日本の食料安全保障のために「業界団体の事務局は東京外に設置」せよ
日本の食料安全保障を劇的に改善するためには、奇論に聞こえるかもしれないが、「業界団体の事務局を東京以外に設置しなければならない」という指導を徹底することだと思う。なぜそんな発想になるのか、以下、考えていく。
地方の農村に人がいなくなり、農業を継ぐ人がいなくなり、農地をまとめて大規模農業を進めざるを得なくなっている。しかし斜面の多い中山間地では、田畑の1枚1枚が狭く、効率よく大規模に生産することができない。このため、耕作放棄地が増えている。
しかし、中山間地は日本の農地の4割、コメ生産の3割を担う。もし中山間地の食料生産が崩壊してしまうと、平地の大規模農業が頑張っても十分な食料を作れなくなる恐れがある。中山間地での食料生産を何とか維持する必要がある。しかし。
昔は田舎でも工場が近くにできたりして、兼業農家として生活していけた。小規模な田畑を維持しながら、サラリーマンとしての稼ぎを中心にして生活することができた。半農半Xを実践していたから、中山間地の農業は何とか維持できていたのだと言える。しかし。
田舎でろくな仕事が見つからない、という状態になって久しい。若い人は都会に出て仕事を探すようになった。いったん都会で就職してしまえば、もう田舎には戻ってこない。田舎から人がいなくなり、中山間地は高齢者ばかりになってしまった。しかも農業だけで暮らすのは、中山間地では厳しい。
結果、中山間地から人がいなくなり、崩壊寸前となっている。「効率の悪い場所なんだから崩壊して当然、農業は平地で行えばよい」という意見の人も少なくない。しかし物事はそう単純にいかない。中山間地は水害と獣害から都市や平野部の農業を守ってくれていた最前線だったからだ。
中山間地は山と接し、山や河川を管理し、草刈りを怠らないことで水害と獣害に対して戦ってくれていた。中山間地がこの二つの災害を引き受けてくれていたことで、平野部の農業は獣害や水害に悩まされずに済み、都会の人もそれらを知らずに暮らせていた。しかし、中山間地が崩壊したら。
知らぬ間に山崩れが起き、河川が土砂で埋まり、ある日決壊して下流に大規模な水害が起きかねない。また、中山間地に人がいなくなれば、平野部に獣たちが直接襲うようになるだろう。クマ、シカ、イノシシ、サルたちの攻撃を、平野部の農業と都会民が味わう目に遭う。
そうなれば、大規模農業で効率よく生産できると思われていた平野部も、無事に済まない恐れがある。せっかく実ったコメを、シカやイノシシに散々食べられる可能性がある。しかも大規模農業で人が少ないから、獣たちに多勢に無勢。しかも今年のようにクマが出没したら、恐くて田畑に行けなくなる。
中山間地を崩壊させれば、平野部農業も崩壊し、日本の食料安全保障は非常に危うくなる。中山間地での農業生産を維持することは、平野部の農業の効率性を守り、都市に住む人々を獣害や水害から守る重要な対策であると言える。しかし中山間地で暮らすには。
人がいなくなりすぎている。狭い農地しかない中山間地では、十分に稼げない。稼げないから都会に出て人がいなくなり、人がいないから獣害や水害も防ぎきれなくなり、だから中山間地から逃げるように都会に移り住む、という悪循環が起きている。
そのためには、中山間地に人を増やす必要がある。中山間地で人を増やすには、農家だけを増やそうとするのではなく、農業以外の仕事で生活する「非農家」を増やす必要がある。非農家の人口もあわせて増えなければ、中山間地は維持できない。
なぜなら、人が住み続けるには、ガソリンスタンド、スーパー、学校、病院などのインフラが必要。これらが失われると生活ができなくなるので、都会に移り住まざるを得なくなる。都会から農地に「通勤」するスタイルをとろうとしても、もし中山間地に人がいなければ。
道路ががけ崩れでふさがった時、工事して直してくれと頼んでも、その向こうで農地を持っている農家の一票しかない。たった一票のために政治家は動いてくれない。政治を動かすためには人数が必要。中山間地に住む人口が増える必要がある。
中山間地で人が増えるには、農業以外でも稼げる必要がある。つまり、中山間地で農業以外の職業の人が増える必要がある。そのためには、地方に本社がある企業が増える必要がある。しかし、今の日本の企業は、本社が東京に一極集中している。なぜか。それについて、堺屋太一氏が国会で証言している。
「官僚が猛烈な勢いで東京一極集中を無理やり進めてまいりました。そのやり方というのは、まず、産業、経済の中枢管理機能を全部東京に移す。そのために、全国的な産業団体の事務局は東京都に置かなければならない、二十三区に置かなければならないという指導を徹底しました」(平成15年2月26日)
業界団体の事務局を東京に置かざるを得なくなったために、その団体の長になった人は、週に3回くらい東京に呼び出されるようになってしまった。それではたまらないので、大企業の社長はみな、本社を東京に置くようになってしまった。東京にいろんな仕事が集中してしまった原因。
ならば、今度は逆に「業界団体の事務局は東京以外に設置しなければならない」という指導を徹底すればよいように思う。すると多くの企業が、創業地に本社を構えるようになるだろう。本社を地方に置くようになれば、その地方で仕事が増える。そうなれば、中山間地の人も仕事を得やすくなる。
農家も兼業で稼ぎやすくなり、中山間地に人口を維持しやすくなるだろう。地方に人口を分散させるのに、「業界団体の事務局を東京外に移す」というのは、結構有効な方法だと思う。官僚は、必要とあれば地方に出張するようにすればよい。あるいは地方自治体に任せてしまう。
日本の地方に人がどんどんいなくなり、中山間地が崩壊しつつある大きな原因の一つ(ほかにもいろいろあるが)が、「業界団体の事務局が東京に集中」があるように思う。これが日本の食料安全保障をも危うくしていることを自覚し、まずはここから改革を進めるのは一つの手だと考えている。
