高校3年生
2004年1月
「チケット取れたよ!!」
幼馴染から突然のメール。
まめな彼女は通学路途中にあるコンビニで毎日、キャンセルチケットをチェックしていたらしい。
降って湧いたような出来事に震え、気の利いた返信がすぐに出来なかった。
大学受験を控え、プレッシャーと不安に押しつぶされそうな私にとって一筋の光。
憧れのあのアーティストを自分の目で見られる日まで、頑張らないといけない目標ができた。
願掛けをするかの如く、MDに録音した彼女の最新アルバムを繰り返し聴く毎日。
結果が出るまで後一ヶ月。
2004年2月20日
ここ一週間、押し寄せる虚しさに襲われ、ベッドから出られない。
「誰にも会いたくない。」
生まれて初めての感情。
自分を否定されるかのような「不合格」の文字。
「何にでもなれる」と思っていた自分の甘さを悔やんでも悔やみ切れなかった。
2004年2月22日
彼女のライブが公演中止になった。
どうやら食中毒らしい。
自分の体調より申し訳なさでうなだれているのではないか?
戦っている彼女を思うと、殻に閉じこもっている自分を恥じた。
生活拠点がベッドの上から地上に戻った。
2004年2月25日
ライブを翌日に控え、作戦会議。
初めて参加する「アーティストのライブ」
何処にあるか分からない、大都会にそびえる「フェスティバルホール」
決して粗相があってはならない。
そしてライブに華を添えようと、彼女の曲をモチーフに画用紙で蝶々の形をした仮面を製作した。
箸が転がっても楽しい二人。
怖いくらい周りが見えていなかった。
2004年2月26日昼
彼女の体調は大丈夫だろうか?
ライブの雰囲気についていけるだろうか?
開演までにフェスティバルホールに辿り着けるのだろうか?
答えのない疑問を抱えながら、家を出る。
ファニーなバイキングが描かれた黒い古着のスウェットと真っ赤なタータンチェックの古着のプリーツスカート。
一軍の服に身を包み、早歩きで駅に向かった。
2004年2月26日夕方
地上に出ると予想を遥かに超えるビルの数。
未だ見ぬフェスティバルホールを探す長い旅になりそうな予感に軽く絶望。
地図を頼りに歩き出した。
一体、南はどっちなのか?
橋を渡ると列がなされている建物があった。
ビルの館名板を確認。
40分かけゴールに辿り着いた。
係の方に促され、列に加わった。
一体、この列は何なのか?
並ぶこと20分。
列はツアーグッズの販売所に続いていた。
心の準備ができていない私たちは、頭が真っ白になった。
会場へ辿り着くことに支配され「何のツアーグッズを買うか?」予習できていない。
前へ前へと進みながら、小声で会議を重ねる。
普段使いしたら確実にお洒落だと思われるであろう、Tシャツ
なんてことないシルバーのガラケーに彩りと遊び心を加える、携帯ストラップ
部屋のお洒落偏差値が70以上になること間違い無い、ぬいぐるみやフィギュア
喉から手が出るほど欲しいものばかりだ。
吟味に吟味を重ねた結果、同じ色のTシャツ(ナミ)とツアーバックを購入し、会場を後にした。
開演までサーカスの一輪車くらい、座面が高いカウンターチェアがあるお洒落な喫茶店で、指3本分くらいの幅しかない細いグラスに注がれたオレンジジュースを飲み、緊張をほぐす。
アルバイトの時給より高い800円のオレンジジュースだった。
2004年2月26日夜
憧れの彼女は紛れもなく存在していた。
古民家の階段くらい急なフェスティバルホールの一番後ろは立つのも怖かったが、そんなことを忘れるくらい、無我夢中。
冒頭「端から端まで、前から後ろまで、1階から2階まで、一人一人に届けます!」と宣言した彼女の有言実行力に圧倒されっぱなしだった。
テレビで観て感動しCDショップに駆け込んだ、あの曲。
誕生日プレゼントで買ってもらった、あの曲。
昼過ぎの教室から聞こえてきた歌詞を疑似体験した、あの曲。
夏期講習の前に願いを込めて聴いていた、あの曲。
受験会場からの帰り道、夕暮れの海を見つめて聴いた、あの曲。
日常で流れていた曲たちが、目の前で惜しげもなく披露される。
長湯しているくらい、身体も心も熱くポワッとしている。
誰かに蓋をしてもらわないと、いつまでもアドレナリンが出続けるのではないか?心配になった。
退場前、アンケート用紙にメッセージを書いた。
「行きたかった大学に不合格で毎日落ち込んでいたけれど、今日のライブで元気をもらえました。ありがとう!明日は卒業式です。」
出番がなかった仮面。
今でもライブに行くたび思い出し、私たちの笑いの十八番だ。
蝶々結びと蝶々と恋心をトリプルミーニングで表現する名曲
