子育てにマニュアルはムリだがトラブルシューティングなら可能

子育てにマニュアルは作れないけど「トラブルシューティング」は作れると考えている。これをやると失敗するよ、とか、こういう事態が起きたらこれを試してみるのはアリ、という失敗事例集。
私は大学で研究室配属になったとき、高速液体クロマトグラフィーという機械を使って研究することに。しかし。

先輩に教えてもらっても意味分からん、取扱説明書を読んでもチンプンカンプン。どないしたらええんや!と頭抱えていたら、先生から「高速液体クロマトグラフィーの実際」という本を渡された。いろんなうまくいかないケースが紹介され、それぞれのトラブルをどう解決するかがまとめられてる本。

こういうトラブルの時はこれとあれとそれの原因である可能性があるよ、原因の突き止め方はこうで、解消法はそれぞれこうして・・・と、この機械を使う上で起きがちなトラブルが網羅され、どう対処したらよいか分かるようになっていた。この本のおかげで機械の仕組みが理解できた。

私はこの本との出会いですごいインスピレーションを得た。「そうか!子育てで僕はマニュアルを探し続けてきたけど、そんな夢みたいなものを探すより、トラブルシューティング集なら作れるんじゃないか!?」
私はその時、塾を始めて4年になっていたけれど、子どもたちをどう指導したものか困っていた。

いろんな本を読み、子どもはこう育てたらいい、というマニュアルを探したけど、ピンとくるものがない。現実には役に立たなかった。子どもには個性があるし、その時々で見せる顔も性質も変わる。マニュアルが教える反応通りになることがまずない。子育てにマニュアルは不可能なのでは?と感じていた。

子どもの指導の名人である父にコツを聞いたところ、「臨機応変、子どもをよく観察しろ」。いやそれでうまくいったら世話ないて!というか、どうやったら臨機応変できるねん!観察するってどうするねん!と、父のアドバイスは、当時の私には抽象的過ぎてピンとこなかった。

しかし、「トラブルシューティングを作ればいい」という着想が、大きなブレークスルーになった。当時読んだ本の中に、相部和夫氏の「問題児は問題の親がつくる」「非行の火種は3歳にはじまる」がある。相部氏は少年院でカウンセリングをしていた人物。だからいわば「子育ての失敗」の専門家。

だから当初、「失敗なんか学んでどうするねん、成功しなきゃ意味ないんだから成功から学ばなきゃ」と思っていたのだけど、本を読み進むにつれ、「そうか!子どもの意欲を損なうのはこういうメカニズムか!だとしたらこう手を打てばいいじゃないか!」という仮説がどんどん湧いてきた。

これは、成功本を読んでいるときには全く起きなかった現象だった。成功本は「こうした、そしたらうまくいった」と書いてあるだけで、子どものメカニズムがさっぱり分からない。実際、同じことを他の子に施しても全くうまくいかない。子どもも違うし、実践者の私も著者と違うし。何もかも違うから。

でも不思議なことに、失敗には不思議の失敗がない。野村監督の「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」に通じる。必ず理由がある。そして理由さえ突き止められれば、どう対処すればよいかの仮説も見当つく。失敗には不思議がない、という不思議な発見だった。

そこからは、うまくいった子育て本なんか放置して、うまくいかなかった失敗事例にどう立ち向かったか、という本を読み漁るようになった。若い頃読んで大いに参考になったのは、マンガ「家栽の人」。恵まれない家庭だけでなく、恵まれた家庭なのに子どもが荒れるケースも描かれる。そして。

主人公の桑田判事やその仲間たちが、子どもの抱えている課題をどう突き止め、それに対処していったかが描かれている。それらを読むことで、子どもの心の仕組みがだんだんと分かってきた。
また、私自身が重ねる失敗もデータとして蓄積していった。「あの時、どうすればよかったのか?」

失敗事例をたくさん集め、それぞれにどう対処するとよかったかもなのか、仮説を考える。そうしたトラブルシューティング集を作る作業をしているうちに、父のいう「子どもを観察して臨機応変」が次第にできるようになってきた。

いろんな失敗事例が頭に入ってきたので、目の前の子どもがどんな課題を抱えているのか、頭の中の失敗事例から、「これに近いかも」という見当がついた。で、その見当が妥当かどうかの視点で観察し、違えば他の失敗事例と比較する、という形で、観察する着眼点を持つことができた。

また、「私はまだまだだから、知らない失敗事例のケースかもしれない」と謙虚になることもでき、知ってる失敗事例との違いは何か、という観察もできるようになってきた。すると、「知ってる失敗事例のこれに似てるけど、ここが違う。そのちがいも加味すると、解決策はこのあたりかも」と、

臨機応変な仮説が思い浮かぶようになってきた。トラブルシューティング集を読んだおかげで、高額機械の扱いも怖くなくなったように、子育てでも、失敗事例をたくさん学ぶことでどう対処するとおおよそよさそうか見当がつき、仮説が思い浮かぶようになった。

わたしが書いた子育て本がQ&A式になっているのはそのため。子育てのマニュアルではなくトラブルシューティング集。こういう困ったことが起きたらこれとあれが原因の可能性があるから、だとしたらこうしてみると解決するかも、という仮説集。

受験熱に煽られた親御さんの相談に乗ったことが何度もあるけど、びっくりするくらい「成功本」はかり読んでる。しかも皮肉なことに、成功本が勧めてる親の対応は、失敗本が紹介してる「やったらアカン悪い事例」の典型のことが多い。なんでよりによってそんなの勧めるねん!と思う。

もちろん、うまくいくケースというのはある。でもそれは「守株」の話に似ている。ウサギが全速力で切り株に激突して死んだのを見た農家の一人が、耕作することもやめてずっと切り株を見守ってウサギが再び激突するのを待っていた、という話。成功本の勧める道は、偶然に近い確率の隘路(狭い道)。

そして失敗本には、切り株をじっと見つめていても一向にウサギは激突せず、家計は崩壊してとんでもないことになった事例が山ほど紹介されている。失敗本を読めば、成功本が勧める方法が偶然に支えられていること、むしろひどいことになる確率の高さを知ることができる。

子育ては自転車の運転に似ている。自転車で走れるのは、地面に対して垂直に車体が立っているから。で、成功本はいわば「自転車を地面に対してまっすぐ垂直に立てたら倒れない」と言ってるようなもの。ところが、自転車は必ず右に左に傾き、倒れようとする。まっすぐになんか立ちやしない。

で、どうするかというと、前に進みながらハンドルを右に左に動かしながら、倒れそうになるのを補正し続けて、自転車は「おおよそ」まっすぐ立つことが、できる仕組み。つまり、自転車は常に倒れようとしてる。それをカバーするようにハンドルを動かすから倒れずに済んでるだけ。

つまり、自転車の運転は常に「倒れそうになる」という失敗の連続。それにしても手当てをすることで何とか倒れずに済んでるだけ。子育てもそれと同じで、常に失敗しながら、それに手当てを続けることでなんとかかんとか立ち続けてるだけ。完ぺきにまっすぐ垂直な自転車があり得ないように、

子育ても、常にフラフラ左右に揺れながら、常に倒れそうになる連続の中で、手当てをして立った状態を維持してる。つまり、子育ては失敗から学ぶしか方法がないものなのかもしれない。失敗が前提の営みなのではないかと思う。

自転車に乗れるようになるには「まずは転んでみるのも頭に入れた上で、まずはやってみろ」。子育ても、いろんな失敗を重ねて、でも致命的な失敗をおかさないように気をつけながら手当てをし、左右に揺れながら補正しつつ「おおよそまっすぐ進む」ことができるもの。そういうものではないか。

子育ては、成功から学ぶより、はるかに失敗から学ぶほうが益があるように思う。成功からは成功しか学べない。成功の道がどれだけの幅なのかも分からない。しかし失敗を学ぶと、成功という狭い道の輪郭が浮き彫りになる。失敗が輪郭の外側を埋めてくれる。これは成功だけ学ぶとできないこと。

失敗を学んでいると、「ここまではまあ大丈夫」というのもわかってくる。子ども自体の強さというのも見えてくる。大人の至らないところを子どもが補ってくれる強さがあることもわかってくる。親がいらん手出しするからうまくいかないのであって、子どもの邪魔をしちゃダメだというのもわかってくる。

失敗の少なからずが「親のよけいな手出し」が原因であることが、失敗事例から見えてくる。いかに手を抜くかというのも子育てでは重要なことが、失敗事例から学べる。根っこを常にいじられる植物は枯れてしまうのに似ている。

子育てをされてる方、成功本を読むのはそこそこにして、失敗本を読むことをオススメする。ありゃま!と驚く発見があると思う。人間は成功からより失敗から多くを学べる、不思議な生き物。うまく操作できなくて困ってる人を見ると「ああしたらいいのに」と思って「貸してみ」と言いたくなるのと同じ。

人間は不思議なことに、失敗事例を見ると「これが原因なのでは?だとしたらこうした方がよいのでは?」と、仮説がどんどん湧いてくる仕組みになっているらしい。しかもその仮説創造力は、応用が利く。いろんなケースに応用力を発揮できるようになる。
失敗本、オススメ。

オススメの失敗本をいくつか紹介しておく。
相部和夫「問題児は問題の親がつくる」、「非行の火種は3歳にはじまる」
A.S.ニイル「問題の親」、「問題のこども」
毛利甚八・魚戸おさむ「家栽の人」
齊藤彩「母という呪縛 娘という牢獄」
押川剛・鈴木マサカズ「『子どもを殺してください』という親たち」
成田奈緒子「高学歴親という病」

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