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社会起業家のリーダーシップとは何か――シニア世代の可能性を考える

少子高齢化、地域の過疎化、若者の孤立、途上国の貧困……。こうした社会問題に、行政でも大企業でもなく、一人の市民として向き合い、自ら解決に乗り出す人たちがいます。「社会起業家」と呼ばれる存在です。

本稿でご紹介するのは、リーダーシップ研究者・橋本壽之氏による論文「社会起業家とリーダーシップ―シニアの可能性を探る―」(『支援対話研究』第4号、2017年)です。「リーダーシップとは何か」「社会を変えるのはどんな人か」という問いに、具体的な事例と理論の両面から丁寧に向き合った論文です。

『支援対話研究』第4号、2017年

社会起業家が生まれた背景

社会起業家という存在が注目されるようになったのは、1980年代のイギリスに端を発します。財政再建を優先したサッチャー政権のもとで福祉予算が削られ、社会的弱者へのしわ寄せが広がった。そこに立ち上がったのが、行政に代わって社会問題の解決をビジネスとして担おうとする人たちでした。

日本においても同様の流れが生まれています。経済成長の鈍化とともに税収が減り、行政だけでは対応しきれない問題が増えてきた。一方で、若い世代を中心に「利益を追求すれば世の中はうまくいく」という価値観への疑問が広がり、「稼ぐこと」よりも「社会に意味のある仕事をすること」を優先する人たちが現れてきました。

社会起業家たちを突き動かすのは、給料や役職ではありません。「働きがい」「人間としての成長」「社会への貢献」といった、目に見えない報酬です。論文はこれを「ボランタリー経済」の復活と位置づけています。


12人の社会起業家が示すもの

論文では、農業・地域再生・教育・途上国支援など多様な分野で活動する12人の事例が紹介されています。

農業の分野では、後継者のいない農家とホームレスをつなぐ仕組みを作った小島希世子さん、「みやじ豚」というブランドを立ち上げ農業を「かっこよくて感動があって稼げる3K産業」にしようとした宮治勇輔さんの姿が描かれます。地域再生では、東日本大震災の被災地で長期的な視点に立ち、地元の人たちが主役になれる学習支援の場を作った今村久美さん。教育分野では、学校と社会の断絶に疑問を持ち、さまざまな分野で活躍する大人の生き方に学生が触れる機会を作ったしぶやゆかりさん。途上国支援では、現地の経済構造そのものを変えるために、バングラデシュでバッグの製造工場を立ち上げた山口絵理子さんの取り組みも紹介されます。

これらの事例に共通するのは、「誰かに頼まれたわけではない」という点です。社会のゆがみに自ら出会い、「国ができないなら、実現するのは私しかいない」という内側からの動機によって動き始めている。そこに、社会起業家という存在の本質があります。


従来のリーダーシップとは何が違うのか

橋本氏がこの論文で明らかにしようとしたのは、こうした社会起業家たちが発揮しているリーダーシップの性質です。

一般的な組織における「マネージャー型」のリーダーシップは、確立された仕組みの中でポジションの権限を使い、人を動かすものです。「いかに」「いつ」を問い、現状を維持・管理し、結果を追う。それ自体は必要なことですが、社会起業家たちはそれとはまったく異なる動き方をしています。

社会起業家たちは組織も資金も権限も持たない状態から出発します。それでも多くの協力者や顧客を集め、社会を動かしていく。この違いはどこから来るのか。論文はその核心を「ネットワーク型リーダーシップ」という概念で説明します。

ビジョンや感動、揺るぎない信念が周囲の人々の共感を呼び、フラットな人間関係の中で自然と広がっていく。権力ではなく「個人的な影響力(パーソナル・パワー)」によって人が動く、という構造です。駒崎弘樹さんの言葉が印象的です。「ロジックが正しくても、人はロジックでは動かない。伝わる言葉を吐かないと誰も動いてくれない」。

また、行動を起こす根本的な動機についても、論文はマズローの欲求階梯を用いて丁寧に分析しています。生理的欲求・安全欲求がある程度満たされた世代では、欲求の重心が自然と「自己実現欲求」へと移行する。社会起業家たちの多くは「食べるため以上」の意味を仕事に求めており、その欲求の段階が行動の源泉になっています。さらに論文は、この欲求階梯が世代をまたいで引き継がれていくという興味深い観察も示しています。


「自分事」として捉えること――自分アジェンダ®という視点

論文が特に重要な概念として取り上げているのが、「自分アジェンダ®」という考え方です。これは、リーダーシップ研究者・網あづさ氏が提唱する概念で、論文はその議論を丁寧に引用しながら社会起業家の行動を分析しています。

網氏は、人には二種類の「自分」があると述べます。ひとつは、他者と自分を切り離す「限定的な自分」。もうひとつは、他者の利益を自分の利益とし、他者の痛みを自分の痛みとして引き受ける「内包的な自分」です。そして、先の見えない現代においては、誰もが他者や環境の痛みを真剣に自分のものとして考え、漠然としていてもよいので「善き目標(自分アジェンダ®)」――使命、ビジョン、方向性――を持って行動することが求められると説きます。

社会起業家たちは明らかに「内包的な自分」として行動しています。しかしそれだけでなく、行政や他者に解決を委ねるのではなく、自ら動く「自律的な行動」を選ぶ点が、社会運動家や批評家とは異なります。論文はこの点を丁寧に整理し、「内包的な自分」をさらに三つに細分しています。社会問題に自ら解決策を見出す社会起業家、行政などへの働きかけにとどまる社会運動家、そして問題を指摘するだけで自らは動かない批評家――同じ「内包的な自分」であっても、その後の行動は大きく異なるというわけです。

他者の痛みを感じ、なおかつ自分がその解決に当たる――この組み合わせが、社会起業家という存在を際立たせています。網氏の概念を援用しながらこの構造を明示した点は、論文の重要な貢献のひとつといえるでしょう。

先が見えない時代だからこそ、一人ひとりが内側からの動機で行動することが求められる、という論文の主張は、社会起業家に限らず、働くすべての人へのメッセージとして読むこともできます。


シニア世代への問いかけ

論文の後半では、増加するシニア世代が社会起業家として活躍できるかどうかが論じられます。

知識・経験・スキルという点では、シニアには十分な素地があります。仕事への意欲も高く、就労を希望するシニアは着実に増えています。しかし著者は、それだけでは足りないと指摘します。長年「与えられた仕事を粛々とこなす」組織文化の中で培われた思考パターン――つまりマネージャー的な発想――は、社会起業には必ずしもなじまない。

必要なのは、蓄積した知識やスキルをいったん脇に置き、社会問題を自分事として捉え直す視点と、創造的にネットワークを築くリーダー的発想への転換だと論文は述べます。これは容易なことではありませんが、若い社会起業家たちが知識も資金も乏しい状態から出発してきたことを思えば、シニアにできないはずはないとも言えます。

そのために論文が提言するのは、大学などでの問題発見型の学び直しと、組織の枠を超えた多様な活動経験、すなわち「ジョブ(狭義の仕事)」から「ワーク(広義の仕事)」への転換です。現役時代から地域や異業種との接点を持ち、視野を広げておくことが、定年後の社会起業への土台になるという提言は、今まさに働き方を見直すすべての世代に響くものがあります。


読んでみてほしい方へ

定年後の過ごし方を考えている方、社会問題に関心はあるけれど「自分には何ができるか」と迷っている方、リーダーシップとは何かを改めて問い直したい方に、ぜひ手に取っていただきたい一本です。

「社会を変えるのは、気づいた人間が事業を起こすことだ」――そう語る社会起業家たちの言葉は、読む人の背中を静かに押してくれるはずです。

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