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夏の朝の追憶

光が変わった。
いや、世界を覆っていた朝の青い霧が、
静かにその実体を失っただけなのかもしれない。
見渡す限りの夏の草原を、風がかすかに揺らしている。
僕は一人で歩いている。
ポケットに両手をつっこみ、
霧に濡れた草の匂いを深く吸い込みながら。
そのとき、僕の耳の奥で、低い弦の音が響きはじめる。
ブラームスの、あのピアノ協奏曲第二番、第三楽章のチェロだ。
それは、逃れようのない追憶そのものだった。
重く、深く、容赦なく、
草原の緑を、僕の知らない孤独の色に染めていく。
あの部屋に、置いてくるべきではなかったのだ。
言葉を。あるいは、もっと別の何かを。
ピアノはまだ入ってこない。
今はただ、その一本の太い弦の震えだけが、
僕の胸の、一番柔らかい痼りに触れている。
いや、僕が捨ててきたはずのあの声が、
このまばゆい光の粒の中に、そっと混じり合ってきただけなのか。
僕はまた、歩きはじめる。
チェロの音が、僕の影を少しだけ引きずりながら、
夏の朝の、どこまでも平坦な地平線へと消えていく。
いすみん




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