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“自分が一番ざわつかせてるのに、空気には超敏感”なセイウチ長男の不思議

うちのセイウチ長男には、“ざわつき”を察知する能力がある。

誰かが不機嫌、イライラ、迷惑そう――
そんな空気を、敏感に、的確に、即座に受信してしまう。

これはもう、地震計と呼んでいいレベルだ。

家庭内で計測を始めれば「ママ、怒ってる?」とすぐ聞いてくるし、
お出かけ先で小さなトラブルが起きれば、ピクッと反応して空気を読む。

だからこそ、彼は優しい。
でも、ときに過敏で、かなり面倒くさい。

しかし面白いのは、
彼自身がときに、ざわつきの震源地そのものにもなることだ。

■震源地1:電車でのぐずり抗議(セイウチュード8.3)

とある休日の午後のこと。

私は子どもたちを連れて、電車で5駅ほど移動していた。
その間ずっと、長男はセイウチモード全開だった。

ぐずぐず、ふにゃふにゃ、むすっとしては座ってみたり、立ち上がってみたり。
口にするのは「オッフォ…」「オオオ…」
といった謎の呻き声。

大きくはないけど、確実に車内に響く低音。
うわぁ、周囲の視線が、静かに痛い。

その日のぐずりの原因は、
数日前に私が発動した「自転車お出かけ禁止令」への抗議だった。

きっかけは、道交法ギリギリの蛇行運転。
車も人も通らない道とはいえ、左右確認もままならず、
何度注意してもまっっったく耳に入らない。

ついに私は言い渡した。

「しばらく、1人で自転車は禁止!」

当然、彼の中ではこれは理不尽な弾圧であり、自由の剥奪であった。

その鬱憤が、ぐずりセイウチとなって電車内に出現したのだ。

私はというと、彼の“ざわつき”が周囲に伝播していくのを感じながら、
心の中で、誰にも見えない観測データを記録していた。

震源地:セイウチ本人
セイウチュード:8.3 震度:5強
※津波の心配はありませんが、精神的余震にご注意ください。

■震源地2:チャリ注意ババア(セイウチュード7.2)

数日後のこと。

私は次男を電動自転車に乗せ、長男は自分の自転車で並走していた。
その道はゆるやかな下り坂。スピードが出やすい区間ではある。

しかし、我が家において長男はすでに危険運転の罪で家庭内起訴中。
前述の“自転車禁止令”が執行猶予付きの状態で、彼自身も相当慎重になっていた。

そこへ、すれ違いざま、知らないおばあさんが突如絡んできた。

「そこの子、スピード出しすぎでしょ!」

いやいや、出してませんて……。

当然、長男はまたもご立腹。

「は? 何あのおばあさん? 意味わかんないんだけど」
「ていうか僕、今すっっごく気をつけてたし!」

正しく振る舞ったときほど、彼の怒りは燃える。

震源地:若者全員注意するババア
セイウチュード:7.2 震度:5弱
※一部地域で軽微な火災が発生しました。

■震源地3:正論バスじじい(セイウチュード7.8)

そしてつい昨日のこと。

雨の日の午後、足元はびしょ濡れ。
バスは混み合い、乗客たちは無言でギュウギュウに押し込まれていた。

そんななか、乗ってきたおじいさんが堂々たる声量で叫んだ。

「もっと奥、詰めてください!」
「奥が空いてるでしょー! 詰めてください!」
「詰めて! 詰めて!」

……うん、そりゃ入口付近は混んでるけど、
奥だってみんな必死なんですよ。
子連れも、ご高齢の方も、傘も荷物もギュウギュウなんですよ。

すると、見かねた中年の男性が、
「みなさんもう詰めてますよ。あなたがこちらへどうぞ」
と、出口付近のスペースにやんわり誘導。

じじいはそこへ移動し、ようやく車内に静けさが戻った――かに見えた。

だが、その後いちばんざわついていたのは、うちのセイウチだった。

バスの中ではなんとか我慢していたけれど、
顔面がすでに般若。
隣のお姉さんも二度見していた。

そして、バスを降りた瞬間、バスの中で温めた怒りが怒涛の如く溢れ出す。

「さっきのじじ…おじいさん、なんであんなに言ってたの?」
「だいたいさ、あの状況で“詰めろ”っていうのはおかしいでしょ?」
「足濡れてるし、奥は段差あるし、子どもとか荷物とかあるし…」
「しかも、自分は全然動かないで“他人が動け”って、ちょっと無責任じゃない?」
「ねぇ、聞いてる?
ねぇ?」

……聞いてますとも。
というか今、あなたが一番ざわつかせてますよ。

震源地:俺が正義のバスじじい
セイウチュード:7.8 震度:4
※交通機関には一時遅延が発生しました。



自分は世界をざわつかせるくせに、外界のざわつきには敏感――。
これは一見、矛盾しているようにも見える。

でも実際は、矛盾ではない気がする。
繊細×激情型のセイウチ長男ならでは現象ではなかろうか。

なぜ、そんなことが起きるのか?

  1. 外界への共感・観察センサーは鋭い
     → 他人のズレ・理不尽・異常にはすぐ気づく(しかもスルーできない正義感つき)

  2. 自己の衝動には鈍感 or 客観視しづらい
     → 自分がセイウチ化して場を引っかき回してるとき、「震源地が自分」とは思っていない

  3. 激情の波に乗ると理性が飛ぶ
     → 普段は空気を読めるのに、感情が高ぶると一時的にセンサーも自己認知も全部オフになる

だから私は思う。

電車で響く呻き声も、
バスを降りたあとの怒涛の論破も、
「僕は正しくやったのに!」という憤りすら――

全部、彼なりの誠実な“ざわつきとの闘い”なのだ。

気づきすぎてしまう。
けれど、それをどう処理すればいいか、まだわからない。

だから彼は、地震計でもあり、震源地でもある。

今日も我が家には、セイウチが地震を引き起こしている。
そしてその横で、私は静かに、
「また震度3か……」とつぶやきながら、
揺れが収まるのを、そっと待っている。

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