神戸でおじさんジュブジュブジュブナイル
夏になると毎回思う。
〝去年より暑くないか?〟
汗かきの私はハンドタオルで額の昨日までビールだったものを拭いながら太陽に舌打ちをした。
営業成績により社用車が上からあてがわれる為、今回の私は電車で外回りとなったのだ。
クールビズなんてものが流行り半袖にはなったが年寄り経営陣連中の
〝ビジネスマンたるものネクタイは戦闘服〟との時代錯誤な根性論との折衷案でネクタイは外せなかったらしい。
何とも馬鹿らしい…ネクタイは元々防寒の為のモノなのに自分の人生を否定されたかのように騒ぎ立てる老害どもだ。
つまりそれを知っているお客様からすれば、
汗ダラダラの営業マンは仕事ができない奴という事を自分で宣伝しているに過ぎない。
言い訳に過ぎないが這い上がるモチベーションは沸かなかった。
足は無意識に涼しげなハーバーランドらへんに向かっていた。
梅雨時の海岸、時間は昼時で営業には向いていない。人は遠くまばらで、その風景は何かの画面を思わせる。

私は自動販売機のアイスコーヒーを手に護岸ブロックに腰を下ろした。
思えば大阪から神戸に来るのは久しぶりの事で
今回は新規開拓のつもりで訪れたのだが上手くいかない。
(雨が降るかもな…)と何となく思った。
高いであろう湿度は埋もれた記憶が鼻の奥でぬるい雨の匂いと重なり鼻腔に拡がり海の潮風と混ざり合う、おそらくそれは〝良い記憶〟と繋がっており 何か何とも言えないじんわりとした暖かさが胸を包んだ。
瞬間、周囲は音を無くし暖かかさは光の粒子となり降り注いだ。
少しづつ心の奥底に〝夢だったに違いない〟と手放してしまった記憶に被さる諦めの砂を、暖かいそれは優しく払い除けてゆくようだった…
30何年前に私は確かにここに居たのだ。
浮かぶ記憶の断片は優しく
(ワイシャツが濡れたらこの後困る)より大きく、
砕けた宝石が風船の様に私の周りをくるくるとまとわり弾け、携帯の画面を大きくする様に拡がりまた縮む…隣の宝石風船とダンスするかの様に交代してその断片は時空列を無視して断片を煌めかせるのだ。
しばし私はこの夢の記憶?記憶の夢?に心を奪われた。
まるで30年前の俺の様に…
彼女は若く美しく可憐で残酷だった。
まるで猫の様に気まぐれで読めなかった。
彼女に逢う少し前の夏のある日…
昭和の終わりの時代、〝一億中流〟とTVが大衆をそそのかし働き続ける大人は上がり続ける収入に目の色を変え、モノは溢れていた。
捨てる場所が無い程に。
白人に憧れて叩きのめされたイエローモンキー達は経済という爆弾で世界、或いは自国、そして民族(己)の価値観も壊し恥を世界に晒した。
ゴミが増えそれを燃やし都会の空気は汚染され光化学スモッグとなりしばしば体育などの授業が中止になった。
まるで使われないモノ達の呪いが人々に返って来ている様ででもそれは自分達で作ってて…
滑稽だった。
中学2年の俺でもバカな事やってんなとスカして見ていた。
まぁこの後バブルでもっとバカがバカになるんだけどな。
私はこの恥ずかしい記憶を俯瞰で観ながら当時感じたままの気持ちを再生出来る事に気がついた。
まるで明晰夢だ。
映画を観るようにかつての幼い自分の
たった1度の中2の夏休みを少しづつ思い出していた…。。
1990年代の大阪の中学校…他に漏れず校内暴力は吹き荒れていた。月に2回はガラスが割られ、プールには石灰が撒き散らされ中止となる。
授業中に突如として火災報知器は鳴り響くのはみんな慣れており防災の意味はなさなくなっていた。
シンナーを吸いながら校内を徘徊する先輩は生活指導の体育教師に何処かへ連れて行かれ、出勤する教師の自転車はサドルをブロッコリーに変えられ又は屋上までロープで引っ張り上げられた。
女性の英語教師は毎回泣いて職員室に帰り休み時間にはみんな競う様にトイレでタバコを吹かしていた。
いわゆる不良、生徒の半分がヤンキーでその半分がファッションヤンキー。本当のヤンキーのそのまた半分は暴走族に入ってる奴もいたし学年に何人かは鑑別所って所に入ってるって噂だった。
その時はわからないがだいたいそこら辺の中学はみんなこんな感じでTVの金八先生を観て
(こんな先公おるわけないやんけ…)と思っていた。
今思えばみんなバカばっかりだった。
今なら迷惑系YouTuberってところだ。
あまり余った自己顕示欲やパワーをあるものはケンカであるものは暴走であるものは薬物で押さえつけていたのかも知れない。
学校のルールにはついていけないバカなのにその下でルールを作る。
それはヤンキーなりの男気や友情でハンパもんは制裁を受けるのだ。
俺は暴走族じゃないが暴走族の知り合いがいて暇な夜は旗を振った。
何の思想も無くただ
(俺はいったいなんなんだ!)
(誰か教えてくれよ!)と旗を振り続けた…
なんにも興味なさそうにいつもイラついて心の中では叫んでいたのを思い出す…
尊敬できる大人はおらずTVや雑誌は嘘まみれ。
果ては世紀末に恐怖の大魔王が来るらしい。
多分ここは俺の居る場所ではないのだろう…
(はやくくだらない世界をブッ壊してくれよ)
この頃の私は落ちこぼれで学校にも不良のルールにも納得できずにどちらに染まることも無く心身共にブラついていたのだった。
先輩ヤンキーに目をつけられなかったのは学校で1番強い3年の先輩が姉の彼氏だったからだ。
独りで学校をサボってゲーセンで遊んでても俺に絡むヤンキーはいなかった。
姉の彼氏はヤンキーでありながらラガーマンで今で言うイケメンでありながらガチで強い男だったからだ。
そもそもヤンキーなんてダラダラしてるクズがスポーツマンヤンキーにかなうわけない、そんなわけで俺はムダに怖がられてボッチこのザマだ。
暗い店内は狭いが向かいのアルミサッシの向こうも同じジジイがやってる商店街のゲームセンターだ。
(ああっ!懐かしいなぁ〜)当時の仄暗い室内は独りで過ごした日々を哀しく思い出させた。
客が勝手に入ってテーブル筐体にスイッチをオンにするとブ〜ンという起動音?か知らんがブラウン管に明かりが灯る。
最初はめちゃくちゃな画像だがじきに落ち着き本来のタイトル画面が浮かび上がるのだ。
あらゆるゲーム画像が暗い室内の天井を照らし、
やがてそれぞれのミュージックを我先にと奏で始めるのだ。俺はこの瞬間が好きだった。
ホコリ臭い基盤が電気で暖められむせ上がる松ヤニの様な匂い…
くだらない生活の中で
(俺は世界のゲームの最先端日本にいるんだ!)という愚かで無意味な気持ちが完全に無気力になれなかった理由の1つかも知れなかった。
ポケットを探ると50円玉が出てきた。
1ゲーム代としてコインを投入した。
ガコンっ!空の筐体に響く。
ジジイが少しこちらを見た気がした。
障子の向こうでTVを観ている様だ。
ビールを飲みながら制服でゲームをしていてもジジイは何も言わない。
所詮、金さえ儲ければイイのだろう、
フンッ…みんな同じだ、さっきまでいい気分だったが大人はみんな同じなんだ…
シューティングの自機もヤラれてしまった。
「やめてくれよぅ〜」控えめの喧騒と怒号が
向こうのアルミサッシの方から聴こえた。
向こうはただのシャッター駐車場に筐体を置いているだけなのでよくカツアゲされている奴がいつも目に入った。まあ俺には関係ないし校区外だし
ジジイも気づかない様だ。
ビールを飲みながらライターの着火装置でカチカチとゲームをバグらせクレジットを99にした。
タバコに火を着けるとジジイがおもむろに近づき灰皿を出しながら
「のう…学校をサボる、ビールを飲む、ゲーム代金を誤魔化す大いに結構」いつも小さいジジイが何故かデカく見える。
「…なんだよっ?急に動くんちゃうぞ!」
俺は少し動揺した。
ジジイは何かが行われている駐車場を指差し
「お前さんがよく来るから治安が良くなってな
わしは勝手に用心棒と思っておった、不良のせいで普通の子供たちが来れないのは残念。」
ジジイは丁寧な口調でしかしたっぷりの威圧感で言った。
「もう報酬は払っている様なもんじゃからな」と異常なクレジットに目を向けた。
(クソっ!面倒くさっ!)
俺はベストのボタンを閉めタバコを優しく消した。
「ジジイ!まだ吸えるヤツやからなっ!」と訳のわからない台詞を吐いて小さな商店街を横断し髪型を手櫛で整えた。
「オラッ!何さらしとんねんっ!」椅子を蹴り上げデカい音を出した。
ケンカは演出大事だ、何事も最初が肝心!
奥には3人が居た。
他校のヤンキー2人がウチの中学で見たことあるオタクをカツアゲしていた。
ニヤニヤしながら記憶をなぞる。
私は確かに気分が高揚していたのだ。
大人のジジイに頼られた感に浮かれさっきのビールもいい感じだったと思う。
ただタネ明かしするとヤンキー2人は隣の中学のファッションヤンキーで後に友達になる奴等だしカツアゲされているオタクも後にパソコンパラダイス等の言わばエロ本を貸してくれる仲間となるのだが…
2人は完全にビビっていた。中坊のケンカなんぞそんなモノだ。
どちらもケンカする意味を持っていない。
だから日本全国の中学生ヤンキーは
「ワレ!何処中じゃコラっ!」という所属で凄むのだ。だって自分は凄くないから。
ビビった2人は
「…ちょっと金借りとるだけやんけ…」と呟いた。
ちなみに私は180cmで髪型がチャーリーセクストンなので2mに近く見える。

そんなヤツがアルミサッシの欄間に手を掛けニコニコ凄む。
まるでいつも修羅の国でにケンカしているかの様に振る舞うのだ、相手にしては何故笑っているのかわからない。
冷静になれば2対1なのでヒドく有利なのに突然の椅子キックとわからない行動は出鼻を挫くにはもってこいだ。
わからないものは怖いのだ。
「…金返していんだらんかいボケッ!」
ここで怒りを表に出す!
すると状況が悪くなったと感じ逃げる、
ポイントはどちらか1人に強い圧をかける事だ。
かけられない方には逃げる隙を与えるのだ、これで引っ掛からないなら片方に
「オマエは帰ってもええで」とにこやかに話す。
だいたい逃げる。そしてもう1人もそれを追うだろう。
更には友情を感じて逃げなければオタクに
「オマエさ〜どっちしばいて欲しい?」振ると1人は助かると心理的にも逃げる状況を作る。
ここまでくれば負けることはない。
ジャンプの裏表紙の変なナイフとかで逆ギレしたりしてこなければ勝利確定だ。
もし出してきても当人は絶対刺したくないので
「なかなか根性あるやんけ!」とかいい加減な事言って大団円だ。
私は決してケンカは弱くないが強い訳ではない。
何か強そうてか何か見た目がヤバそうなので相手は勝手に負けてくれていたとか多いのだ。
ハッタリで退く輩の理由と同じくどちらも中身が無い。
嘘が嫌いで大人が嫌いなのに自分がその真っ只中で嘘を吐いている。そんな真剣に私と向き合ってくれるヤツはいないと決めつけていた。
それと同時に当時の私は俺の為に俺の様な強そうなヤツに向かっていくヒーローはいないんだと訳のわからない納得で勝手に世界を見限っていたのだ。
結局逃げた2人は当時の私の混沌とした心の一部を垣間見たのだろう…
助けたオタク(ヒサシ)まで硬直していてその感じになんかムカついた俺は
「ありがとうございます!ちゃうんかいっ?」との大声。すると
ゲーセンの隣の金物屋のオッサンが
「なぁ〜にぃちゃん自分ん〜カツアゲとかアカンで?なっ?」
「いやっ?俺助けたんやんけ!オマエも何か言えや!」ヒサシは走って近所の酒屋に入り俺にビールを持ってきた。
プシュ!
俯瞰の私はその光景を観て思わず声が出た。
「…まだプルトップちゃうんや」
ヒサシは何故か俺の横に座りジュースを飲み始めゲームを続けた。
俺は何かムカついたのでヒサシのプルタブを手に取り曲がった部分を
バネにして顔面にヒットさせた。
商店街の脇道にはまだ木の電柱があり
〝犬に小便させるな〟と書いてあったが
そら無理やでと懐かしく笑った。
その横の空き地もその後に賭博ゲーム機で検挙される喫茶店も今まで思い出すことはなかった。
当時の俺は退屈極まりない景色でもオッサンの私には夢の様な現実だった。現実の様な夢かも知れん。
当時の俺が通った所しか見れないのは私の記憶の中のものだからというのはよくわかるのだが、すっかり抜け落ちていて朧に霧がかっているようになっていた。
どうもさっきの奴等が待ち伏せしてたらアカンとヒサシは思ったらしく
〝家に新しいゲームがある〟と俺を誘ったのをやっとぼんやり思い出した。
それはクソゲーだったのだがヒサシは思惑通りとほくそ笑んだのが上から視えた。
(あのヤロー!)と思ったが気づかない俺のアホさのがムカついた。だが、笑ってしまった。
結構、楽しそうにやってたんちゃうの?
14歳なんかだいたいなんも考えてないって。
本当は不満なフリして他とは違う自分を演出してたのやろ?なっ!俺、オマエは私だからな、
卑怯な大人になってこれからも人の信用をどんどん裏切って酒で何度も失敗して嫁と子供に捨てられるんだぜ。
この後何してたか忘れたけど短い青春を視せてくれよ!俺!
楽しみにしてるんだ、大人になったら失敗ばかりだけど私がこの年まで生きてるから大丈夫やで!
まぁ俺は死にたいみたいだがな…
何だか心が泣いているのか笑っているのかわからなく何か、無期懲役前に一億円貰った様な気分ってこんなのやろか?とかぼんやり考えてた。
家に帰ると感動しか無かった!
誰も居なかったが死んだ猫(ゴロー)がいたのだ、俺の足にまとわりつき時折にゃにゃっと短く鳴くのは名前を呼ばれた返事だった。
家族の誰が呼んでもゴローは返事をした。
私は明晰夢かもしかしたら私が幻影かも知れないこの状態でゴローを視て涙腺が緩んだ。
年を取るといかん、はじめてのおつかいでも泣くようになってしまったからな。
気配を感じたのかゴローは私に視線を向け
〝にゃにゃ!〟と鳴いた。
私はゴローにしか聴こえないであろう言葉で
〝オッサンなったけどゴローの兄ちゃんやで〟と伝えるとゆっくり尻尾の先をフリフリしながら座った。
ガキの俺は普通に親父のタバコをパクリ火をつけ風呂に水を入れた。
お湯なんか出ないしシャワーなんて粋なものはない。
しかしその全てが懐かしい思い出のモノだった。
わけのわからん木彫りの象とかガラス張りのどこ見てるかわからんフランス人形、通行手形とか
当時はお土産やにはいらんもんしか売ってないとの認識だったがこんなに刺さるなんて!
今どういう状況がわからんが戻れたら神戸のお土産やに寄って帰ろう。
しかし当時は邪魔な代物、狭い家の貧乏人は物を捨てない。それなのに買うのだ。
なあんだ、貧乏人のウチの家族もしっかりバカだったんだ…
周りに習い思考停止で旅行の数を競う為に丸くペナントを壁に貼るのだ。
何をしに何を得たかと考えず
ナンボかけてどこそこへ行って高いホテルで何かを食べたってだけのバカの旅行を誇っていた。
働いて働いてそれが家族の為だと信じて。
だから私と姉は鍵っ子だった。
俺はゲーム仕放題だしタバコ吸い放題だし満足していたしうるさい親が家に居ない事で食費という現金が手に入ったのも大きい。
夏休みに入ったのを忘れていたのは両親ともに放任主義、悪く言えば放置子。
俺はファッションヤンキー+くらいだし特に夢もない。
寝て起きたら朝で母親が居て
「お風呂入りなさい、ご飯食べなさい」とか言ってくるのでその通りにした。
明日起きたらダイエースプレーでヘアセット完璧にかましてチャリでヒサシの家に行こうと何故か思った。
昭和を想う私は20年もった電化製品に目をやった。
エアコンはスゲー寒いしTVの画面はボケボケだ。まさか未来はTVの上に鏡餅置けなくなるなんて誰が想像しただろう?
朝ごはんは家族団欒だが朝シャンや化粧で忙しい姉は台所の湯沸かし器もトイレも独占だ。
ちょっと文句を言えば
「アンタみたいなヘタレがそんな格好できるのはアタシのおかげやん?トイレなんか学校にナンボでもあるわ!」
とこんな感じだ。
「オマエ姉ちゃん綺麗でいいな」とか言うバカは女の本性を知らないのだ。
この頃は本当に嫌いだったなぁ〜
私は令和のこんもり太った姉を思い出し笑った。
俺は玄関の玉すだれは何であるのか?
俺はそんな事を考えながらハイカットのスニーカーの紐を結び足を突っ込んだ。さぁ行くか!
私は当時の自分のファッションセンスを疑った。
POSHBOYのカットソーはオレンジ色だ。爽やかだ。
それはいい。しかし下は制服ボンタン。つまりカットソーはボンタンにオールインされ裾は15cmのファスナー付きなのでハイカットに飲み込まれてしまう。
何を足して何を引くのか?
私の心配をよそに俺はママチャリでヒサシの家に向かっていた。
そうだそうだ、携帯なんて無いから本人居ないとかザラだったよな。
小学校の時なんてそこのお母さんが
「もう帰って来るから部屋で待っててね」的な感じであがらせてくれた上に上等なお菓子とかくれたりしていた今では考えられない時代だった。
外面の為に自分の子供の人権とか無かった。
先ず学校が兵隊を作るところではなくなったのだが次は企業や社会、または政治に従順な文句の言わない企業戦士を作る機関になった。
戦争に負けた日本人が半ば乗っ取られようと経済で世界に戦争を仕掛けたと言えるだろう。
豊かになっていっているのを実感するかと言えばよく分からないが渦中に居れば気がつかないのだろう、金金金で夜逃げや一家心中なんて言葉も聞かれたし本当の弱者は声をあげることすら出来ないししないのだろう。
反抗しない軍隊を作るのと文句を言わず働き続けるサラリーマンは同義、
戦争で殺すのは悪で経済で殺すのは問題ないらしい。
大人が仕事しまくって昼間住宅地には子供と年寄りだけで家にいる状態、更には子供は遅くまで塾に通う子もおりその安全は脅かされる。
懐かしさにほだされて嬉しくなるが
こうやって帰って来たから異常な時代と認識できたのかも知れない。
当時の俺のイライラはピークだったと思い出した。
矛盾だらけの世の中で本当の事を探してガンダーラに行きたかったくらいだ。
そうだ!思い出したぞ!この後俺は何もやること無くてヒサシとチャリでウロウロしていたけど何だかママチャリで何処まで行けるか西へ向かったはずだ!午後3時の暑い日だった…
道も分からず適当に兵庫の看板めがけてチャリを漕ぎ続けたんだ。
それで西宮辺りでヒサシが
「腹減った上に明日塾だから帰らないと…」と泣き言を言い出す始末、日曜日に塾あんのかいな?
何か合宿らしい。
ママチャリのショックは硬くそして俺のケツを更に硬くしていたが俺は六甲山を目指すと言った手前
「ふ〜ん?じゃお前は帰れよ」と突き放した。
俺のチャリもパンクでもすればそれを理由に帰れるのに日本のママチャリメーカーは優秀だ。
「俺は俺のスタンドバイミーを貫くのだ!」
そうして俺は立ち漕ぎで六甲山を目指しパンパンの太股を回転させた…覚えがある…。。。
バカだ…俺は一体何をしているのか?
有り余るパワーを何かに使うならもっと有意義な事があるだろう?
自分に問いかけた。迷いながら40何キロもう何も食べずに5時間は経っている。
喉乾いたし(金は少し)
タバコ吸いたいし(タバコはある)
贅沢言えばマクドのハンバーガー食べたいもうポテトだけでもいい!
両足に乳酸が溜まってダルくなってきた、でも何か見えるあの海岸の白い建物!
あれがゴールに相応しいと見た!

「エイドリア~ン!!」
私はこのくだらない顛末を何故か思い出せなかった。
でも若い力を発揮して全力で悩む俺を応援せずにはおれなかった、
「いいぞっ!俺っ!乳酸は筋肉に悪いものでは無いんだ!乳酸のせいで筋肉痛になるんちゃうんや!俺の時代の考え方古いねん!!!」
ガッシャーン!
「…はあっ!はぁ…!もう動けんっ命賭けるわ」
「もしかして六甲山越えてガンダーラについた?」俺は独り言ちた。
俺の眼前には美しい星々が輝いていてちょうど山の方から海へ帰る様に深い藍色から海の漆黒へと繋がる波、無数の穴があいたカーテンがその輝きを引き連れて波打っていた。
星が動くわけない。動悸は激しく生きている証をフル回転させ、エンジンの様に唸った。
俺は(私は)泣いていたらしい。
涙のレンズがぐにゃぐにゃと俺の眼球を流れたのだ。
くだらないが決めた事をやりきったのは初めてだったんだ。
嬉しさと同時に胃が裏返しになりそうになって、ぐうぅぅ〜との音と「…腹減ったぁ…」死にそうな情けない声を絞り出してしまった。
その時声がした。
「これ!そこの少年よ!泣くほど腹が減ってるのか?」

何だよコイツ…心の声は漏れてないはず。
「…いつまでみてんだ〜よっ変態!」バシッ!
何かビニールに包まれたデカい何かが顔に当たったのだが暗くてわからなかった。
星降る白いコンクリートの上で俺は優しいヤンキーの妖精と出逢った。
その変な女は「それでも食っとけよ」言ったのでよく見てみたら…

何の手も加えていない小麦の味が自慢でーす❤️
これはアカン!喉詰まって死ぬ!腹減り過ぎて食いたい感情と食えるキャパが逆転反比例するイコール死亡だ。コレじゃない!ありがとうやけどコレジャナイ!後、見えてないんじゃ!(泣いてたからなw)
「アリガトウガザイマス(味無いやんけ!)せっかくの心づくしに感謝致しますが三蔵法師様、俺〝小麦アレルギー〟なんでその貴女様が今後ろに隠した丸いドーナツと交換頂けませんでしょうか?」立ち上がり両腕を広げながらジリジリと近づきカバティ状態で交渉に入った。
三蔵法師様は野良猫の様に
「ドーナツも小麦やんっ!」と跳ねた。
フラッシュバックの様に煌めきが瞼を失ったかの様に辺りを照らす、夜の闇は変わらず静寂で波音がさざなみ…おそらく俯瞰の私だけに視える閃光だろう。
強く強く【思い出せ!】と何かが叫んでいると感じた。
俯瞰の私の目には
暗闇の中の星明かりで時折魅せる彼女の姿は
海と湖と夜の星が混ざり合う深い水面を弾き
舞い踊る妖精の様に映った。
(何故忘れていたのだろう…)
鮮烈な思い出なのに思い出させることはなかった…ただ1度きりの夏の夜。
私は(俺は)ほんの数時間で恋に落ちそして初恋は終わりを迎えたはずだ。
記憶の隠す霧を振り払いながら私は刮目した。
〝こんな昔の幻影をなにが見せているのか?〟
「これはアタシが姉さんに貰ったんだよ!」
変な格好の変な女は後ろ手でブツを隠し徹底抗戦の構えを崩さない意識を感じる。
「それにこれはドーナツじゃないっ!ユーハイムのバームクーヘンだ!バカ!オマエにはアタシの晩飯めぐんでやったやろ!腹減ったくらいで泣いとんちゃうわ〜!サブッ!赤ちゃんか?」
くるくると必死に躱す彼女(ユー)を懐かしく視ていた。
何度も何度も心で反芻したこの出逢いを何故忘れていたのか?
「お〜お〜!赤ちゃんにロシアパンはデカ過ぎませんかぁ〜?それにユーハイムって言い回しはドイツか?バルバロッサか?スターリングラードやんけ!侵略者になりたくなければユー何とかと交換しろ!」
突然止まった変な女は俺に言った。
「…アタシ学校行ってないからあんまむつかしいこと言うなよな…」
妖精のステップが不意に静まった…
水鳥が羽根を静かにたたむように。
私はいつもそうだった。
人との距離がわからない。
(本当は友達と思ってないんだろ?)
(みんな俺の事なんかどうでもいいんだ)
そんな想いがぐるぐる巡ってシャッターを閉めるんだ、そうすれば俺はもう誰も怖くない。
道化の仮面で適当にフザケてれば向こうも合してくれる。
そして記憶にも残らないようにやり過ごせるはずだった。
〝みんなそうなんだろ?〟
俺はバカみたいに弱い自分を晒したくないんだ。
おちゃらけてスゴんで他人からイニアシチブを取って支配したいんだ。
そして道化や恐怖の仮面で守ってるくだらない自分の本性を重い墓石でフタをするまでニセモノの人生をフラフラ生きるのが似合いなのだから。
ほらっ?その証拠に【この夏の日】が人生のピークで大人になった私は人生の落伍者だ。
でもなぜか変な女の視線に耐えられなかった俺は
「…あっ?…なんか…その…スマン…」とその場に腰を下ろした。
いつもは謝れない俺が小さく謝罪していた。
ゆっくり波がさざめき遠くで汽笛の音がした。
「あっ!ちょっと待ってなぁ!」変女は何処かへ走って行くとすぐに戻ってきた。両手に缶コーヒーを持って。
笑顔で「はいっ!」と缶コーヒーを差し出す姿になんだか照れてしまって
咄嗟に「…あっありがとう…」なんて言ってしまい「お〜いお茶じゃなくて良かったわ」との悪態をついてしまった。
すると面食らった顔の変女が言った。
「ハハッ!いくらアタシでもパンにはコーヒーでしょ?鉄骨飲料ならアリだけど量が少ないからなぁ…」と残念そうにうそぶいた。
22時くらいの海岸線には大型のトラックやタンクローリーが多く行き交っていて左を見れば静かな海が波をたゆたわせていた。
俺は完全に西向きに座り背中を白いコンクリートに預けていた。
その間の視界にはパン(味が無い)とコーヒーをめぐんでくれた変女がいる。ありがたや〜!しかもかなり可愛い…あの〜あれだ!ギャルって奴やな、ピアスとか死ぬほど空いてるし髪の毛は何色かわからんくらいにレインボーだ。
でも爪は普通?だし化粧も大人しい感じで…でも
チョーカーのCECILMcBeeは読めた。
ウチの姉ちゃんもギャルなんで。
落ち着いたら急に恥ずかしくなってきた。
こっちは生まれてこの方〝彼女〟なんて上等なモンは1秒も居たためしはね〜んだよ!
「ねぇ!アンタこの辺の中坊ちゃう
よね?」
カチッ
俺はセブンスターに火をつけながら
「…何で?カッケーからか?」と動揺を隠しややキメ顔でドヤると
「ううん、ダッセーから」とソッコーで返してきたのだコノヤロー(怒)
「チッ!大阪では流行ってんだよ!」と言ってすぐ消して2本目に火をつけた。
海から温い風が頬を撫ぜ山へゆく。
なんにもないのが心地よい。
しばしの沈黙は
「…ねぇ、アンタ名前は?」と空気の読めない質問で終わった。
「…んっ?俺か?俺はチャーリーだ」良い気分を強制終了されてややイラッとした俺は偽名で答えた。もちろん敬愛するロックスターであるチャーリーセクストンからとったのだが、同時に
(チャーリー浜かよっ?)とのツッコミをも導けるように完成されたコミュニケーションツールでもあった。さぁ!はやくツッコめや!関西人の宿命やぞ?
いまか今かと待っていると「ふ〜ん呼びにくい」とファジーな感想を告げられた。
いや、全世界のチャーリーにあやまれや!
そんな俺の内心も知らずに
「ア〜シはな〜…」と自己紹介しようとしてくるのだ、そうはさせんて。
「ちょっと待った〜!!」
「…なんやねんチャーリー」もう使いこなしてる。
「いやアンタの呼び方は俺が決める!」
「えっ?何で?」
「俺が呼ぶからだ!」俺は右手の親指で自分を指しそのまま少し目をつぶり思案した。
ポク…ポク…ポク…チ〜ン!
「…ユー、ユーハイムのユーだ」
ダメ出しされると思っていたのに彼女は伸びしろがありそうな唇を横に引き
「あはっ!イイね〜」と笑った。空かさず
「せやろっ!(ユー)?」と煙を吐きながら指さすと
「ナイス!チャーリー!」とユーは笑った。
他人の笑顔がこんなにも嬉しいなんてその時はなんにもわからなかったけれども。
「…おいユーよ?」
ユーは潮風がはらめきさせる髪に指を通しながら俺を見た。
〝完全に信用してないが暇〟とその野良猫の目は語っていたのを感じた。
尻尾があればパタパタしたに違いない。
「ロシアパン晩飯ってアリか?」
「ほんで何で学校行かんねん?」
自分に問いかける様にユーに尋ねた。
瞬きをして俺に向き直る姿に一瞬の迷いがあったのを感じてポケットの小銭をじゃらつかせながら
「…別に言わんでも…」
ユーは俺の前に右掌を上に広げ人差し指をちょいちょいと伏せ目で促す仕草をした。
話すからタバコくれって事だろう。
セッタ(セブンスターの関西呼び)のケツをデコピンしてフィルターを飛び出さしユーに差し出しとユーはタバコを人差し指に挟んだ手で長い髪を耳に掛け
「火ぃ」とひとこと言った。そして
「昨日な、14なった」と少し笑った。
ジッポーから勢いよく炎が揺れ上がるがユーは動かない。
「…へぇ〜タメやん?ほんでユーよ、タバコ咥えて吸わないと火ぃ着かんで?」俺も歯を見せた。
「…?!わっ、わかってるって!」慌てて火をつけむせるまでセットだった。
「無理すんなよ、元々ちょっとキツメやから」
炎を風から遮る二人の両手は大きな植物の蕾の様にいつか咲く紅い花びらを内包していた。
俺は深い煙を吐き出し夜の街のネオンに目をやった。
ユーは俺と同じ方向を見ながら
「…さっきバウムクーヘン姉さんに貰ったって言ったやろ?」と三角座りからの膝あごで語りだした。
「ああそやったっけ?姉妹なん?」
「アタシ働いてんねん、21時までだけどスナックで。だからそこの先輩」
「ふ〜ん親はなんも言わんの?」
「…あんな奴オカンじゃ無いし何処にいるのか、めったに帰ってきーひんよ…デカいパンはホンマにアタシに用意された晩飯…」と言うと
「チャーリーもそうなんやろ?そんなナリで大阪からチャリとか放ったらかしやん!アタシと同じなんよね?ねっ?」と半ば強い調子で続けたので俺は押されて
「…おっ、おうっまあな、ケンカばかりで愛想尽かされたってなもんよ!」と咄嗟に嘘をついてしまって視線を外してしまった。なのにユーはなんだか嬉しそうに
「…アタシ…独りじゃないんや。」と寂しく笑った。
何となく歩き出した俺たちは
何となく2人でポートアイランドを過ぎると道の段差でユーがつまずいた。
軽く支えてバランスを取ってやると車道側の俺の左手がユーの右手と触れ合い
「あっ!」
繋がれた2人の手は
しばらく離れることはなかった。
恋愛感情だけじゃなくって、この手を離してしまうともうユーには二度と逢えなくなるような気がして強く、でも痛くないように優しく包んだ。
(笑ってるけどずっと泣いとったんやろ?)
年の離れた妹の様なユーを導きたかった。
いろんな想いがぐるぐる頭を回っていた。
何にもなれないであろうボンクラの俺が神戸に来たのは可哀想なユーを助ける為に違いないとその時は感じたんだ。
自分の出来ない理由をこの可哀想なユーに被せて死に逃げするのが正しいと。
この社会で何の力も無いしポケットに小銭しか無い俺が空を仰ぎ神様に祈ったんだ。
〝ユーを幸せにして下さい、俺は死んでもいい〟
って本当に願った。
本当に俺の人生に幸せが残っているなら、希望がユーを笑顔にさせるなら銀河鉄道の蠍の様に赤く燃えてしまえばいいと。
天気予報は観てないから知らんが湿度の高い今にも雨が降りそうな夜だったので南の空に蠍座の赤いアンタレスは見えなかった。
その時はそれが本当の気持ちだったし、永遠にこの何も無い時間が続くと無意識に感じていたのは俺だけじゃなかったと信じたい。
何の食べ物が好き?だとか将来なにをしたい的な他愛もない事をダラダラ話した。
お互い笑い合ったり罵りあったり、繋いだ心が少し恥ずかしくて幹線道路のトラックに負けない大きな声で笑いあった。
月はぼうっとかさをかぶり夏なのに氷のように白ずんでいてJRの架線の間から冷たく観えた。
「アタシこの先の新開地って所で働いてるねん!住んでる所も!ホントにボロボロできっとチャーリー笑うって!」
私はもう完全に〝俺〟と同化しているのかこの後の事を思い出せなくなっていた。
なので考えていた。
大人になった俺がユーと一緒じゃないのだから神様への願いは聞き入れられていて、
私がさらに不幸になるやも知れないユーを助けていて、それを忘れている。
このケース。
または、
私の生きた人生のユーは不幸で私は助けられなかったのを忘れていて、命を賭けてやり直せるチャンスとかかも知れない。
この後なにがあったのか思い出せない今、ユーに危険が迫る可能性がある。
俺は頭のどこかでそんな事を考えていた。
「…ねぇ、チャーリーはこれから何処に行くん?ホンマにガンダーラ行くとちゃうやろ?」
歩みが止まり取り残されるユーを繋ぐ俺の左手が後ろに引かれ振り向いた。
見つめ合いお互いに何かを言いあぐねていた。
パンパンに張られた2人の両手に鼻腔に抜ける湿度がポツポツ雨を呼んだのか暖かく降り出した。
俺は強い瞳でユーを見た。
「…なぁ?此処に居場所はあるんか?」
ユーは〝えっ?〟って感じで俺を見た。
「本当に〝此処〟に居たいって心から思ってるんか?ってきいてるねん!」
俺は左手を引き寄せるとユーの背中が俺の両手に収まった。
ユーの匂いで気分が高揚してしまった俺は
その小さい肩を抱き締めて言った。
「二人で逃げよう…」
降り出した雨の中、雨宿りできそうなところを探した。
何故かふたりとも無言で。
見つけた公園の遊具はタコの形をしており中が空洞で入れる様になっていた。
疲れた俺はユーを庇いながら地面に座った。
幸い水没には免れていた。
結ばれていた手に少し力を加えるとユーは俺に向き直り目を閉じた。
二人は初めてのキスを交わした。
気がつくと恥ずかしさからか俺は饒舌に喋っておりやれ 学がなくても生きていけるやり方を何も知らないユーに語っていた。
内心安心を与えたい為だったのかはわからないがユーはニッコリと頷くだけだった。
そして俺達はいつか眠ってしまった。
幸せの中、おぼろげでも自分たちで希望を見いだせたのだと信じて…。
朝方瞼の裏に透ける紅い光で目が覚めた。
俺達を囲むのは警察の面々だ。若い警官が俺に話しかける、
「…自分…捜索願い出てるで親御さんから、心配かけたらアカンやん?こっちの娘ぉ〜は誰やのん?…はぁ〜君か?…君はもう帰り!」
そう言うとユーを野放しにして俺をパトカーに乗せようとした。
「ちょ!何すんねんっ?離せや!」俺は抵抗したが大人の警官2人にかなうはずもなく後部座席が空いた。その時ユーがつぶやいたんだ。
「…ウソだったんだアタシと同じって…」
雨はもう止んでいた。二人の夏は終わった。
「家出少年を探す時に雨が降ると行く所決まってくるから探しやすいんや」若い警官はそう言って笑い
「誰だってそんな時あるって!」と俺を励ます様な素振りで明るく話しだした。
窓の外はもう経済的な生活が始まっており、ガソリンを燃やし大型トラックがスピードを上げていた。
俺が落ち込んでいるのはそんな事じゃないのにコイツには伝わらないのを知っていた、なのできいてみたのだ。
「今のトラック明らかに法定速度超えての走行ですが捕まえないんですね?」
すると若い警官は何言ってんだ?的な表情で
「ああ、交通課の仕事だしな」と普通に答えた。
「交通的には現行犯ですよね?」と睨むと少し考えて
「…違反キップ(赤キップ)持ってないし施行する資格もないんよ、それに俺らは自分の仕事で手一杯だしな」
「どうしてユーを助けてくれないんですか?この現代で学校に行けない子供がいても何とも思わないんですか?」俺は強眼差しで答えを待った。
運転していた年老いた警官がそれに答えた。
「…見た所君もせっせと学校で勉学にに勤しむ様には見えんが…間違ってたらスマンな。」とバックミラーから語りかけてきた。
「君は恐らくあの娘の事情を聞いて助けてやろうとしたのだな?」
俺は奥歯を噛み拳を握りしめて頷いた。
その姿を視て年老いた警官は
「ヒーロー気取りは気分良かったかね?可哀想なお人形さんに懐かれる事で何か救われた気がしなかったかな?自己顕示欲?自分が間違っていないという感覚を得るための犠牲になった彼女をどうしたいのだ?逆に聞きたいよ」とハンドルをゆっくり切った。
突然湧き上がる怒りは年老いた警官に向けられるものでは無かった。
唐突に全てがわかってしまったのだ。
弱い弱い自分の心が。
さらにユーに絶望を与えたのは他でもない俺だった。
「…まあこれは言っちゃいけない事なんだが私の独り言を黙って聞いてしまったならしょうがない。」そう言って年老いた警官は口に人差し指を立てた。
「…あの娘はハーフで親権が不在のまま新開地にいるいわゆる放置子だ。母親は居るに居るが薬物の常習者の上養育を拒否している。市民権がない以上日本の救済措置や施設などは暫定的にしか使用出来ずまた本人の意思にも寄り添えていない」
「産んだ事実での権利は警察が行使するものよりも強く、日本人を守る法律が彼女に寄り添う邪魔をしているとも言えるのが現実の話だ。悪いことは言わん、もう関わるのは止めなさい。」と静かにバックミラーを伏せた。
耳が痛い…卑怯者は俺だった。知らずとはいえユーの純粋さを己の為に汚し こうして保護され暖かい家族の居る家に帰るのだ。
何がユーの為に死ねるだ!
都合よくこねくり回した詭弁!いや妄想だ!
あのパトカーの中で私の少年時代は終わった。
この話が本当の事かどこか改変されたかわからないが何故思い出したのか?
宝石に映された数々の少年の日々はサラサラと崩れ煌めきながら消えて行き代わりにガヤガヤという私を囲む大勢の声で気がついた。
(誰が水買って来て!いやポカリ的なやつ!)
(これ熱中症やで、意識ある?)
(アカン!自販機売り切れやわ)
途切れ途切れに声が頭に飛び込んでくる。
俺は本当にダメなやつだ…また他人に迷惑をかけたらしいが身体に力が入らない。
(救急車もちょっと時間かかるってよ)
…声を出さなければ、突然眩しい日差しを遮る麦わらの感覚が顔に、同時に柔らかさを後頭部に感じた。
熱中症なのに涙は出るらしい。
「…またお腹空いて泣いているのかしら?」
ユーが言った。
(喫茶優羽のママが水持って来てくれたわ)
「…ユー、俺謝りたくて…」
「チャーリー、私の名前〝優羽〟って言うんだ、偶然でしょ?喫茶店の名前でもあるの」
人生捨てたものではないらしい。
「偶然やな、俺も本名チャーリーちゃうねん」とあの時の様に笑い合った。
もう雨は降る素振りを見せず寂れてしまった
ポートアイランドがはっきりと誇らしく建っていた。
