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fresnel
銀河のアダージョ
遠い昔、大学時代の、あの夏。
僕はリュックひとつで北の大地を目指した。
名前の消えたユースホステルの裏手、夜露に濡れる草むらに、ただシートを敷いて横たわっていた。
まぶたを開いた瞬間、
世界から「日常の時間」が消え去った。
降るような星々が、僕の視界のすべてを埋め尽くし、
何億光年の彼方から、一斉に押し寄せてくる。
そのとき、僕の頭の中で静かに、
ブルックナーの第七番、第二楽章が鳴り始めた。
遅く、どこまでもゆったりと流れるアダージョ。
その厳かな旋律は、
時計の針を止め、僕を宇宙の呼吸へと引き込んでいく。
重厚なチューバが、若き日の孤独と溶け合い、
切ない弦楽器のうねりが、銀河のうねりと重なる。
静寂の中、音楽のタクトに合わせるように、
光の尾を引いて、流れ星がいくつも夜空を駆けていった。
一瞬で消えゆく光と、何億年も変わらない星のまたたき。
そのすべてが溶けて、
僕はただ、永遠という名の巨大な川に浮かんでいた。
音楽と星空が、僕の時間を止めてくれた奇跡の夜。
はるかな季節が巡り、どれほど時が流れても、
あの厳かな旋律を聴くたびに、
あの圧倒的な夜空と、若き日の震えが、胸の奥ににわかに満ちてくる。
今はもう、あの草むらには横たわってはいないけれど、
流れる星を追いかけたあの美しい夏の闇は、
今も僕の心の奥で、静かにきらめき続けている。
いすみん
