工場長の秋 【詩/現代詩】
荒川の自転車修理工場には
万物をリサイクルする準備がある
波長の合わないラジオ
からまり合った3本のコルセット
穴のあいた冷蔵庫と
尻尾のはずれた扇風機
ミルクコーヒーに浸したせんべい布団
(輪廻のねじをまわします)
工場見学の小学生たちは
作業場の景色にうっとりする
修理の順番を待ちかまえている
黒焦げのミッキーマウスや
泡を吹くマウンテンバイク
けいれんする草刈り機や
集団リンチを受けたグランドピアノ
お昼どきになると
鱒のサンドイッチから工学的知性がはい出して
秋色の水辺をモコモコさまよっている
川面は紅葉の絨毯だった
(かれはちょうどいま
出来の悪い息子を改造しようとしていた
極細のピンセットを耳から入れて
ハイゼンベルクのチップを海馬に差し込む
みどり色のバターがまたさきからあふれて
愛用の旋盤をびしょぬれにするのだった)
そうやって四六時中
オイルにまみれて粉骨していても
工場長は気まぐれな葉っぱみたいだった
夕方になると 十八世紀の自転車に乗って
(ちょっと風呂に行ってくるよ)
といい
永遠に帰らないこともある
旧市役所跡のラジウム温泉で
閉館まで洗い場にすわっている
数知れないタトゥーが水陽炎に揺れ
茹であがったタコが湯舟に浮いている
かれはずっと鏡を見ている
あふれかえる龍虎にどつかれながら
ラジウムを吸いすぎて気が遠くなっても
頭の中は工具でいっぱいだった
(三代目の工場長は
ちょっと月見をしてくるよ、
といって出かけたまま
帰らない衛星になったらしい)
満月がランタンになる頃
露伴先生のめがねが空を駆ける
貧乏文士が質入れしたパイプを咥えたまま
旋盤に捕縛されたミッキーマウスは
棘だらけの木の実のようだった
時間を巻き戻すゼンマイが
薄暗い叙情を呼びよせる
明け方のガラクタが少しずつ集まってくる
黄金色のクチバシが裏返る瞬間
もうすっかり川面は紅葉でうまっていた
