見出し画像

困ったとき、人はどう動けばいいのか——自分アジェンダ®という考え方|2020年9月20日、第2回 学問の大衆化シンポジウム発表

「自分ゴトのリーダーシップ」を実践する4つのステップ

2020年9月20日、第2回 学問の大衆化シンポジウムでお話しした内容をもとに書いています。


この記事を読む前にひとこと
この記事は、「自分アジェンダ®」というリーダーシップ研究のフレームワーク(考え方のプロセス)を、できるだけわかりやすくご紹介することを目的としています。 具体的なイメージを持っていただくために、職場のパワハラ場面を「事例のひとつ」として取り上げていますが、パワハラそのものを論じる記事ではありません。自分アジェンダ®は、職場の困りごとに限らず、人生のあらゆる場面で使える考え方です。パワハラに関心のある方も、そうでない方も、ぜひ「自分ならどう動くか」という視点で読んでいただければと思います。


はじめに——「逃げ場がない」と感じたことはありますか?

職場で無視される。ランチに呼ばれない。上司に「後で」と言われ続けて、結局何も教えてもらえない。

そんな経験、あるいは「もしかしたら自分も……」と感じたことはないでしょうか。

2020年、わたしはハラスメントを行動科学の視点から分析した書籍に関わりました。そこには6つの職場ストーリーが登場します。今日はその中のひとつを入口に、「困ったとき、自分はどう動けばいいのか」を一緒に考えてみたいと思います。

難しい理論ではありません。ちょっとした考え方の転換で、動けるようになるかもしれない——そんなお話です。


松倉さんのストーリー

育児休暇から職場に戻った松倉さん(27歳)。地方銀行のテラーとして、意気揚々と復帰しました。

ところが、職場は変わっていました。窓口でも積極的な営業活動が求められるようになっていたのです。復帰したばかりで営業経験のない松倉さんは、課長からバックアップ業務を命じられます。

松倉さんは一生懸命でした。商品を自発的に学ぼうとし、上司や先輩に教えを請いました。でも、課長は「新人じゃないんだよ」「後で」と言うばかり。主任は「自分の仕事をしてくれるかな」とそっけない。保育園に預けた子どもが熱を出せば仕事を途中で抜けざるをえない。能力はなかなか伸びず、周囲からは少しずつ疎まれるようになっていきました。

そしてある日——課の全員が課長に誘われてランチに出かけ、楽しそうに戻ってくる場面を、ひとりデスクで目撃してしまいます。

松倉さんはショックで早退。課長の一言は「あ、そう」だけでした。


これはパワハラなのか?

「でも、松倉さんも仕事が中途半端だったのでは?」と感じた方もいるかもしれません。

厚労省によれば、パワハラが成立するには3つの要件があるとされています。

ひとつめは「優越的な関係を背景とする」こと。課長は上司の立場にあります。2つ目は「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」。松倉さんの能力や意欲に対して、本来必要な指導や支援がほとんど提供されていませんでした。3つ目は「身体的または精神的な苦痛を与えること、あるいは就業環境を害すること」。松倉さんはショックで早退し、仕事のパフォーマンスも低下しています。

3つの要件が揃っているとも考えられる状況です。職場の生産性という観点からも、組織全体が損をしているかもしれません。

でも、ここで一番大切にしたいのは、もっともつらい思いをしているのは、松倉さん本人だということです。


「被害者なのに、なぜ自分が動かなければならないの?」

この問いは、とても正当だと思います。

悪いのは環境であり、適切な指導をしなかった上司であり、無関心だった同僚たちかもしれません。

ただ、ここで一度立ち止まって考えてみると——「だれかが変わるのを待っていたら、自分の人生はどうなるだろう?」という問いが浮かんできます。

環境が変わるのを待ち続けることは、自分の時間と心のエネルギーを消耗し続けることでもあるかもしれません。

だとすれば、自分が動くことで、自分が望む状況に少しでも近づけないかを考えることに、意味があるのではないでしょうか。

これが「自分ゴトのリーダーシップ」という考え方の出発点です。リーダーシップというと難しく聞こえますが、ここでいうのは「自分の人生を、自分で動かしてみること」くらいの意味です。

その具体的な方法が、自分アジェンダ®の4つのステップです。


ステップ1:「安心している未来の自分」を思い描く

まず最初にすることは、「こうなっていたらいいな」という未来のイメージを言葉にしてみることです。

ポイントは、今の延長線で考えないことです。「今の状況がましになれば……」ではなく、もっと自由に、「わたしが○○である状態」という肯定的な表現で描いてみます。

松倉さんの場合なら、「わたしが、窓口営業を含むテラー業務をしっかりこなしている状態」といったイメージです。

「そんなの無理」と思っても大丈夫です。最初は非現実的に感じるくらいでかまわないかもしれません。大切なのは、「どこに向かいたいのか」を自分の言葉で持つことだと思います。


ステップ2:周囲360°から「支援」を探す

次に、その未来に向かうために力になってくれそうなものを、できるだけたくさん探します。

「支援」というのは、上司や先輩だけではありません。商品カタログ、参考になる本、同じ悩みを持つ人のコミュニティ、家族の励まし、昔お世話になった先生、好きなYouTuberの言葉——なんでもよいのです。

松倉さんの場合、能力を高める支援としては「商品カタログ」「模範となる先輩テラー」「行員研修の資料」などが挙げられるかもしれません。意欲を支えてくれる支援としては「家族」「友人」「子どもの笑顔」もあるでしょう。

360°というのは、「人だけでなく」「日本の中だけでなく」「今だけでなく、過去や未来からも」探してみてください、という意味です。意外なところに、あなたのエネルギーを引き出してくれるものがあるかもしれません。


ステップ3:自分の「資源」を選ぶ

支援を受けるためには、自分の側からも何かを差し出すことが必要になることがあります。ここで言う「資源」とは、お金や物だけではありません。

「資源」という言葉について
「資源」という言葉には、「力で相手を動かす」といった、少し嫌なイメージを持つ方もいるかもしれません。でも、ここで使っている「資源」は、リーダーシップ研究における「パワー理論」をもとにした考え方です。 パワー理論でいうパワーとは、支配や強制の力だけを指しているわけではありません。誠実さ、専門性、人脈、信頼、情報——そういった、人と人がつながる上で自然と生まれるものもすべて含まれます。自分アジェンダ®では、そうしたパワー理論の考え方を、日常の中でより使いやすい形に工夫したものを「資源」と呼んでいます。

誠実さ学ぼうとする姿勢一所懸命に取り組む様子日頃の関係性——そういったものも、立派な資源になりえます。

松倉さんが持っていた資源として考えられるのは、「商品を覚えたいという意欲」「一所懸命取り組む姿勢」「日頃の人間関係(子育て中の先輩との共感など)」といったものがあるかもしれません。

「自分には何もない」と感じるとき、実は自分の資源に気づいていないだけかもしれない——そうした可能性も、頭の片隅に置いておいていただけると良いと思います。


ステップ4:試行錯誤しながら動いてみる

最後のステップは、「うまくいくかどうかわからないけれど、とにかく動いてみる」ことです。

ここが一番大切で、一番難しいところかもしれません。

実際には、一度動いてもうまくいかないことがあるでしょう。後戻りすることもあるでしょう。それは当然のことで、むしろ「そういうものだ」と最初から思っておく方が続けやすいかもしれません。

クネクネした道でも、少しずつ前に進んでいれば、いつか景色が変わる瞬間がくるかもしれない——これが自分アジェンダ®の考え方のひとつです。

松倉さんであれば、たとえば「育児中の先輩に共感を示しながら、テラー業務のコツをさりげなく聞いてみる」という小さな行動から始めることができるかもしれません。


「自分で動く」は、自分を責めることではない

ここまで読んで、「結局、被害者が努力しなければならないのか」と感じた方もいるかもしれません。

そのモヤモヤは、大切だと思います。

自分アジェンダ®は、「あなたが悪い」と言いたいのではありません。環境を変えようとする法的な対応も、上司への申し立ても、もちろん選択肢に入ります。

ただ、それらと並行して、「自分が動くことで、自分の望む方向に少しでも近づけないか」を探ることは、自分を責めることとは違うのではないかと考えています。

自分を傷つけた状況を「自分ゴト」にするのではなく、自分の未来を「自分ゴト」にする。

そのためのツールとして、自分アジェンダ®を使っていただけたら、という思いでこの考え方を広めています。


まとめ:4つのステップをもう一度

困ったとき、立ち止まって試してみてほしいことをまとめます。

Step 1 :「わたしが○○である状態」という未来のイメージを言葉にしてみる

Step 2 :その状態に近づくために、周囲360°から支援を探してみる

Step 3 :自分が持っている資源(誠実さ・意欲・関係性など)を確認してみる

Step 4 :小さくていいから、とにかく動いてみる。失敗しても、また試す

うまくいかなくても、諦めなかった人が少しずつ前に進んでいく——そういうことが、あるかもしれないと信じています。



おわりに

パワハラという言葉は、今では多くの人が知っています。でも「知っている」ことと「その状況から動き出せる」ことの間には、大きな距離があると感じています。

自分アジェンダ®は、その距離を少し縮めるための考え方でありたいと思っています。

「わたしはどう動くか」——その問いを、ぜひ一度、自分自身に向けてみてください。


※自分アジェンダ®はAMI Management International, LLC.が管理する登録商標です。

※本記事は、2020年9月20日「第2回 学問の大衆化シンポジウム 社会参加型実践塾」での発表をもとに、一般の読者向けに再構成したものです。

参考書籍:「ハラスメントを行動科学で考えてみました。」(網あづさ、藤原徳子、波戸岡光太 共著)


#自分アジェンダ #パワハラ #職場の悩み #リーダーシップ #行動科学 #働き方 #ハラスメント #職場環境 #自己成長 #育児と仕事 #ワーキングマザー #学問の大衆化 #状況対応リーダーシップ #自分ゴト #キャリア #メンタルヘルス #職場復帰 #自分を動かす #モヤモヤ解消 #note

いいなと思ったら応援しよう!

新学問のすゝめ推進会議 よろしければサポートをお願いします。いただいたサポート費は、今後の活動に使わせていただきます。 よろしくお願いします。