消えていった。

しかし、久しぶりにこんな絵にかいたような役人に出会ったような気がする。
最近の公務員の方は押しなべて親切で愛想がいい。
愛想がよくなくても、とりあえずは親切だ。
表情もなく、不親切で、そこはかとなく偉そうで。
若くてかわいいころだってあっただろうに、と
おそらく、能面と大して年齢の変わらない私が言う。


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