日本コメ生産 最悪のシナリオ

新米価格3000円/5kg割れになる恐れ。

「新米3000円割れが見えてきた 「もう倉庫に入らない」、生産も過剰」日本経済新聞、2026年6月25日
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB1967I0Z10C26A6000000/?n_cid=SNSTW006&n_tw=1782351079

結局、多くのコメ農家が恐れていた「最悪のシナリオ」通りにことが進みそう。
早くからコメ農家の皆さんは、次のようなシナリオ通りに事態が進んでしまうのではないか、と心配していた。

コメ価格高騰→コメを飼う人が減る「コメ離れ」→コメ余り→コメ価格暴落→令和8年度の新米価格暴落→経営破綻するコメ農家続出

もともと2024年春には、あまりに長く続くコメ価格低迷に多くの生産者が限界を迎え、大量に農業をやめようとしている人が出てきていた。たまたま、そこから少しコメ価格が持ち直し、生産者ももう少しだけ続けようか、という気持ちになっていたけれど、「これでコメ価格が低迷するようなら、やっぱりやめよう」と思っている人はかなり多いと聞く。

実際、愛知県の知人によると、コメ生産をやめるから「やらないか?」と声をかけられているらしい。コメ生産を続けてくれる人がいると嬉しいけれど、自分で続けるのはもう限界、という人が今年は非常にたくさん出てくる恐れがある。

実は以前から、「コメの消費が減る以上の速度でコメ生産量が減る恐れがある」と懸念されていた。

全国米穀販売事業共済協同組合「米穀流通2040ビジョン」によると、2040年のコメの消費量(需要量)は375万t(2020年比▲41%)にまで減る一方、コメの生産量はもっと減って、363万t(同▲50%)になると予想している。
https://www.zenbeihan.com/info/press/pdf/240612vision2040_02.pdf

原因は、「コメを作る人がいない」から。
よく知られているように、農家の高齢化ははなはだしく、65歳以上が71.7%を占めている。75歳以上が約4割、39%にものぼり、10年以内に農業が続けられなくなる恐れがある。
こうした高齢の生産者は、自らの年金をつぎ込んでコメ生産を続けてきてくれていた。いわば補助金を自分の懐から出していた状態で、消費者は、生産者の懐から出た年金の分、コメを安く買うことができていた状況だったと言える。皮肉な話ではあるが。

しかしいよいよ高齢化が進み、農業をやめざるを得ない人が大量に出ている。今年2026年、このままコメ余りが解消せず、新米が出てくるシーズンを迎えれば、コメの仕入れをする業者や農協も、高値でコメを仕入れることは難しいだろう。すでに倉庫は2025年以前のコメが売れ残っていっぱいで、新米を入れるスキがないのだから、倉庫に隙間を作ろうと思ったら、在庫で抱えているコメを捨て値で売らねばならないだろう。そうなればコメの価格は暴落し、新米価格も低迷することになる。

新米の価格が低迷すれば、高齢の生産者は「肥料や資材、燃料も値上がりしているし、年金で埋め合わせするのは限界」と腹をくくり、コメ作りをやめてしまう人が大量に出るだろう。儲からずにコメ作りをやめていく高齢者を見て、若い人も「コメに手を出すのは危険」と、コメ作りをためらう人が少なくないだろう。

実際、まだしも若めの担い手農家が、農業をやめていく人たちの田畑を受け入れることを拒否せざるを得ない状態になっている。

「担い手規模拡大に限界感 後継者いても農地返上 集積阻む気候変動、鳥獣害、資材高騰」日本農業新聞、2026年3月21日
https://www.agrinews.co.jp/society/index/369519

政府は農業の大規模化を推進してきたが、ここにきて、これ以上の大規模化は効率が上がらない、という現場の声が増えてきている様子。しかも、農業をやめる人が増え、農村から人がどんどん減る一方、イノシシ、シカ、サル、クマなどの獣害は増えるようになった。大面積を一人で管理しているのに、獣害を防いでくれる仲間はいない。このため、大規模化した農家でも獣害で困っているケースが出始めている。

また、農村に人がいたから水路周りの草刈りもできたし、水路の維持管理もできた。しかしたった一人の大規模農家では、草刈りもままならないし水路の維持管理も手が回らない。人数がいてこそ維持できていた農村の機能が、大規模化して人がいなくなったために維持できなくなりつつある。

コメを実際に栽培している面積(作付け面積)は136万ha。平野部の水田面積は、あいにく統計の数字がないのだけれど、日本の農耕地の4割が中山間地とされるから、全水田面積230万haに0.6をかけたら138万haで、中山間地でのコメ作りをすべてやめてしまったとしても、数字上では平野部の水田だけでコメ生産は賄える、ように思える。しかし。

中山間地は、獣害と水害の「防波堤」になってきた。中山間地に住む農家の人たちが獣害を防ぎ、水路の管理をして水害を防いできた。しかしここにきていよいよ、高齢の生産者がコメ生産をやめようとしている。そして中山間地で農業をやめるということは、コメがその場で作られないという意味だけではない。獣害、水害の防波堤が失われるということでもある。

すでに2025年は、獣害が東北を中心に相次いだ。特にクマに襲われて死亡する事件も相次ぎ、森林と接して農業をしている中山間地の生産者は、非常な恐怖を抱きながら農業をしている状況。

もしこの人たちが農業をやめてしまうと、獣害の前線は「森林と中山間地の境界線」から、「かつて中山間地だった場所と平野部の境界線」へと移動するだろう。

しかも平野部は、ごく少数の農家で大規模面積の田んぼを管理している大規模化が進んでいる。もし獣害が襲うようになれば、田畑が広すぎて守り切れない。しかもクマが襲ってくるかもしれないと思うと、おちおち農作業もできなくなってしまいかねない。これまで平野部は比較的獣害を警戒しなくて済んだが、今後はそうもいかなくなるだろう。

そうなると、コメ生産には十分と思われていた平野部の水田も、どれだけコメ生産を維持できるかわからない。獣害の影響は今後、予想を超えてくる可能性がある。

また、水害も侮れない。中山間地の人々が総出で水路の管理をし、草刈りもしてくれ、水路に流木が落ちていたら取り除くなどの管理もしてくれていた。けれど中山間地から人がいなくなれば、そうした管理もままならなくなる。

そうなれば、いつの間にか水路に土砂や流木がたまり、大雨をきっかけに土石流が発生し、平野部にまで被害を及ぼすという事例が出てきかねない。これまで平野部の農家は、上流の水路まで意識する必要はなかったけれど、今後はそうもいかなくなってくるだろう。でも、少数の農家だけでは田畑の面倒を見るだけで精一杯だから、上流の水路まで管理をするのは難しくなるだろう。

誰かが獣害対策をし、水路の管理もする必要がある。これまでは中山間地の人たちが事実上のボランティアでそれらを行ってきた。その人たちがいなくなった時、人手をどうやって手当てするのか?

もしその手当てができなかった場合、平野部の大規模農業も大きな打撃を受け、農業をやめる人たちも出てきかねない。それは獣害・水害をまともに受けてしまう地域の人たちから少しずつ「下流」へと広がっていく恐れがある。

2026年は、日本の農業が崩落していくかどうかの分岐点になるだろう。

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