税理士事務所のお仕事#2 入所1週間で心が折れそうになった理由
※本記事は、実際に筆者が体験した出来事をもとにした
エピソードエッセイです。
登場人物の名前は仮名であり、特定の個人や団体を非難する目的は
一切ありません。
税理士事務所の規模は、一般企業と同じでピンからキリまで。
Big4と呼ばれる超大手税理士法人から、税理士ひとりの個人事務所まで千差万別です。
私が入所した事務所は、当時15人ほどの小規模な税理士法人でした。
15年前の2月。
ハワイ旅行から帰国した私は、正直まだ働きたくないなぁ・・・と思いつつ
新しい職場へ向かいました。
場所は、東京のはずれにある税理士事務所。
出社初日。
席に座っていると、どこからか微かにラジオの音が・・・
「♪お〜さ〜わ〜ゆ〜りの、ゆう〜ゆう〜ワイド♪」
AMラジオが流れている職場は初めて。
「おぉ・・・なんていうか、自由?・・・なのか?」と戸惑っていると
「ラジオ消して!!」
と突然怒鳴る声。
前職でもお世話になった、上司となる小石川さんが、大きな金庫の横に座る
年配女性職員の椎名さんに向かって怒っていました。
入所して1週間ほどで、わかったことがあります。
① 椎名さんは毎朝出社すると、必ずAMラジオをつける
② 他の職員は誰も聞きたくない(むしろ静かにしてほしい)
③ なので小石川さんが我慢できなくなると「ラジオを消せ!」と言う
④ とりあえずその場では消す椎名さん
⑤ でもしばらくすると、なぜかまたラジオをつける
・・・この応酬が一日に何度も繰り返され
小石川さんと私が別フロアへ移るまで、数年間続いていました。
この一連の流れで
「なんかおかしな場所に来てしまったかも・・・。」という
不安が芽生えました。
さらに、小石川さん自身もクセが強いことが判明。
何から手をつけていいか分からず戸惑っている私に
小石川さんが初めて仕事を依頼してきました。
内容は「給与計算」。
・・・が、私、前職も前々職も給与計算は総務の仕事で、経験ゼロ。
「やったことがないのですが、どうやって計算すれば良いですか?」
と聞くと、
「俺、税理士だから。給与や労務はあなたの仕事。自分で調べてやって。」
・・・と、バッサリ。
あれ?
私、誰にも教えてもらえない・・・?
チラッと周囲を見るも、誰ひとり目を合わせてくれず。
泣きそうになりながら、帰りにターミナル駅の大型書店へ直行。
給与計算や労務関係の本を買って、ひたすら読み漁りました。
おかげでなかり鍛えられましたが、今なら完全アウトな対応ですよね・・・(汗)
この出来事で
「この仕事、私には続けられないかも・・・。」という
気持ちが芽生えました。
入所して間もない頃。
女性職員の大泉さんとエレベーターで一緒になったときのこと。
「私はいつも江古田さんと2人でお昼に行くので、あなたとは行きません。
江古田さんもあなたとお昼は行きません。」
と、突然の宣言。
・・・ん? え、なにこれ?
頭の中は「???」でいっぱいに。
つまり、「私たちの中に入ってくるな」という意味だったようです。
若い女性職員は当時3人しかいなかったので
後輩が入ってくるまでの約10年間、私は毎日ひとりランチ。
まあ、気楽でしたけどね。
でも、こんな風に正面から言われたのは人生初。
当時はさすがに、ちょっと凹みました。
この出来事で
「たぶん来月はこの事務所にいないかも・・・。」という
気持ちが芽生えました。
そして、手芸(特に編み物)が得意な春日さん。ちなみに男性です。
ある日、席の近くを通った私に、ガラケーで撮った作品の写真を見せてきました。
画像は粗くてよく見えないのに、外面のいい私はつい
「わぁ!ステキですね!売れますよ、これ!すごい!!」
と、過剰に褒めてしまいました。
それが効いてしまったようで・・・
新作ができるたびに「お礼とかいらないからね!」と手編みの手袋をくれるように。
正直「えっ、手編み・・・重いよ・・・いらない・・・。」と
思いつつ断れず。
「いいんですか〜!ありがとうございます!」と受け取ってしまい
完全に「もらってくれる人」認定されました。
無料は申し訳ないので、毎回「材料と手間代です。」と
商品券を渡していました。
最初は気持ちが入っていそうで少し怖かったけど、手編みは暖かいので
姉や友達にあげても喜ばれ、私自身、今でも大切に使わせていただいています。
当時、なぜこんなにクセの強い人が集まっているのか不思議に思っていました。
すると、3年後に入所してきた新人の男の子が言いました。
「会計事務所とか税理士事務所なんて、普通の会社で働けない人ばっかりですよ。」
「えっ、さすがにそれは言いすぎじゃ・・・」と思いつつ聞いてみました。
「他の事務所もこんな感じなの?」
「います、います。特に一般企業の経験がない人は、クセ強い人多いですよ~!!」
・・・そうか・・・そうだったのか。
私が企業経理から転職してきたから、ギャップを感じたのかもしれません。
もしかすると、新卒で税理士事務所に入っていたら、違和感はなかったのかも・・・
(いや、やっぱりあったと思うけど)
でもこの時点では
まさかその後15年もお世話になることになるとは、思ってもいませんでした。
「常識」や「当たり前」は、職場によって大きく異なるものです。
ときに戸惑い、ときに心が折れそうになる環境でも
自ら動き、学び、対応していく力があれば、必ず自分の財産になります。
そして、人間関係の摩擦や違和感すら
あとから振り返ると“自分の幅”を広げてくれる経験だったりするのかもしれません。
クセが強い世界で生き抜いた15年は、案外、私の誇りだったりするのです。
