大規模農家は小規模農家(小地主)の草刈りボランティアに大きく依存している

小規模農家には退場してもらって、大規模農家に全部任せてしまえば万事解決、と思っている都市住民は多いと思う。しかし実は、大規模農家は、元小規模農家のボランティアに深く依存しているケースが非常に多く、その人たちが本格的にいなくなると立ち行かなくなることをご存じだろうか。

今の大規模農家は、その多くが実は「小作人」。元小規模農家の農地を借りて耕しているケースが非常に多い。戦前は地主が大きな土地を所有し、小作人はわずかばかりの面積を耕す小作人(大地主と小作人)だったけど、今は小作人が大面積で地主が小面積。「大作人」と「小地主」と呼ぶのが適当かも。

で、小地主は長らく自分の農地を耕してきた愛着もあるし、自分の農地だという思いもあるから、自分の田んぼが雑草まみれで荒れるのを見るのは忍びない。で、「大作人」に農地を貸す際、「畔や水路の草刈りは今後もお願いします」と言われたら、了承してしまう。だから今も小地主は草刈りしてる。

このおかげで、大作人は田んぼの中の耕作に集中でき、畔や水路の草刈りに人手を割かずに済む。大作人は、実は、小地主のボランティアによる労働力にかなり依存している面がある。これまではそれでウィンウィンだった。小地主は自分の農地が荒れるのを見ずに済むし、作られた米は賃料としてもらえるし。

ところが、小地主の高齢化が進み、畔や水路の草刈りに参加することもままならなくなってきた。そこで大作人に自分の農地を買い取ってくれないかという人も急増してきた様子。自分の土地でなくなりさえすれば、畔や水路の草刈りをする義務から解放される。でも、大作人にとってはたまったもんじゃない。

自分の耕してる農地の畔ならともかく、長大な水路の草刈りまで全部やらなきゃいけないなんてことになったら、耕作に集中できなくなる。少人数で大規模の面積を耕せるのは、草刈りを大勢の小地主ボランティアに手伝ってもらっていたから。その小地主が草刈り労働からごっそり抜けると一大事。

今、多くの農村がこの問題で苦しみ始めている様子。大作人としては今後も安い地代を払って草刈りを小地主にも手伝ってもらいたい。しかし小地主は高齢になり過ぎて、とても草刈りもできそうになく、農地を手放すことになっても草刈りをお願いしたい。こうした「草刈り押しつけ合い」が始まってる。

農村にかろうじて住んでる若い世代は、そもそも親の農業を手伝ったこともないサラリーマンが増えている。草刈りは小地主である親がやっていたけど、小地主の立場を引き継いで草刈りをやってくれと言われたら願い下げ。頼むから農地を譲って草刈りは勘弁、という人が増えている。

日本は高温多雨の国。草がものすごいスピードで成長し、ほっとくと森に変わる。農作業の半分は草刈りじゃないか?と思いたくなるくらい、草刈りが作業に占める割合は大きい。従来、水路の草刈りは、地域の人たちみんなで担ってきた。

私も農村に住んでいるので、水路の草刈りに一部参加させてもらっている。私は勉強になるので喜んで参加しているが、草刈りに参加しないと「出不足金」という罰金がとられる。住民みんなでやる仕事だ、という意識が高い証拠。でも、若い世代に今後交代していったとき。

「もう自分たちは農業してないし、ただ住んでるだけの住民だし、仕事は外に働きに出てるし、なんでいつまでも草刈りしなきゃいけないんだ?」と思っても不思議ではない。実際、若い世代はあまり草刈りに参加していない。あと5年もすれば、草刈りに必要な人手を確保するのは難しくなるだろう。

そうなれば、水路の草刈りは難しくなる。少人数で運営している大作人だけではとても水路の草刈りにまで手が回らない。水路がどんどんダメになっていく恐れがある。
このため、草刈りをしなくても済む地下水路にしては?という話が出ている。

今の水路は空に向かって開放されており、光がさんさんと降り注ぐから、水路脇の斜面にいくらでも草が生えて、それを草刈りしなきゃいけない。草刈りしないと、枯れた草が水路を埋め、やがて水路が機能しなくなる恐れがある。だから草刈りとドブさらいが欠かせないわけだけど。

地下水路にすれば、その上の地面に草が生えても水路に枯れた草が落ちる心配はない。地上からゴミが入ってこないから水路を埋めることもなく、ドブさらいも必要なくなる。というわけで、地下水路にしてほしいという要望が大規模農家(大作人)からも出ている。これなら万事解決、に思える。が。

2つ、大きな問題が。一つは、莫大な設置コストがかかること。地下水路にするには地面を大きく掘り上げねばならないし、高低差を緻密に計算し設置しなければならない。しかも、その上をトラクター等の重機が走っても大丈夫にし、地震でも配管がズレないようにする必要がある。かなりお高い工事になる。

しかも、日本の農業用水路は40万kmあると言われる。地球10周分。その一部だけ取捨選択して工事するにしても、莫大な費用がかかることがわかる。そのコストを賄いきれるのか。経済が弱体化しつつある日本にとっては、かなり大きな負担になる恐れもある。

第二の問題、それは地下水路になってしまうと、異常が起きても感知できないこと。このことは、埼玉県で大きな陥没事故が起きたことからも察せられるように、地下の配管で起きた異常は察知することが難しい。それでいて起きてしまうと修復不可能と思うぐらい大変な被害となる。

昔、こういう調査があったという。昔ながらの水路を利用している集落と、メンテナンスをしなくても済む最新の水路を導入した集落とで、その後どうなったか追跡調査をしたところ、旧来通りの水路は問題なく機能していたのに、新型水路は使い物にならなくなっていたという。

旧来型水路は、集落の人たちが定期的に草刈りをし、その場で異常を発見するから、きめ細かいメンテナンスができていて、10年前と変わらないように使用できていた。しかし新型水路は草刈りなどの世話もする必要がなく、誰もが水路のことを忘れて他の仕事をしていた。

そしたら知らぬ間に流木や巨大な岩などが水路に転がり込んでおり、それらが水路を詰めてしまい、修復困難になってしまったらしい。(この記事を90年代後半の日経新聞の記事で読み、スクラップしたはずだが見つからない。誰が覚えがあったら教えて!)

もしこの調査結果が、今回検討されているらしい地下水路への切り替えにも通じるとすると、10年後、知らぬ間に使い物にならなくなってしまった農業用水路が頻発する恐れがある。この場合、修復するよりイチから水路を作り直したほうが早い、というくらいの壊れっぷりになるかもしれない。

上が開放的な旧来の水路は、年に何回か草刈りせねばならないという面倒はあるが、水路を長持ちさせることができ、製造も安価、メンテナンスも結果的に安価に済む可能性がある。しかし地下水路は壊れたら最後、総とっかえになるとすれば、メンテナンスフリーのコスト節約分を吹き飛ばす経費がかかるかもしれない。

ならば旧来型の水路のままで、と言いたいところだけど、田舎に人がいなくなっている。草刈りをしてもらえる人材確保が難しくなっている。さりとて、新型の地下水路に変えたとて、上に述べたように10年ごとに新しく掘り直すのも大変なコストがかかる。この問題、結構深刻。

中山間地の水路がダメになれば、下流の平野部にも被害が及ぶ危険がある。上流の水路や河川が埋まってしまい、川筋が変わってしまったら、いくら平野部の都会で整備を続けていても、思わぬところに川の水が流れて大被害を及ぼす恐れがある。

ほんとうなら、中山間地にもっと人口が増えるような施策を考え、水路の監理ができる人員を確保したいところだけど、それができるかどうか。日本全体が少子化する中で、どこに人的資源を投入すればよいのか。難しい判断が迫られそう。

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